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第百七十天 空間断裂ッ!朝霧、新たな歴史を紡ぐッ!!!

―――以前、神から聞いたことがあった。


 諸国を遊撃し数年、朝霧はとある海沿いの寒村へ足を踏み入れた。そこは地元民の風習が根強く残っており、信心深く奇妙な儀式を度々目にした。滞在して数日、朝霧は坂道を苦しそうにリアカーを引く老婆に出会った。代わりにリアカーを引きながら、腰が直角に折れた老婆と雑談をしている内に、朝霧はこれほど儀式を行うのはなぜかときいた。老婆は弓形な砂浜の真ん中にどっしりと聳えている島のせいだと言った。なんでも、恐ろしい神が住んでおり、島で不作法をすると、命を奪われると言う。特に、島をぐるりと回る場合は要注意で、必ず左回りに回らなければならないのだそうだ。

 朝霧の知り合いにそんな厳しいのはいなかったので、迷信を疑った。しかし実際に、行方不明になってしまった者が、この村に何人もいると聞いて、見過ごせなかった。この村は、その神に恐怖するあまり、奇妙な儀式が横行するようになったのだと言う。


 ・・・これはもしかして、魔の狡猾なる罠ッ!?

 朝霧はその考えに思い当たっていた。老婆を送るとさっそく島へと出向いた。

 海は青々として、砂浜には不似合いなほど大きくどっしり、威風堂々。だがしかし、邪臭は感じない。一向おだやかである。

 島へかかる橋を渡りきる。鳥居がある。そのすぐ先はもう突き当りで、島を一周するように小道が両側に伸びていた。岩壁に、必ず左へ進む事と注意書きがされていた。

 とりあえず、左へ回ってみた。そして、島の裏側で朝霧は足を止めた。

 拝殿が島にできた岩窟の中にあったが、そこにボロ布をまとった黒髪の男がいた。その体は漁で鍛え上げられた筋肉におおわれて、逞しい野生児を思わせた。しかし、野生児ではない。潮の香りに溶け込み漂う優しい聖なる風が、彼の身体から発せられていた。


「あなたが神ですか?」

 朝霧は尋ねた。

「そうだ。何か用か?」

 シブい声が、乱暴で投げやりだッ!

「こんな道端で何をなさっているんです?」

「あぁ、ちょっと潮風に愚痴っていたのさ」

「愚痴?」

「最近、村の奴らが俺を魔物かなんかだと言い始めやがってね。人の魂を食らうだのなんだのって、ひどい話なんだこれが」

 島の神は岩場に転がしていた酒瓶を手に取り、朝霧に進めた。朝霧はいただいた。

「すると、やったのはあなたではないんですか?」

「もちろんだ。俺は海の神だぜ?」

「ならば、村人が消えるって言うのは?」

「あぁ、入り口で見たろ?左回りに歩けっていう指示」

「ええ」

「あいつのせいさ。あれで多くの人間が左回りに歩く。人間もわずかながら電気を発しながら生きているからな。島を一周すれば、そこには微弱な電界が発生する。それが積もり積もって、強大なパワーになった頃、どこかの調子モンが逆に歩いて電気を逆流させちまう。逆流した右回りの電気と蓄積した左回りの電気がぶつかり、そこに次元の歪みが生じる。その調子モンは、次元の歪みに知らず知らず飲み込まれて、どこかに行っちまうって話さ」

「・・・なるほど、科学的な現象というわけですか」

「あぁ、まったくいい迷惑さ。この話だって、俺が知らぬ間に何かしてたのかと気になって、わざわざ他の島の神にまで聞きにいったんだぜ?」

「それは大変でしたね」

 朝霧は労わるような微笑みだ。

「こんな状態になっちまったんじゃ、俺が人間のふりしてそれを触れ回ったところで、誰も信じやしない。言ったところで、左回りを止めたりはしないだろうぜ。そもそも、その左回りって言う掟を作ったのが、自分達だってのによ」

「自分達?村人がですか?」

「そうなんだ。数十年前にちょっとした海難事故があってな。それは俺の怒りを買ったせいだなんて、インチキ占い師が言いやがって、それを鵜呑みにした奴らがそんな妙な掟を作ったってわけさ」

「なんですってッ!?それじゃ・・・」

「そ・・・自業自得ってやつさ」


―――・・・




 思い出×思い出ッ!朝霧は掛け合わせるッ!!!

 フルムーンスタブに、より一層の必殺成分を加えるッ!その秘訣が海の神から聞いた逆回転というわけだッ!!!!!

 だがしかしッ!フルムーンにより生み出された風は凄まじく、その逆風は朝霧の足を何十倍にも重くし、生まれた真空の刃が全身を切り裂いて、まるで台風の下、薔薇園を歩くような息苦しさととげとげしさだッ!朝霧はくじけそうになった。だがそれでも、歩みを止めるわけにはいかないッ!!!

 わたしは、中聖天なのだからッ!!!!!!


「うおおおおおおおおおおおッ!」

 朝霧は、風を切るッ!風を切るッ!切って切って切りまくるッ!

 意識が遠のきそうになる。つまずき、はるか彼方へ吹き飛ばされそうになるッ!だがしかしッ!決してめげずに、朝霧はスピードを落とさず逆に回り続けるッ!!!

 そして何周したかわからない。少しく朦朧とした意識の中で、朝霧は目をハッと見開いた。

 金明の姿がにじんで見える。初めは目がかすんでいるのかと思った。だがそれは違った。金明のわずかな動きがぶれているのだッ!時間のずれが起こっているッ!その時間のずれが、全て一つに重なり合わさって見えているのだッ!


―――電気の逆流で、異次元への扉が開いたッ!


 朝霧自身がどこの時間にいるのかわからなくなってくる。世界が全てにじんでスローに見える。

 時間の退行が始まっている。

 だがしかし・・・

「こ~~~~~しゃ~~~~~く~~~~~な~~~~~ッ!!!!!!!!!!!!!!!」

 金明のひどく間延びした声も聞こえてくる。時間が進んでもいる。

 時間の乱気流ッ!


 ここで攻撃をすればどうなるのか。それは、朝霧にもわからなかった。

 だがしかしッ!やるしかないッ!

 朝霧は足を止め、そっと背中へ刃を突き立てた。




―――その瞬間ッ!!!!


1980年 自転車に乗った42歳の親父が、朝釣りの帰りに正体不明の切り傷を負った


1986年 学校帰りの女子高生が、道に浮かぶ銀の輝きにUFOを見つけたと大騒ぎした


1992年 通りかかった車のサイドドアの半分から上がふきとんで、オープンカーになった


1997年 小さな子供が頬に軽い傷を負い、切り裂き犯がいると両親が大騒ぎした


2003年 素手タイマンで殴り合った学生の片方が、深い切り傷を負い、もう片方の人生が破滅した


2007年 車ごと海へ投身自殺を図った男の車のガラスが粉々に砕け、自殺を思いとどまった


2011年 海岸を放浪していた乞食が、見つけた銀のきらめきに神を見出した




 朝霧が刃を出したその場所に、様々な歴史があらたに刻まれたッ!

 時空を超えた斬撃ッ!あらゆる時間を超えて、一つの個体として認められた朝霧の刃は、いかなる状況、時間であれ、そこに刃として存在していた。その場所に未来永劫、絶対に存在する刃。そこにモノを置けば、たとえダイヤモンドであれ砕かれるッ!


―――フ ル ム ー ン ス タ ブ ・ オ ー バ ー デ ィ メ ン シ ョ ン


 真なる必殺技の爆誕




「うぎゃああああああああああああッ!」

 これを受けては、金明も死ぬしかなかったッ!

 さらにッ!

 朝霧の突風によるパワーが体内へと流れ込み、あのすべてを通さぬ金明の屈強なる肉体は塵となって消滅した。なんという威力だッ!




 立っていたのは朝霧だけだった。

 しかし、朝霧もまた命尽きようとしていた。あらたな必殺技による消耗は、生半可なものではなかった。

「未来へ・・・繋ぎましたよ。・・・竜牙」

 朝霧はぱたりと倒れた。


 固いアスファルトは灰色に冷たかった・・・

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