第百二十二天 妙技伝授ッ!信が見た未来ッ!!!
謎の黒いフード男は、道をそれて狭い小道をうろうろと歩き回った。
この辺りの地理には詳しくないらしい。もっとも信も詳しくなかったから、だまってついて歩いた。
町工場の跡を見つけると、立ち止った。
「ここにしよう」
と、錆びた鉄柵を斬ったッ!
またもや、剣の動きが見えないッ!
信はびっくりしたッ!
トタン板に囲まれた工場は、もう使われておらず、ほこりっぽかった。何を扱っていたのかも看板が錆びついて読めなかったが、太いパイプが転がっていた。
「もう一度見せてやる。よく見ているといい」
黒いフードは奥に立つと、太いパイプと向かい合った。
―――刹那の中の刹那ッ!
パイプは黒いフードの刀によって、両断されていたッ!
またしても、まったく見えなかったッ!いや、問題なのは完全に視界に入れていながら、その動きの過程を目でとらえれなかったということだッ!そして、何の気の流れも感じず、ただ次の一瞬には、黒いフードが刀をふった後だった。
「見えたか?」
黒いフードは少し馬鹿にするようだ。
「・・・い、いえ」
信は素直に負けを認めた。
「かまえろ」
「刀をですか?」
「そうだ」
「はい」
信はスッと北王子流水をかまえた。白き気品溢れるパワーが体から爆発したッ!
ほこりっぽく錆びれた室内は、冷水に浸したかのごとくうるおいひきしまったッ!
―――だがしかしッ!
「よし、邪のパワーを使ってみろ」
「邪?・・・暗黒剣術をですか?」
「そうだ」
「はい」
信は剣に闇をまとったッ!白きオーラの中に漆黒の剣が生々しいッ!
だがしかし、白いオーラに漆黒は呑まれて弱弱しかった。
「もっと、邪のパワーを高めろ」
「・・・くッ!」
信は憎悪をたぎらせ、力を込めた。だがだが、やはり弱弱しいッ!
「これが限界です」
「てんでダメだな」
「申し訳ありません」
信はなぜか初対面なのに、まるでもう弟子であるかの発言をする自分に自分でおどろいた。
黒いフードは黒い闇に手をあてがって、考えていた。
「おまえは聖なるパワーが強すぎる。それを邪のパワーくらいまでおさえろ」
「なんですってッ!?」
信はおどろいた。もともと強い力をなぜセーブする必要があるのかッ!?
「異議があるのなら、帰ってもいいんだぞ」
「わかりました。やってみます」
高まった光の力を塞いでいった。己の力が抜けていく。取り戻せないような不安にさえさせられる。
だがしかし、今のままでは黒王には勝てないッ!勝てない力など、何の未練もないッ!と、信は振り切ったッ!
「できたようだな。次は、右足を前に出せ。そして、右足に聖なる力、左足に邪なる力を集めろ」
「はい」
信は言われるがままに行った。半身ずつ聖と邪に分けるのがめちゃくちゃ苦痛で気持ち悪かった。それでも無理やりに力ずくでわける。筋肉の筋が張るように気の流れがぶつかり合い、ぎりぎりとしぼられていたッ!体がむずむずして、内側から裂けていきそうだった。維持したままにしておくのがつらいッ!
「・・・ぐぐッ!こうですか?」
「初めてにしては、なかなか器用にこなすじゃないか。そうだ。次はその力を維持したまま、前に左足を踏み出し、同時にすべての力を爆発させろ。おどろくなよ」
信は一歩踏み出すと同時に、その張り詰めた力を解放したッ!
刹那ッ!びゅおっと自分の周りに突風が走り、鼻先10センチのところに顔があって、左足がとたんに穴をあけていた。
―――な、なにがおこったッ!?
小屋の真ん中で一歩を踏み出したつもりが、いつのまにか、壁際にきているッ!?わけがわからないッ!
体は力の苦しさから解放されて、脱力感がはんぱなかった。しかし、目でもおえなかったし、自分の意思でなにかをやった実感がない。まるで次元をすっとばして歩いたかのようだッ!
「それでいい。聖と邪を同じくらいに高めて、その反発を利用して移動する」
「・・・ッ!?」
「聖にも邪にも染まれる人間だけが成せる技だ」
「なんとッ!?」
―――これが・・・人間の最強の技・・・。
なにより、聖には毒となる邪のパワーを利用するというところが、信には衝撃的だったッ!
「聖と邪、二つのパワーが強ければ強いほど、とうぜん反発も大きくなり、力も強大になる。おまえは邪のパワーが弱すぎる。もっともっと高めろ」
「はい」
信は本当に素直だった。
「では、また会おう。・・・フッ、たかが数分で使えるようになるとはな。さすがは草原の孫ということか」
「なにッ!?」
信は、草原の名にびっくりしたッ!草原は、信に白桜寺剣術を教えた実の祖父であるッ!
この黒いフードは知っているというのかッ!?
質問を投げかける間もなく、黒いフードの姿はなかった。速いッ!速すぎるッ!
一人、ほこりっぽい工場に取り残された信はぼっとした。
だがしかし、その顔には希望があったッ!
―――この力には未来があったッ!この先に人間の限界が見えた気がしたのだッ!
「俺はこの力で、黒王を倒すッ・・・」
信はグッと拳を握るのだったッ!
信がそれから聖域に足を踏み入れたのは、日が沈み始めたころだった。
「ずいぶんと遅かったですね」
と、朝霧が拝殿の近くで立っていた。木にもたれてはいない。聖天として聖域にせっする自覚ができているッ!!!
「だいぶお疲れのようですが、大丈夫ですか?」
信は額をおさえて、暗めいた。あれから、工場の中で、聖と邪の力をコントロールし、一歩を踏み出す練習をしていたのであるッ!
「え、ええ。大丈夫です」
「・・・そうですか」
朝霧は怪しんだ。信の気の流れに乱れを感じていたのだッ!
「今日は暑かったので、少し疲れました」
信もぴぴんとさっして、適当にごまかしたッ!壮絶な頭脳戦がそこにはあったッ!
「宿はとりましたが、夕飯もあそこでいいですか?明江さんがまだ帰ってこないんですよ」
「はい」
「良かった」
二人は聖域を出て、レンガの道の商店街を歩いた。聖なる刀の店がちょうど店じまいをしていた。
「まだ、日が高いのにもう店じまいなんですね」
信は他愛もないことを言う。疲れてテンションが高ぶっている。
「もう子供の帰る時間ですよ」
「なんとッ!?いつの間にか、日が長くなったんですね」
「ええ」
「イセエビカレーと、カルボナーラ」
「はいよ」
信がめずらしく、イセエビカレーのようなものを頼んだのに、朝霧はおどろいた。
信は腹を空かした子供のごとく、イセエビに豪快にかぶりつき、食べっぷりがすがすがしかった。
それから、紅茶を飲みながら二人で閉店まで待っていたが、明江はけっきょく帰ってこなかった。




