第三十三天 じゃあ竜牙が死ねばよかったのか
「とりあえず、お茶でも飲んで落ち着きましょう」
朝霧は明江にカップを持たせて、空いた席にすわった。
わさびがぴりりときいて、そば茶がうまい。
店員には、百万円を渡してだまらせた。
「魔ってなんなの?魔がなんで悪なの?」
明江は泣き崩れ落ちた。
「魔はわれわれの、人類の敵です。なんで、と言われると伝えるのは難しいけれど、魔は悪ですよ」
朝霧は優しく言った。しかし明江はハッと顔をあげた。こいつも敵だッ!
「話し合いもせずに、なんで魔が悪だって言い切れるの?野蛮人ッ!」
「・・・まあ、落ち着きなさい。話し合いというのなら、まずはわたしたちと話し合いをするのがまともでしょ?かるがるしく悪口をあびせるもんじゃない」
「くっ!」
明江はこまった。
「竜牙は、身勝手で乱暴に見えるかもしれません。しかしそれでも間違ってはいない」
「そんなことないッ!」
「なぜ?」
朝霧はせまるようだ。
「え?だって、竜牙たちにおいつめられてるって言ってた人がいたもんっ!」
「ホゥ・・・誰が?」
「・・・えらい人」
「えらい人ですか。その人が言ったら、その通りなの?」
朝霧はやさしく言った。笑いかけそうな顔はおちつく
「だって、おいつめられてるって言ってるんだから、そうなんでしょ?違うの?」
「言えば、それは全部ほんとうのことなのかい?」
「・・・」
「それなら、魔は悪ですという、わたしたちの言う事もほんとうでなくちゃなりませんよ。フフフ」
「だって、えらい人が言ってたんだもん!政治家が言ってたんだもん!」
政治家と言われて、朝霧はわかった。
「なるほど。えらい人とは、小山田さんのことですか」
「・・・うん」
「あれは魔です」
「なんですってッ!?」
明江はびっくりした。
「あなたはうまいこと言われて、だまされたんですよ」
「そんなッ!?ひどいウソだわッ!」
「ウソじゃないよ。あなたはあの時、みにくい小山田をかばった。竜牙は足を止めましたね?あなたは背をむけていてわからなかったと思いますが、あなたのうしろで小山田は大口をあげて牙をたてていたんですよ」
「ッ!?」
「動けば殺すぞ。と竜牙をおどした。竜牙はそれにしたがった。そのあとなにがあったか、あなたも覚えがあるでしょう?」
「竜牙を攻撃した」
「竜牙はあなたが前にいても、あなたが殺される前にあいつをぶった切ることができたでしょう。でも、竜牙はあなたを心配して足を止めたんです。危ないのにね」
「どうしよ・・・、わたし竜牙にひどいこと言っちゃった」
明江はふるえた。
「竜牙にあやまらないとね。フフフ」
「竜牙怒ってるかな?」
「さあ、それはわからない。でも、きっと許してくれるよ。本気なら、とっくにぶっ殺されてるでしょうからね。フフフ」
涼しげに笑ってはいるが、なにげにこわいことだ
「・・・朝霧、ありがとうね」
「しっかりあやまるんですよ」
朝霧はほほえんだ
夜空は流れ星だった




