第三十五天 新技
「では、これからあなたに技を伝授します」
「はぁ・・・」
超大真面目な信に、明江はテンションが追いつかなかった。
晴れた砂浜は、春といってもかなり暑苦しい。近くの岩がなんかかっこよくて、上に鳥居があって、聖なる砂浜だッ!
四人でそばを食ってから、この聖なる砂浜にきて、竜牙と朝霧は松の木のかげで高みの見物をきめこんでいる。
「わたしだって、あなたに教えたくなんかありません。大聖天様からの頼みとあって、あなたごときにわざわざ教えてさしあげるんです。まじめにやってくれなければ困ります」
「はいは~い」
明江はやっぱりやる気がない。竜牙なら、本気だす。
信ははぁっと息をはいて失望した。しかしやはり大聖天様の指令である。果たさなければならない。
信はコートの胸元から、木の枝をとりだした。
「これは、我が白桜寺のご神木の枝です。自分のために使うつもりだったのですが・・・」
といいながら、ふぅと息をふきかけた。
神木は信のホーリーブレスで、きらきらとかがやいた。海の水面がここにもきたみたいだ。
木の枝はにょきにょきとのびて、二股にわれた。その二股の両方の先端に紐のはしっこをむすびつけて、つなげた。スリングショットであるッ!
「マニアックなッ!」
「わかりますか?これがなんであるか」
「その紐になんかのくっつけて、ひっぱって飛ばすやつでしょ?」
「ホゥ・・・なかなかの戦士ですね」
「映画で見た」
「映画?」
信の家にはテレビがない。
「知らないの?ダサッ」
「・・・ま、まあ、その映画とやらはいいとして、まずはもってみてください」
と信は聖なる神木の投擲器を明江に渡した。
「えっ!?こんなんで飛ぶのッ!?」
明江はうそだとおもった。なんてったって、超ひょろ長くて、小さな石ころさえ飛ばせそうになかったからだ。
しかし
「いいから、まずはもって、前にさしだしてください」
「はぁ?こうでいいの?」
と、前にだした刹那、ハァッと信が刀をふるった。
「ひっ!」
明江は悲鳴をあげた。刀が木の枝でとまっていた。刀を振る動作は明江には見えなくて、気づいたときには刀の切っ先が目の前にあったのだッ!
「このご神木は聖なるパワーであふれていて、私の気を練り合わせることによって、ハイパーな状態になっています。ご覧のとおりきれません」
「もうちょっと、マシな説明しなさいよッ!」
明江はマジギレ。しかし信は無視である。いや、説明はわかりやすい
「あなたが何者かにおっぱいされそうになったら、これをふりまわせば、ザコはぶち殺せるでしょう」
「はぁ・・・。で?・・・弾はどうすんの?」
「弾はその辺の石ころでかまわないません。それでもザコは楽勝」
信は石を拾ってわたした。
「では、あそこにとんでるとんびを落としてみてください」
「はぁ!?そんなことできるわけないでしょッ!」
「大丈夫です。あなたにもできます。大事なのはイメージです。飛んでる鳥に当てようとしてはいけません。弾がとんでいき、鳥にあたるのを強くイメージするんです」
「妄想?!」
「そうですね。さあ、弾をかまえて」
「うん」
明江は弾を紐にくくってひっぱった。ひょろ長い枝はよくしなって、すさまじいッ。このままはたかれても痛そう
「はい、妄想して」
「うん」
明江は目をとじて、暗黒の中で超妄想した。弾がぴゅーと飛んでって、鳥がぐぎゃああああああッ!っと鳴く
「はい、放って」
「え?目を閉じたままッ!?」
「それでもオーケー」
「はいッ!」
明江は手をはなしたッ!石ころはぴゅーと飛んでいって
「ぐぎゃあああああッ!」
鳥の悲鳴だッ!イメージどおりッ!
明江の妄想にご神木の聖なるパワーが合わさることにより、絶対不可避のスーパースナイパーッ!
「ええええええええッ!!!?!?」
鳥以上に声をあげたのは、明江だった。
「フッフッフ・・・」
と信はやってやったぜって顔してる
これこそが、白桜流、桜芽・桜一葉であるッ!
神木に力を借りて、術者の妄想を実現させる投擲法ッ!相手は必ず食らうッ!
本来は舞い散る桜の葉で練習するのだッ!
「わたしが当てたの?」
「ほかに誰がやるんです?」
「・・・信じられない・・・。竜牙~ッ!やったよぉッ!鳥、討ち取ったぁ!」
と、明江は手を振った。
「フン・・・」
と腕を組んで、砂交じりの草むらに寝そべっていた竜牙はニヤけた。
「あんなに喜んでますよ」
朝霧は正座してた。
「俺ならこなごなにしている」
「フフフ、竜牙ならそうでしょうね・・・。しかし、なんだかこちらもうれしくなってしまいますね」
「なにが?」
「その喜んでる姿が、なんだか純粋というかなんというか。かわいい?」
「ああん?てめぇ、あいつにほれたのか?」
「はぁ?そんなんじゃありませんよッ!」
朝霧はあわてた。そんな風に思って、完全に顔真っ赤。だが、恋ではないと思う。
「おっぱいしてくださいってたのんでこいよ。ハハハ!」
「いくら竜牙でも殺しますよ?」
「あん?やんのか?」
「すいませんでしたッ!」
はっとわれに返って、朝霧は土下座した。正座してたから楽だった。
「あとは練習あるのみですね」
「うん。あの・・・ありがとう」
明江はやっと感謝した。
「礼にはおよびません。わたしは頼まれただけですから」
「でも、わたしにできるかしら?こんなこと」
明江は不安そうな顔をした。魔を相手にうてるのかッ!なによりもだれよりも、自分自身がそれをやれるのか。命をとるということのことの重大さを今ここで初めて気づいた。
信はすぐにそれとわかった。そして、うっかり自分が金若の前ではザコだったことを思い出した。チビってしまったし、自分はもうダメかもしれないとちょっと思った。しかし心の信は首をふって弱気に打ち勝った。
「大丈夫ですよ。・・・私たちはただ、信じればいいんです。大聖天様をね」
信は笑いかけた。いつもクールな微笑みが、春の日差しをうけて、ちょっと暖かく見えたような気がした。




