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第百四十四天 天空揺籠ッ!戦士たちのI don't know...

 カゴが上へ昇ると、海原が低く広がり、島の山が近くなった。今日は天気が良く見晴がいい。遠くの魔都がぼんやりと浮かび、竜牙達が渡った海峡の大橋も柱の頭が時折白く瞬いていた。

 竜牙は己の足跡を回想していた。明江といたそのひと時は、遠い昔に感じられる。


「聞かないの?」

 カゴが頂上を回った時に、明江がカサんだ声で言った。

「あ?」

「何があったのか・・・」

「聞いたら、てめぇはもとに戻るのかよ?」

「・・・」

「俺にはどうする事もできねぇよ。それにてめぇが自分でしでかした事だ。てめぇが背負うしかねぇ」

「・・・そうだね。竜牙は初めから何もしていない。誰のせいでもない。わたしのせい」

 膝がしらの両こぶしがぷるぷると震えて、ポタリポタリとしずくが落ちた。

「ホゥ・・・意外だな」

 竜牙は、よゆうのスマイルで話を続けるッ!戦士は女の涙に動じないッ!

「えッ?」

「てめぇみたいな女のことだ。全部俺のせいにすると思っていたんだがな。それとも、涙で訴えてんのか?ハッハッハ!」

 竜牙、えぐいッ!えぐすぎるッ!!!

「ッ!そんなつもりじゃッ!」

 明江は不愉快をにじませたが、すかさず竜牙もにらんだ。

「なら、泣くんじゃねぇ。泣きたきゃ、一人で泣くんだな。ここは遊園地だぜ?」

「ごめん」

 明江は涙を拭いた。そして、がんばって明るい顔をつくろうとした。


「ま・・・忘れちまえよ。そんな嫌な思い出はよ」

 竜牙はあっさりだ。

「そんなの・・・」

 明江はうつむいた。できるのならば、自分だってそうしたいのだッ!

「ごちゃごちゃうるせぇ。忘れるしかねぇんだよ。嫌でもな」

「・・・うん」

「フン・・・これでてめぇもわかっただろ?戦争で得られるものが苦しみだけじゃねぇって事をな」

「・・・」

 明江はうつむいた。何か言いたいようで言えず、心が痛かった。

 この痛みは明江にしかわからない。

 しかし、竜牙の言っている事も明江はよくわからない。

 わからない人は一生わからない。

 不可解の果てにあるそれッ!それこそが戦士の存在意義なのだッ!




 一つ遅れたカゴには、信と朝霧が乗り込んだ。

 ぐんぐんと上昇していくに連れて、朝霧の気持ちもたかぶった。

 頂上の見晴の良さに辺りを見回しながら、

「まるで、海鳥にでもなった気分ですね」

 と、感動の声をあげたッ!

 だがしかし、信は黙って神妙だった。朝霧はその緊張をほぐそうと口を開いてみたのだが、揺るがないそれに朝霧も流された。

 カゴが下り始めた時、今度は信が口を開いた。

「・・・いったい、船でなにがあったんです?」

「ああ、竜牙との事ですか?」

「はい」

「わたしの断罪を受けてくださっただけですよ。返り討ちにされて、お恥ずかしい限りですが」

「やはり、そうでしたか」

 信の目は納得のいった輝きでまっすぐだッ!

「またいずれ行うおつもりですか?」

「ええ。どんな理由であれ、掟である以上はやらざるを得ないでしょう」

「フム・・・」

 信は顎に手をあてた。そして思い切ったような口ぶりで、


「しかし、わたしは別にいいと思いますけどね。聖天様はわたしたち人間の何倍も生きているのですし、魔の知人が一人や二人いたところで、不思議じゃない」

「フフフ。そう柔軟に考えられるところが、人間の良いところですね。あなたがうらやましい。聖天にはそれが許されない。掟は絶対なんです」

「絶対ですか」

「ええ」

「それが大聖天様であっても?」

「大聖天様であれば、なおさらです。トップは模範であらねばなりません。なぜ、あの大聖天様が・・・竜牙が掟を破ったのか、わたしには納得できないッ!」

 朝霧の言葉に力がこもったッ!長年の戦友、理想の戦士、憧れの存在であっただけに、許せない思いはストロングッ!

「わたしごときがおこがましいですが、大聖天様はわたしたちの考え及ばないところにいるのではないでしょうか?」

「考え及ばないところ?」

「すべてを受け入れるような・・・いや、なんでもありません。感覚的なばかりでくだらない妄言でした」

 信は頭を下げた。

「いえ、そう感覚的に判断できるところも人間の良いところですよ。ありがとうございます」

「よくわかりませんね」

「・・・ええ」

 朝霧は頭を振って、険しいおでこだ。

「まあ、大聖天様も黒王を討たないと言っているわけではありません。どうあれ、黒王を討ってからでもよろしいのではないでしょうか?」

「ええ、そのつもりです」

「そうですか」

 信は、ほっと力が抜けると、カゴの扉が開いた。

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