第百五十二天 早朝熟睡ッ!沈んでいく悲痛な真実ッ!
「あいつはもう助からねぇ」
「そんなッ!」
「・・・ッ!!」
竜牙の深刻でまっすぐな顔に、朝霧と五閃は絶望の霹靂に打たれた。
もの悲しさが果てしなく広がるかに思えたが、カウンターに鍵を返しに来たツアー客達の愉快な大声に押し流された。竜牙がほどなく戻ってくると、朝霧は傷口をふさぎ、とりあえずの処置を終えていて、信はひどい消耗からか、眠りに落ちていた。竜牙はロビーに場所を移してソファーに腰掛けるなり、つらい現実を告げたのだった。
「なんとかならないんでしょうか?その・・・竜牙の光のパワーとかで」
と、朝霧は遠慮がちに言った。
「別にケチってるわけじゃねぇ。俺の力でも無理だっつってんだよ。あの包帯は、あらゆる猛毒と怨念がしみついてやがった。おそらく、アイツが生まれてからずっと毒壺にでも浸していたんだろう。単なる毒だけならまだしも、何十年、何百年と留まった怨念はそうそう消せるもんじゃねぇ。しかも、怨念が毒と融合しちまって、毒そのものになっちまってる。世界中探してもこいつを治療できる奴はいねぇ」
「なら・・・世界王様に」
「あん?てめぇはいつからそんなに偉くなったんだ?てめぇが頼んでみろよ。天に向かって呼びかけでもすりゃいいんじゃねぇか?ハッハッハ!」
竜牙は小馬鹿にするようだった。しかし、朝霧もそれは都合の良い事だというのは、わかっていた。
「甘えてんじゃねぇッ!信はもう助からねぇんだよ」
「すいませんでした・・・」
「な、成平 信はあとどれくらい持つんだ?」
「三日ってところだな。アイツ次第だが、そう長くはねぇだろう」
「くそッ!俺が果たし状なぞ出さなければッ!」
首を下げた五閃に、竜牙は溜息をついた。
「さっさと現実を受け入れるんだな」
と、竜牙は疲れたように立ち上がって、ロビーを出ていった。
神生島の中心であるこの町で、もっとも目立つ旅館のここは、朝となるとそうとうな慌しさだった。まるで、事故でも起こったかのごとく、仲居さんが廊下を右に左に駆け抜けていく。
そのやかましさで、部屋の中にいてもなんとなく目が覚める。明江もその一人だった。
カーテンから漏れる微かな陽に目をこすりながら体を起こすと、隣に信が寝ていた。
「あれ?信が寝てる」
明江は思わずつぶやいた。彼の朝は誰よりも早い。
「起きられましたか」
「ッ!?」
薄闇の中に、声をかけられて、明江はびくりとした。
電気もつけずに朝霧がちゃぶ台の前で、珍しくグリーンティータイムだッ!
「どうしたの?電気もつけずに」
「起こしては悪いと思いましてね」
「成平 信も休養させなくてはならない」
と、朝霧の隣で五閃もグリーンティーだった。
「あんた誰?」
明江はさらにびっくりした。見知らぬ人がすんなりなじんでやがるッ!!!
五閃は言われて、慌てて居住まいを正した。
「申し遅れました。わたくし・・・」
「そいつは信の友達だってよ」
「えッ!?」
竜牙が引き戸から入ってきて、さえぎるように言った。
「信とそいつと修行してて、馬鹿野郎が怪我しちまったんだとよ。で、この有様だ。ったく、ザコはザコらしくしとけってのによ。ほらよ」
と、竜牙は包帯やら痛み止めやら傷薬の入った袋を卓上に放り投げた。
「わざわざありがとうございます」
朝霧が感謝した。
いえ、わたくしは、と五閃は重い責任からか、真実を伝えるべきと思ったが、自然に進んでいくなにげないやり取りに言うのを止した。どういう経緯があったのか知らない、どういう間柄なのかもわからない。それでもそこにささやかな優しさがあると、五閃は感じた。
「ま、そういう事だからよ。寝かしといてやれ。朝飯は外で食うぜ」
「わかった」
と、明江は起き上がって、着替えを持って、トイレにこもった。
「今日はどうしますか?」
朝霧が聞いた。
「そうだな。そこの馬鹿野郎のために飯でも作るってのはどうだ?ハッハッハ!」
と、竜牙がなんとなく口にして、五閃はアンビリーバブルな表情だッ!
「なッ!正気かッ!大聖天ッ!仲間が殺られたんだぞッ!仇を討ちにいかないのかッ!」
「声がでけぇよ。明江に聞こえんだろうが」
「えッ!?はッ!すまん」
五閃はわけがわからない。
「明江さんは、我々のしている事、あまり良く思ってないんですよ」
と、朝霧がフォローした。
「そうか」
「まあそれでも、てめぇが敵だと知れば、理由はどうあれ牙をむくだろうぜ」
「・・・」
明江の着替えを待って、部屋を出た。
信の代わりに五閃がいる四人はどことなくぎくしゃくとした。五閃の果てしない異物感が半端ないッ!竜牙と朝霧は狭い歩道を並んで歩いて、
竜牙はふとつぶやいた。
「ところで、あいつ誰なんだ?」
「さぁ?」
実のところ、信以外、誰もよく知らないのであったッ!




