第三十二天 ケンカ
「おばちゃん、そば!」
「はいよっ」
竜牙たちはそばをすすった。三段重ねでお得な気分である。信は疲れているようなので、先に帰った。せっかくのそばなのにもったいない。
「まさか、金若までいるとは思いもよりませんでしたね」
そばを食いながら、朝霧が言った。やっとのクレバーで、話せるようになったテンションであった。
―――金若。北の海の王の側近だ。つまりは魔の中でもとにかく強いボスキャラである。
聖なる者たちには大聖天なるものが存在するが、魔なる者たちには存在しない。
彼は、中魔人クラスに過ぎない。しかし見下半次郎とは違って、中魔人クラスでも最上位。
へたをすれば、竜牙にも並ぶ実力の者たちである。だから、王の側近なのだ。
金若と言われれば、そりゃもう知らない人はいない有名人なのである。
「フン・・・次はぶったぎる。」
「フフフ。わたしもぶったぎります。影取三条をね・・・」
朝霧は冷たい笑いだった。殺し屋の目だ。
影取三条もまた、地獄から舞い戻ってきた恐ろしい奴ッ。朝霧は木っ端みじんぎりにするつもりでいた。しかし、二人とも逃げられてしまっては、うぉんうぉんとむかついてくるだけだった。
しかしそれ以上にくらい影が落ちていたのは、むかいに座っていた明江だった。
「おい・・・。そば食わねぇのか?」
竜牙は気楽に話しかけた。てめぇの分も食っちまうぞと思った。
しかし肩がぷるぷるぷるるんとふるえまくったッ!
「そばなんか食ってる場合かよッ!」
「ッ!!?!?!?!?!!?!?」
竜牙がおどろいた。朝霧もおどろいたッ。店員のおばちゃんも驚いて、庭のカメもひっくり返ったッ!マジすごい気迫ッ!
「どうしてッ!!!!!どうして、殺したのッ!!!!人間をどうして殺したのよッ!!!!!」
机がひっくりかえって、竜牙につかみかかった。そばが踊り狂ってやばくてもったいない。もうわけがわからない
「なんで殺されなきゃならなかったのよッ!」
「ああん?わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ!そもそもてめぇのせいで逃げられちまったんじゃねぇか!ぶっ殺すぞッ!」
「まあまあまあまあまあまあまあまあ」
おろろとするのは朝霧だ。いや、もっとてんぱってるのは店員か!?
「逃げられたからなんなの?人間切っていいわけ?ふざけないでよっ!」
「あれは魔だ!このボケカスがッ!」
「魔ってなによっ!だから魔って!」
「魔は悪だ!」
「どうして悪なのよっ!なんかしたの?港で集まってただけでしょっ!ライブじゃないのッ!?」
明江は止まらないッ!バカなのかっ!?死ぬ覚悟があるのか?!
「あばばばばばばばばばばばば」
朝霧はおっかなくて、もうテンパリストであった。しかし、そばが床にモンブランな店内の店員も負けてはいないッ!
「なにもしてないじゃない・・・」
と明江は悔しそうに隣のテーブルを叩き割った。
「フン・・・おれたち戦士は心に鎧を着ている。おまえの言葉はおれの心に響かないぜ」
竜牙も静かにいった。それは怒りとも悲しみともつかない得体のしれない小さな言葉だった。
「そばがまずくなった。持ち帰るぜ」
「は、はいよっ」
店員もびびりながら、そばを袋に包んだ。竜牙はそば袋を受け取った
「俺が気に入らねぇなら、とっとと帰れ」
ガラララララッピシャン




