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第百十七天 天風隆地ッ!完封無敵の逃亡ッ!!!

「ちょっと失礼しますよ」

 と、保護者と名乗る男は明江のわきから、竜牙の体を持ち上げた。

 小柄なのに、かるがると肩にひっかけて、背を向けて歩き出した。

「あの、ちょっと?誰ッ!?」

 明江もなんだか、ぽけっとしてしまったが、あせって声をかけた。

「保護者ですよ。この人の」

 と、ちょこっとふりかえって、竜牙のケツをさした。


「え?あ、ええッ!?」

 保護者は、とても退屈そうな、日曜日の朝のイケメンのような顔をして、金髪のオールバックをいじっている。やせっぽちで、ひ弱な青年という感じだッ!だがしかし、この血なまぐさい場所に、アロハシャツはないだろうッ!!ももの辺りがだぼついたズボンをはいて、なんだか変な人であるッ!


「へッ!保護者だかなんだか知らねぇが、死にたくなけりゃ、さっさと立ち去りな。さっきみてぇな奇跡はもう起きないぜ?」

 金明は、拳の先を見つめながら言った。なぜ外したのか、自分でもミステリーだったのだ。


「右京、左天、いきますよ」

「はいッ!」

 と、背後からは黄色いやわらかな声がこれまた機械的に二つ聞こえた。二人は、朝霧と信の体をそれぞれ背負っていたッ!音もなくそれはいつの間にかそこにいて、それは当たり前のようにそうしていた。明江もびっくりしたッ!

「ッ!?!?!いつの間に来やがったッ!」

 金明は声を聴いて、びびったッ!二人の小柄な女性は体を運びながら、保護者と名乗る男の方へ歩いてくる。しかも、その金明様をまるで置物でもあるかのごとく、まっすぐだッ!

「させるかよぅッ!」

 通り過ぎようとする右京の方に強烈黒大の右フックッ!だがしかし、また羽毛布団のような柔らかさだッ!そして、パンチが届く前にその拳はパンチではなくなったッ!

「僕の助手に乱暴を働くのは止してください」

「おまえ、俺に何をしたッ!?」

「なんにも・・・。明江さんも、行きますよ。本来ならば、あなたはここに置いていくべき存在ですが、特別です」

「え?あ、ええッ!?」

 明江は勢いでついていきそうになったが、謎すぎるッ!!!

「早く来なさい。死にたいんですか?」

「・・・」

 明江は少し考えたが、置いてかれたら、どう考えても死ぬか、おっぱいか、人質の三択問題だッ!

「あッ!はいはいッ!ついていきますッ!一生ついていきますッ!」

「ああああああああああああッ!ふざけんなッ!ぶち殺すッ!」

 金明は目の前の明江の首をつかもうとしてきたッ!だがしかしッ!羽毛布団のような感触が手の甲に現れたかと思うと、すすすっと、手の動きが横へそれていく。

「うおおおおッ!?俺の手が言う事をきかねぇッ!!!」

「もう、会うこともありませんが・・・風のいたずらですよ」

 保護者は涼しく言った。


「忘れ物はありませんか?右京、左天」

「はい」「はい」

「では・・・。開ッ!」

 保護者が言うと、なにもない青空の空間に、とつぜん金色の襖が現れたッ!その金色はただの金塗装ではないッ!おのずから金に輝いて、まるで生き生きまたたいているようだッ!保護者がふすまを開けると、そこは畳敷きだったッ!

「わぁッ!なにこれッ!?」

 なにもない空間に新しく生まれた和室の違和感が明江は気持ち悪かった。同時にファンタスティックだった。

「まいりましょう。我が家へ」

 保護者がゆっくりと入ると、右京、左天もそれに続いた。

 明江が入るかどうかためらっていると、

「どうしました?」

「あの・・・いいんですか?」

 明江は足を指さした。土足がなんだか気になった。こんな状況だというのに、のんきなものです

「かまいません。その畳、汚れませんから」

「マジッ!?じゃあ・・・お邪魔します」

 遠慮しながら、畳の上へ踏み入れた。

「では、でかい人、さようなら」

 保護者が手をふった。


「ま、待ちやがれッ!!!」

 金明は走って追いかけてくるが、するするするっとふすまが自動的に閉まった。圧倒的なミュートが支配したッ!金明がふすまをつきやぶってくることはない。マジックではない。本当にどこか違うところへ来たのだと、明江にもわかった。

「あの・・・」

「まずは、居間へいきましょう」

 保護者は、次のふすまを開けたッ!

 白い柱の生えた白い床の広場だった。20畳くらいのそれは、大理石のようにてらてらとして、高級感がただよっている。真ん中奥に椅子が置かれているから、玉座なのかな、と明江は思った。

 保護者はその椅子へと歩き出して、

「右京は成平 信を、左天は中聖天、朝霧を治療してください」

「はい」「はい」

 右京と左天は、それぞれ、右と左に歩いて行った。なにもない白い壁の前に立つと、新しい金のふすまを作り出して、出ていったッ!ここに住むための基本のようで、明江は不安になった。ってか、ドアなんて作れるわけがないから、無理だッ!


 保護者は、ふぅと息をつきながら、椅子に腰かけた。

 向かい合って、二人きりになったのに保護者はなにも言わない。眠そうなだるそうな顔をして、金髪をいじっている。

 一人取り残された明江はなんだか、反省で立たされているようなそんな心細さだった。

「あの・・・」

 だが、あえて話しかけるッ!

「ああ、明江さんのお部屋を忘れていました」

 保護者は、人差し指を左にすっとさした。左の壁にふすまが現れるッ!便利ッ!

「ゆっくり休んでください。何か御用があれば、左天と呼んでくだされば、いつでも駆けつけますので」

「あの・・・ありがとうございます」

「はい」

 聞きたいことが山ほどありながらも、とりあえず明江は頭を下げて、保護者はやはり機械的である

「あのッ!・・・」

「トイレですか?」

 と、保護者は指を出そうとする。

「いえいえ、そうじゃなくてッ!」

「なにか?」

「えっと・・・何者なんです?」

「その話は後日話す予定です。まずは休息してください」

「あの・・・でも」

「お代はいりません」

「そうじゃなくて・・・。あ、お名前は?」

 明江はやっとまともな質問ができた。明江が考えるひまもあたえず、次から次へとこの保護者はしゃべるものだから、恐ろしい

 ふぅむ、と保護者は腕を組んだ。少し考えたあとで、


「本来であれば、あなたに話すべきことではありませんが・・・。周りからは、世界王と呼ばれています」


―――世界王ッ!!!


 その響きは遠くはるか彼方を明江に連想させた。


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