第百三十九天 海峡横断ッ!執行される断罪ッ!!!
翌朝、竜牙達は海峡を渡るフェリーに乗った。
「ちょっと潮風に当たってくるぜ」
竜牙は、船内に入るなり、甲板へと上がっていった。
朝霧と信は、古い臭いのする船内でソファに座って、なんとなく、窓の先の港を見ていた。
船はバックして島へ向き直ると、スピードを上げた。うねった波とぶつかって、船は軽くホップをしながら進む。船内アナウンスから、軽やかな女の声が流れてきて、海峡の説明が始まる。
この海峡では、タコがよく取れるらしい。
朝霧はタコと聞いて、このおだやかに波打つ海原と、にょろにょろとのたうつタコが、タコ壺で暴れる様を想像していた。
歪み、波打つそれは心の中の紋様となって、朝霧は吐き気がした。
「私も外の空気を吸ってきます」
「船酔いですか?」
信は意外な顔をした。
「いえ・・・」
朝霧は急な階段を上がって、甲板へ出た。竜牙が背を向けて、島を見ていた。
朝霧は息を呑んだ。
「竜牙・・・」
「あん?」
と、竜牙は振り返った。
「私はやはり、聖天の掟に基づいて、あなたを断罪します」
「・・・ホゥ。そんな青白い顔をしてか?」
竜牙はニヤリと笑った。事実、朝霧のよゆうは全くなかった。己の上司に逆らって、成敗しようというのだから、落ち着いていられるはずもない。
「あなたを世界王様が見逃したのは何故ですか?」
「フン・・・俺が知るかよ。世界王に聞きな」
「しかし、竜牙も少しはご存知でしょう?」
「語ったところで、何かが変わるのか?てめぇが断罪するのをやめるのか?それこそ、掟破りだぜ。ハッハッハ!」
「・・・」
「てめぇはそういう中途半端をやってっから、成長しねぇんだよ」
竜牙はストレートに突き刺して、朝霧ショックッ!
「・・・ならば、大聖天竜牙、わたしはあなたを処刑しますッ!島へ降りたら、直ちに刑に服しなさいッ!」
「断るッ!」
「ッ!!!」
「処刑したきゃ、力づくでやるんだな」
「・・・いいでしょう」
神生島へは20分で、乗ってみるとあっという間だった。
朝霧の覚悟は決まらぬままに、心に渦を巻いたまま、船を降りることになった。
堤防に降り立つと、
「おい、これから俺と朝霧で殺し合いをするぜ」
「はッ!?」
信は意味不明な驚き顔をした。
「彼は魔とつながりを持っていた。それは死に値する大罪。わたしは彼を斬らねばならない」
「・・・なるほど」
「ま、てめぇは立会人ってわけだ」
船着き場を出ると、山肌が目の前で家々がそこに張り付くようにしてあった。商店街のゲートをくぐれば、やたらに暗い喫茶店や、ところどころにタイルの剥がれ落ちた銭湯、引き戸から溢れ出んばかりの金物屋、シャッターの閉まったパチンコ屋、小さなスーパー、うっすら明かりの灯ったうどん屋、全てが昔のままにあった。
「アナゴのせうどんとは、珍しいな」
と、うどん屋の前の張り紙に目を輝かせていた。
朝霧は、商店街を進めば進むほど、心が重くなっていくのだった。これではどちらが処刑されるのかわからない。しかし、もう昔のままではいられないのであった。
商店街を抜けて、もう一つの防波堤へ歩いて行った。そこは廃線となった、昔のフェリー乗り場だった。関係者立ち入り禁止のチェーンを超えれば、もう誰もいない。
竜牙は防波堤の端まで歩くと、
「ここらへんでいいか?」
「ええ」
「てめぇが俺に挑んできた度胸だけは認めてやる。だが、てめぇは俺の敵じゃねぇ。一撃でほふるぜ?」
「言いますね。ならば、やってもらおうじゃありませんか」
「やはり、今、戦わなくてはなりませんか?」
信が遠慮がちに言ったが、思い直せと言わんばかりの顔だった。
「フン・・・殺ると決めたら、もう止まらないんだぜ」
「いきますよ」
朝霧の動きが刹那だッ!
素早い動きで竜牙に迫るッ!そして、すれ違い様にニーキックッ!
―――クレセントサイドニーキックッ!
と、見せかけてッ!後ろへ回り込むフェイントだッ!
―――フェイントッ!からのッ!クレセントバックスラッシュッ!
今まではスピードに特化した技の為か、フェイントができなかったッ!だがしかし、フェイントを可能にしたのは、成長の証ッ!朝霧の全てを尽くした渾身の一撃なのだッ!これは当たるッ!
だがしかしッ!
「なにッ!?」
朝霧は思わず声をあげた。完全に背後からスペシャルな一撃を見舞ったつもりだったのだが、その軌道は脇へそらされていたッ!だけじゃなくて、竜牙は刀すら抜かず、なまくらの鞘で華麗に受け流していたッ!
クレセントバックスラッシュは人外の高速剣技であるッ!そこらのなまくら刀じゃ、衝撃に耐えられず、粉々に砕け散るッ!だがしかしッ!竜牙の剣さばきは、力の方向を華麗にそらしたのだッ!
「自慢の速さも、俺の前じゃスローリーだぜ」
竜牙はニヤリとキラーズスマイルだッ!そして、強烈な衝撃を朝霧は腹に受けて、崩れ落ちた。
「速ぇだけじゃ、俺は殺せないぜ。力を一点に集中するんだったな」
朝霧の意識は薄れていった。沈みゆく意識に抗おうと体をよじった。しかし、海原に見えた渦は朝霧のすべても暗い底へと巻き込んでいった。




