第百六十九天 朝霧妄想ッ!三日月の秘密・・・ッ!
―――以前、考えていたことがあった。
西山王から数々の華麗なる技を教わり、中聖天として諸国を遊撃していた時の事だ。山奥で野宿していた時の事。ふとした折に月を見つめて彼は思った。それは考えるに馬鹿らしいが、本当に素朴な疑問から始まった。
西山王から教わった技はクレセントな歩法・・・つまり、三日月。三日月の歩法により立つ位置は、背後と言うより、正確には敵の視界から外れた斜め四十五度。死角に潜り込んだ瞬間に斬撃を放つ一撃は、見えぬ一撃の中でも最速で、その三日月は実に優れた歩みである。
ネーミングもまた麗しく、ふさわしいものだ。月に例える辺り、この技を編み出した武芸者は、おそらくはムーンが大好きなのだろう。
だがしかしッ!ここで一つ疑問が生まれた。
いくらムーンが好きだからと言って、三日月だけ等という事があるのだろうか。三日月を作ったのならば、半月やら新月も編み出したのではなかろうか。でなければ、ムーンを呼称するには、少しかっこつけすぎである。
朝霧は三日月しか教わらなかった。半月や新月、その他いろいろと想像をめぐらせてはみたが、どれも技らしい技にならない。三日月が優れすぎているが故に、かすんでしまうのだった。
しかし、この度での戦いで朝霧が思っていた通り、半月や新月はなかったものの、後月と呼ばれるモノがある事を知った。
やはり、その他にもあるのではと可能性を感じた。
そして、やはり最強の技は満月・・・フルムーンではないかとも思っていた。
実際に満月斬りは試した事がある。考えればわかることだが、技とすら呼べない代物となった。相手の後ろへと回り込む技なのだから、満月であれば、一回転。つまり一周。一周すれば、元の位置に戻るだけである。何の意味もない。
これは有り得ないなと思っていたが、これによって生み出される旋風には少し意味があるように思われた。何度も相手の周囲を回れば、暴風によって動きを拘束することができるッ!
相手の動きを止める一方で、己は回転で勢いをつけ、背中を突くッ!名付けて・・・
―――フルムーンスタブッ!
なかなかイケるのでは、と朝霧は思っていたが、奥義と言う割には必殺に乏しい気がして、実戦には使わなかった。
だがしかしッ!朝霧はそのフルムーンスタブに新たなる可能性をこの瞬間に感じていたッ!これが、戦いのみに身を置いてきた、彼の洗練されたセンスだったッ!!!
―――ぶっつけ本番ッ!うまくいくかはわからない。あくまで可能性に過ぎないッ!だがしかしッ!わたしはその可能性に賭けるッ!
朝霧はぐっと歯を噛みしめ、決意をあらたにしたッ!
「ヘッヘッヘ!死ぬ覚悟はできたかよ?」
「殺す気でいるのに、死ぬ覚悟とは、どういうとんちですか?」
と、朝霧は刀を喚び、ゆっくりとさりげなく、フルムーンスタブの間合いに入り込んだ。
「言うじゃねぇか。おめぇの威勢に応えて、最強の技でぶち殺してやるぜ」
金明は拳を暗黒パワーで包んだッ!やはり金明爆黒拳ッ!?いやッ!今度は両手だッ!!!
両手で金明爆黒拳をぶっぱなそうと言うのかッ!そんなことをすれば、この埋め立て地の事、まるまる海中に沈みかねないッ!
「このまま全員、葬ってやるぜ。魚の餌にでもなりな」
金明の両腕に重黒なオーラがまるで、油のごとくねばっこいへばりつきだッ!!!それはどんどん膨らみ、今や金明のでかい手の二個分にもなっているッ!!!
金明爆黒拳の比じゃないぞッ!これは、完全にこの辺一帯がクレーターだッ!!!!!
「撃たせませんよッ!」
朝霧の姿が消えたッ!
「またその技かよッ!いくらおめぇが速かろうが、俺の体にゃ刃は通らねぇよ・・・ッなにッ!?姿がぶれてやがるッ!!」
フルムーンスタブが始まったッ!
「うぉッ!体の自由も効かねぇッ!」
朝霧が速すぎて円に分裂し、金明は囲まれてるようだった。これは今までにない異質ッ!!!
勢いは回るにつれて、倍々に加速し、拘束の力は強まるッ!
「まだまだいきますよッ!」
「へッ!こしゃくなッ!体がまったく動かねぇってほどじゃねぇッ!」
金明の筋肉がもっこり盛り上がったッ!突風の拘束だというのに、少しずつ動き出したッ!あの暗黒パワーが地面にたたきつけられれば、全員がエンドだッ!
だがしかしッ!朝霧は回転の速度を緩めないッ!
―――速くッ!さらに速くッ!せめて、信さんの領域までッ!!!
突風は音を立て、凄まじい轟音と化した。そして、朝霧のスピードは邪聖双転にも勝る速度に達したッ!これが中聖天の底力ッ!
そして、そこでスタブッ!!!!!!
・・・と思いきやッ!なんと、朝霧は突然足を止め、逆方向へと回転しようとしたッ!!!!!!




