表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/185

第百五十五天 濃紺銀幕ッ!最後の晩餐ッ!

「全く、傷がまだ痛いんですけどね。どういう事ですか?」

「いいからいいからッ!」

 明江に支えられて、信は旅館の前の松林を歩いていた。抜けて広がった先には、砂浜が広がり、巨大な鉄板を広げた竜牙たちが、純朴なスマイルで見つめていたッ!

「てめぇ。重傷のフリしてんじゃねぇよ」

 と、笑い交じりに竜牙が言った。

「はぁ?何言ってんの?一人じゃ歩けないからってパシらせたの、竜牙でしょッ!この馬鹿ッ!」

「あ・・・いや、申し訳ありません。明江さん、大丈夫です。一人で歩けます」

「いやいやいやいや、どう見ても無理でしょッ!馬鹿ッ!」

「信さん、こちらに」

 朝霧が砂浜にしっかり刺さった、折り畳み椅子をさした。

 明江がゆっくりそこへ信を下した。


「何の騒ぎですか?」

「動いて大丈夫なのか?」

 五閃が声をかけてきたのに、信は驚いたッ!

「あなたが何故?」

「ハッ!なんだか居着いちまったぜ」

「なッ!断じてそれは違うッ!俺はおまえの怪我が気にかかっただけだ」

 信はふといろいろと考えて、

「・・・そうですか」

 とだけ言って、微笑んだッ!あいかわらずの超推理が頭をめぐったに違いないッ!!!


「これから、何をするんですか?」

「なにって、ハンバーグパーティーよッ!」

 竜牙は胸を張った。

「信さんにおいしいものを食べさせようって、みんなで食材を集めてきたんですよ。わたしは鉄板とか油を用意しただけですけどね」

「そんな、恐れ多い・・・」

 と、信はかしこまったッ!

「ハッ!てめぇのためじゃねぇ。俺が食いてぇだけだぜッ!俺は牛肉を取ってきたぜッ!」

 銀の台の上に、銀のトレイに乗って、紅白の美しい挽肉の線が美しかったッ!

「わたしは、卵とかパン粉とってきたよッ!」

 そのかたわらには、ボールに山となった卵と、1キロのパン粉がどっさりだッ!それから調味料が細々と並んで、一大都市を気付いているッ!


―――だがしかしッ!


「あら、玉ねぎがありませんね。手に入れる予定だったはずですが」

 と、朝霧が不思議な顔だ。

「おいッ!てめぇ、玉ねぎ取ってきたんだろうな?」

 竜牙が五閃をにらんだ。

「あ、ああ。取ってきたぞ」

 と、懐から取り出した

「それだけッ!?」

 明江が目を丸くした。

「ああ、道端で拾った」

「馬鹿かてめぇッ!一個で足りるかッ!」

「えッ!?いや・・・」

「しかも拾ってきたのとか、マジありえないんだけどッ!」

「フフフ・・・スーパーで買ってきますよ」

 朝霧が優しい微笑みで、スーパーへと走っていったッ!


 玉ねぎは五閃の見事な居合でみじん切りにされ、具材をみんなでこね、焼き加減は紅茶の入れ方に定評のある朝霧が担当した。

 涙まみれの五閃を笑い。焼き時間に神経質な朝霧に引いた。

 そうして出来上がった巨大なハンバーグを等分に分けて、わいわいと食べた。


 満腹になると、みんな黙って、砂浜に広がる満天の星空に浸っていた。竜牙は遠くの山をにらんでいた。信はどこに忍ばせていたのか、尺八を取り出して吹き始めた。朝霧は紅茶を飲みながら、その音色に聞き入った。五閃は星空を見上げて、ただ自然のありようを体いっぱいに感じていた。


「えっと、名前なんだっけ?」

「ぬ?」

 五閃が顔を下すと、明江が少し恥ずかしそうに頬を染めていた。

 そういえば、信以外には名乗ってすらいないのだと、五閃は思い出した。

「俺は、ご・・・いや、葛木・・・葛木 直久だ」

 御聖院を名乗りかけて、明江には内緒なのだと本名を名乗った。

「ナオヒサ?かっこいい名前だね。ナオって呼んでいい?」

「あ、ああ。別に構わんが」

 五閃はくすぐったいような感覚に戸惑った。思えば、本名を口にしたのはもう何十年も前の事だった。己の本当の名前、ありのままの名前に、ドキドキするのだった。

「ナオってさ、意外にイケメンだよね」

「イケメンってなんだ?ツケメンの仲間か?」

「・・・かっこいいって事だよ」

「そうか。それほどでもないと思うがな」

「信の友達にこんなイケメンがいたなんて、マジ意外ィ~」

「あ、ああ」

 五閃はスマイルも引きつってるッ!


「信とは、長いの?」

「ん?まあ、そこそこにな」

「ふぅん。ナオも戦う人?」

「ああ。成平 信に怪我をさせてしまってな。・・・治るまでは世話になるつもりだ」

 五閃はまた胸が痛くなる。信の内臓は、グズグズと腐敗が進行している。もう余命もあとわずかだ。わめいても黙っても、いずれ死ぬ。御聖院の務めも果たしたと言える。己の存在理由のあまりに希薄なことに、五閃は何を言っても、闇に語り掛けてるような気分だった。

「治ったら、どっか行っちゃうんだ?」

「まあな」

「信は殺すの?」

「ッ!?」

 五閃は驚いて、目を見開いたッ!真意を見抜かれた顔が、とってもイージーッ!

 明江はその顔に何の反応もしなかった。かまをかけたつもりでもなかった。

「ナオって、嘘下手だよね。バレバレ」

「・・・すまない」

「いいよ。そんな事だろうと思ってたから。オトナの事情があるんでしょ?」

 明江は夜風のような涼しい微笑みだった。

「ぬぅ・・・」

「あ~あ、ずっとここにいればいいのに」

 と、寂しげに夜空を見上げた。星々の瞬きが競うようだ。

「・・・」

「みんなでどこかに出かけて、おいしいもの食べて、全部忘れちゃって楽しく過ごせればいいのに」




「竜牙、さっきからそんな難しい顔をしてどうしたんです?」

「あん?・・・てめぇは感じねぇのかよ」

「ッ!?」

 朝霧も北の山奥の方を見た。うっすらとだが感じる邪臭・・・。それはここら辺にいるザコの臭いに初めは感じた。だがしかし、その邪臭をよくたどればたどるほど、恐ろしく深黒な気配が潜んでいるようだった。目を凝らしてみると、山の端の空が黒くよどんでいた。それは暗黒パワーが上空で渦巻いているのだったッ!その強大な闇に、朝霧は冷や汗が出た。

「フン・・・気づいたか。アイツが俺を呼んでやがるぜ」

「なんという闇のパワー・・・。これが・・・黒王ッ!!!」

「ああ、間違いねぇ」

「あんな天を衝くほどの闇をまき散らして、なにをするつもりなんです?」

「各地に散らばる聖なる地を直線で結んだ中心があそこにある。中心の聖なる地を破壊し、漆黒に染め上げ、一気に闇のパワーを拡散させるつもりだ。つまり、世界の終焉」

「世界の終焉ッ!」

「まだ行くには、ちぃと早いが、行くしかねぇな」

 竜牙のこめかみからも汗がッ!竜牙もビビっていたッ!それだけ今回の敵は強大だという事を示していたッ!

「今からですか?」

「いいや。宵闇の中では、ダークパワーは力を増す。フェアじゃねぇが、昼間を狙うぜ。それに・・・今からじゃ、病人もついてきちまうからな」

 と、竜牙は信をチラ見した。

「信さんは連れて行かないんですか?」

「明江もな」

「・・・そうですか」

 朝霧の顔は沈んだ。しかし、それは仕方のない事でもあった。

「あいつらは人間だ。人間は人間らしく生きればいい。こいつは俺たちの戦いだ」

「そうですね。聖天として成すべきことを成す」


 竜牙と朝霧は北の空をそろってにらむのだった。尺八の音色が鋭く空に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ