第百五十三天 神風怒涛ッ!朝食の仁義なき戦いッ!!!
竜牙達は朝っぱらから、ぞろぞろと食事の取れるところを捜し歩いた。
時間はゆっくりと進んでいた。のどかな空気が町中を満たし、街道だけが少し忙しそうにしているくらいで、店々はまだ眠っていた。
結局、郊外のチェーン店まで、街道沿いを一時間近くも歩かされる羽目になった。
「疲れたぁ~」
と、明江がソファーに身投げだッ!
「なんにもありませんでしたね」
「俺は若鶏のグリル、ライス・サラダ・ドリンクバーセットだなッ!」
「あッ!竜牙早いッ!メニュー貸して」
と、明江はメニューをぶんどるようだ。
「竜牙は朝からディナーですね。わたしはフレンチトーストと、グリーンサラダにドリンクバーで」
「わたし、ホットケーキッ!あとドリンクバーッ!」
と、三人の注文が勢いよく決まったところで、しんと静まり返った。
「・・・てめぇは?」
竜牙が呟くようだ。いつしか全員が、五閃のオーダーを待って、見つめているッ!
その視線に五閃はきょろきょろと挙動不審だッ!
「えッ!?俺ッ!?」
「決まってねぇのは、てめぇだけだろ。ちんたらしてんじゃねぇ。ここは戦場なんだぜ」
「いや、俺は・・・」
「食べないんですか?」
「食べた方がいいよ。まさかダイエット中とか?」
ずいずいと、朝霧と明江の顔も迫ってくる。
「うぐッ!ぬッ!」
五閃は逃げ込むようにメニューに顔を伏せた。そうして、慌てて、
「て、鉄火丼セットでッ!」
「ホゥ・・・和風で攻めてくると、やるじゃねぇか」
竜牙は言いながらも、呼び出しボタンを押しているッ!速いッ!無駄がないッ!
ウェイトレスに向かって、竜牙たちは競うように注文を述べた。ウェイトレスはてんてこのぽんぽこりんで、五閃はその勢いに言葉がでなかった。
「鉄火巻セットだな!?」
「えッ!はいッ!」
竜牙の剣幕に押されて、五閃は考える間もなく、はいと言っていた。
鉄火丼の間違いに気づいたのは、ウェイトレスが去ってからだった。しかし彼らの血走ったオーダーを目にして、竜牙にも念を押されたというのに、間違えてましたとはとても言えなかった。
はたして、鉄火巻が運ばれてきた。
華やかな料理達の中に、五閃の前には鉄火巻がぽつんと寂しげだったのには、かなりの違和感だった。
「あら?あなた、鉄火丼セットを頼んだのではありませんでしたか?」
と、朝霧がそれに気づきやがったッ!バカ野郎ッ!よけいな事をッ!
「えッ?いや・・・」
「あ、うん。そうだよ。それ鉄火巻よね」
「ちッ!ウェイトレスめ、間違えやがったかッ!」
「いやッ!」
うっかりしていたのは自分だと、五閃は言おうとしたが、すでにボタンは押されて、ウェイトレスが飛んできた。
あ~ッ!やばいッ!罪なきウェイトレスが今まさに冤罪にかけられようとしているッ!
五閃は顔を覆わんばかりの申し訳なさに包まれた。
ウェイトレスよッ!すまないッ!この俺がふがいないばかりにッ!
―――だがしかしッ!
「鉄火丼セットを追加で頼むぜッ!至急なッ!」
竜牙は鉄火巻の件には触れずに、ウェイトレスへ申し訳なさそうに追加オーダーだったッ!
「はいッ!かしこまりましたッ!」
と、雰囲気に押されて、弾けるようにウェイトレスは戻っていった。
「な・・・何故だ」
五閃はぽかんとしていた。
「あん?」
「鉄火巻は間違ったオーダーだろう?何故、返品しない」
「てめぇが食わねぇなら、俺がもらうぜ」
竜牙は鉄火巻の一つをつまんで、口に運んでもぐもぐだ。
「きっと鉄火巻がわたしたちを呼んでいたのでしょうね。おいしくいただきましょう」
と、朝霧が紅茶でフレンチトーストを流し込んでから、朝のさわやかスマイルだッ!
五閃は圧倒されたッ!
これが大聖天の食事なのかッ!すべてを受け入れるワイルドな食事ッ!
五閃の鉄火丼セットが遅れてきて、半分くらい食べた頃には、もう周りは汚れた皿の荒野と化していた。三人は自由にドリンクを楽しみながら、五閃の食事が終わるのを待っていてくれた。
優しいッ!戦場ながら優しすぎるぞッ!
「・・・さぁて。今日は何を作るか」
五閃が食べ終わるのを待って、竜牙が口を開いた。
「そういえば、竜牙ってごはん作れるの?」
明江がすなおな疑問だッ!
「あん?てめぇ俺を誰だと思ってやがる」
「明江さん、今は便利な世の中になりましたが、昔は自炊が基本でしたよ」
と、朝霧が微笑んだ。
「そっか。竜牙達は長く生きてるんだもんね」
「わたしの記憶によれば、たしか神生島は玉ねぎの産地でしたよ」
朝霧が過去をたどった。
「ホゥ・・・」
「バス乗り場の近くで、神生牛のステーキとかあったから、牛も産地なんじゃない?って言うか、わたし食べたいッ!」
明江のリクエストだッ!
「フン・・・玉ねぎ+牛肉とくれば、ハンバーグこれ最強ッ!夕飯はハンバーグだなッ!」
「フフフ・・・いいですね」
「手作りのハンバーグなんて久しぶりッ!」
「・・・てめぇもそれでいいな?」
「なぜ、俺にきく」
「まさか、てめぇ何もせずにタダ飯食おうってのか?虫が良すぎるぜ」
竜牙の目が鋭くなった
「そうではない。いつから俺が参加したことになっている」
「話を聞いた瞬間からだ」
「俺の意思は無視か」
「ああ」
「断る」
「フン・・・断るには少し遅すぎだぜ。表へ出な」
ガタンっと竜牙が立ち上がった。伸ばした足にぶつかって、チェアーがあおむけに倒れたッ!竜牙の怒りが半端ないッ!だがしかしッ!
「いいだろう」
五閃も負けていないッ!
爆発寸前の空気に、朝霧達は息を呑んだ。
「てめぇらはドリンク飲んでろ。話をつけてくるぜ」
竜牙と五閃は、レストランの駐車場へ出た。畑のど真ん中を突っ切るように敷いた街道沿いは、店舗が沿うように連なっているだけで、裏側は畑のまんまだった。その素直な景色にほっこりと着飾った村娘を思わせる。
しかし、そんな風景に安らぎを感じられるゆとりは、この場にないッ!
竜牙は駐車場の奥まで歩いて立ち止まった。
「なんだ、殺り合おうというのか?」
五閃も仁王立ちで、竜牙の背中を見つめた。
「そうじゃねぇ」
と、しかし店の中でのテンションとはずいぶん低い感じで竜牙は言った。
「なんだ?」
「一つだけはっきりしておきたいだけだ。てめぇは味方か?敵か?どっちだ」
「さぁ・・・て」
五閃ははぐらかすようだった。しかし、実際、五閃自身、よくわからなかった。信の身を案じている内にいつしかこの場にいた。
「フン・・・そうか。なら好きにしろ」
竜牙は笑い交じりに言った。
「ッ!?おまえ、俺はスパイかも知れんのだぞッ!」
「いちいち堅苦しい野郎だな。てめぇごときにスパイされて殺られる俺じゃねぇよ」
「大聖天ほどの実力であれば、この俺がどれほどのものかはわかっているはずだろう?」
「ハッ!雑魚だろ?」
「俺を愚弄するかッ!」
五閃は刀に手をかけた。相手の背後を取っているッ!五閃には絶好のチャンスッ!
―――だが刹那ッ!
竜牙がうっすら発光したかと思いきやッ!五閃のすぐ目の前に顔を突き合わせていたッ!
「ッ!!!!?!??」
五閃は驚いたッ!竜牙は5センチも離れないところに額を突き合わせて、ドヤ顔だッ!
背後を取っていたはずなのに、まったく反応できずに正面で向かいあってるッ!!!
「俺は好きにしろって言っただけだぜ?・・・ただし、てめぇが俺たちと一緒にいるってんなら、一緒にいる間は俺たちのルールに従ってもらうぜ」
キリッと睨んだ竜牙のアイズは、圧倒的な存在感ッ!五閃は息を呑んだッ!手がガタガタと震えて、息切れ、動悸、ひきつけを起こしそうだッ!
「わかった」
と、言うしかなかった。戦艦に水鉄砲で挑むような心持になった。一時とは言え、刀を抜こうとした己の愚かさを後悔したッ!
「てめぇは玉ねぎだ。わかったな?」
「あ、ああ」
竜牙はポンと五閃の肩を叩くと、レストランへ戻って行った。ヤベェッ!




