第百二十六天 早朝来客ッ!朝霧達の待ちぼうけ
朝霧達の泊まった宿は、通りに面した古びた木造の旅館だった。
床板も窓枠もさわればきしんで疊も少しぐにゃりとしていた。外のレンガの通りが新しくできたもののように感じる。時代に取り残されたのか、時代にこだわっているのかと言えば、取り残されている方と思われた。
朝のか弱い光が窓にすぅと差し込んで、ひっそりと無音だった。
「そろそろ、大聖天様がお目覚めになる頃ですね」
信は箸を止めて、言った。食事を止めて話したい程、気がかりだった。
朝霧もそれを受けて、食事を止めた。
「そうですね。しかし、竜牙は帰ってくるでしょうか?」
「・・・罪の件ですか」
「ええ。このまま帰ってこない場合だってあります。そろそろわたしたちも考えなくてはなりませんね」
「考える?」
「その・・・期限をです」
朝霧は言いにくそうに言った。
「朝霧様の考えでは、大聖天様は死罪だと思われますか?」
「聖天の掟に従えば、そうなります」
「そうですか・・・。しかし、それならば、あの場に出てきて、我々を連れ去り治療する意味がない。放っておけば、全滅していた。わたしは帰ってくると思います。つじつまが合わない」
出たッ!信の超推理ッ!だがしかしッ!何度も繰り返されたやりとりだった。
「しっかりと罪を認めさせて、償わせるという可能性もあるかも知れません。・・・っと、中聖天のわたしには過ぎた言葉ですが」
「・・・世界王様に会う方法はないのですか?」
「わかりません。わたしですら、その存在はおとぎ話のようなものでしたからね」
「たのも~ッ!」
「ッ!??!?」
通りから聞こえてきた太い大声に、二人は箸を止めた。
「朝霧中聖天ッ!白桜寺当主、成平 信ッ!ここにいるとお伺いしたッ!それがしは、魔刹九衆が一人ッ!那紺であるッ!」
「なにッ!?魔刹九衆ッ!?」
信はおどろいたッ!
「ご存じなんですか?」
「はい・・・。たしか、九州方面にいる魔を崇拝する暗殺組織です。しかし、どうしてこんなところまで。いや、何故ここにいるのを知られたのか」
「とにかく、出た方が良さそうですね」
「はい」
刀をとると、朝霧と信は出た。
「そなたらが、朝霧中聖天、白桜寺の成平 信かッ!」
「どう言ったご用件でしょうか?」
「そなたらの首、貰い受けに来たッ!」
そういうと、那紺という髭もじゃのごつい男は、汗ばんだ胸板の見える懐から、書状を取り出した。
書状には殺害状と書いてある。
「我々は下らん連中に与しない。我々は我々だけで、我々の手柄を得るのだッ!さあ、受け取れッ!ここには死刑執行の場所と日時が書いてあるッ!」
「つまり、果たし状ですか?」
「違うッ!そなたらの未来は死。これは死に場所と、時間であるッ!」
「わたし達を殺せる・・・とでも?」
朝霧がついに割り込んできて、冷たい殺意の視線だッ!
「その通りッ!」
「そんな宣告状はいりませんよ。ちょうど体がなまっていたところです。・・・今すぐ殺りましょう」
信もクールなにらみつけだッ!
「うぬッ!?うぬら、できるなッ!?良かろう。今すぐ死刑に処してやるッ!ついてこいッ!」
那紺は歩き出した。
正々堂々すぎて少し拍子抜けだが、朝霧たちもついていった。
「決闘の場には、電車でいくッ!」
そう言って、那紺は切符を三枚買ってくれた。交通費支給だッ!
「いいですよ。どこでも」
信はそれでもクールである。
のんびりとローカル線は、住宅地を走っていった。
降りた駅は、すすきの原っぱが広かった。
「ここでしょう?」
朝霧は少しあきれた調子だった。だが、那紺はいたって真剣そのものであるッ!
「違うッ!死刑場はさらに歩くッ!うぬらは今牢獄から放たれ、死刑台へと登らされているところなのだッ!グハハハッ!」
「早く案内してください」
「言われるまでもないッ!」
大通りをわたって、旅館街を抜けて、砂浜へ出た。
「ついたぞッ!」
防波堤を駆け上がった。そして、振り返り得意顔である。
「うぬらの死刑場はここだッ!さぁ、逃げまどい、血を流し、死ぬが・・・ッ!?!?!?!」
那紺は、言いかけて防波堤の向こう側に言葉を失っていた。
「どうしましたか?」
信は、防波堤をひとっ跳びで登った。
砂浜には、八人倒れていた。その真ん中の人物に信は同じく絶句したッ!
「?」
朝霧もあがって、やはり絶句したッ!
「よぉ。ずいぶん楽しんでるみてぇだな」
うす笑みを浮かべた男。そうッ!大聖天竜牙の登場だッ!
「な・・・何奴だッ!?」
那紺はびびったッ!一人で八人を倒しているなどありえないッ!
「大聖天様ですよ」
「だ・・・大聖天だとッ?!」
「フン・・・邪臭をたどってきてみりゃ、雑魚が群れているだけだったぜ」
「うぬッ!ざ・・・ザコだとッ!?この魔刹九衆を愚弄するかぁッ!」
那紺はキレたッ!だが、刹那のうちに那紺は朝霧に背後を取られてしまったッ!
「もう飽きましたよ。あなたのおかげで竜牙に会うことができました。それに免じて、今回は見逃してあげましょう。どうしますか?まだ続けますか?」
「う・・・ぐ・・・うぬぬッ!」
那紺はみっともなく防波堤を走り出した。
「おのれッ!覚えておれよッ!」
「処刑人が処刑を恐れて逃げ出すとは、シャレのきいた死刑場でしたね。フッフッフ」
信は、キリリと皮肉のほほえみだったッ!
那紺、ナコンと読みます。
魔刹九衆マセツキュウシュウは、魔を崇拝するかなり強い集団でしたが、竜牙の前では敵ではなかったッ!!!




