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第百十五天 狂気変貌ッ!そこには地獄しかなかった

 倒れた竜牙の前に立ち、両手をひろげたキヨは、78年前となにも変わらなかった。


「くだらん情とやらに期待するのは、やめておけ。死にたくなければな」

 黒王は歩き出した。

「竜牙を殺すのなら、まずわたしを殺しなさい」

「ああ、遠慮なくそうさせてもらう」

 黒王はニヤリと笑った

「キヨさん、ダメですッ!」

「おばあちゃん、ダメッ!逃げてッ!」

 信と明江が叫んでカオスだッ!まったくその通りだった。深黒なオーラに宿る殺意は、留まる事を知らないッ!

「そうだ。逃げろ。我におそれおののき、世界の隅で小さくなっていろ。それが人間の分というものだ」

「わたしは逃げないッ!」

 キヨは腕を強く張った。

「逃げない?・・・人の世を捨て、78年間ただ待っていただけの女が笑わせる。良かろう。ならば、そのくだらん男のために命を捨ててみせよ」

 黒王が近づけば近づくほど、殺気は強くなった。キヨの意思とは無関係に、体は根源的な恐怖からチビりだしたッ!体はがくがくとふるえ、ひろげた手は今にも下げて、逃げ出したい気持ちだった。

 一般人なら、それだけでショック死する。数々の戦をくぐり抜けてきた明江すら、殺意の烈波にチビッて動けなかった。信もこの中をすくいに出る体力は残っていなかった。


「逃げるなら今だぞ。我は78年前の魔のようなゲスとは違う。素直にどけば、見逃してやる」

 キヨの膝はがくがくと震えだして、もう痙攣のレベルだった。歯をがちがちさせ、よだれをたらし、みっともない姿だッ!それでも、手を広げ、立っていた。

「に・・・逃げないッ!」


 黒王が目の前に立っても、キヨは立っていた。その目の意思は変わらず、くいしばって耐えていたッ!

「くだらん意地をッ!」

 黒王は、キヨの腹に五神武を突き刺したッ!本当にさしやがったッ!

「おばあちゃんッ!」

「キヨさんッ!!!!」

 悲鳴が飛び交う大混乱ッ!

 キヨは苦痛に顔をゆがめた。でも、どかないッ!だから、さらに刃を深く刺すッ!どかないッ!そのうちに、刃がスッと通り、キヨの体を貫いた。それでもキヨは目を開き、黒王をまっすぐに見つめていたッ!

「まだそんな目をするかッ!」

「お・・・願い。竜牙を見逃して・・・あげてッ!」


 黒王の顔はゆがみ、怒りにふるえたッ!

 この期に及んで、竜牙の命乞いをするキヨが、忌々しくて許せなかったッ!後ろで気を失っている竜牙も許せなかったッ!

「図に乗るなッ!馬鹿女ッ!」

 黒王の闇がうごいたッ!それは五神武へ伝わり、キヨの体を内から黒く虫食いのように広がったッ!そして、あっという間に、霧散し消滅したッ!


「うぎゃあああああああああああッ!」

「おばあちゃんッ!あああああああああああああああああああああああッ!」

「キヨさんッ!!!」

 明江は泣き狂い、信はめちゃくちゃ苦しい顔をした。それはきっとどんなケガよりもこたえたに間違いないッ!

「馬鹿めッ!本当に死におったわッ!ハハッ!ハハハハハ~ッ!」

 黒王は荒い息をしながら、狂気の笑いだった。


―――だが、刹那ッ!!


 びしびしぃっと、身体中に無数の切り傷ができたッ!黒王の持つ五神武が、抑え込んだはずなのに反発しだしたッ!

 黒王はふと冷静になった。刹那、胸の底からおぞましい痛みが湧き上がってきたッ!

「ぐくッ!・・・おのれ・・・おのれがああああああああああああああッ!!!!」

 黒王は屈辱狂叫したッ!!!押し寄せる過去から現在に、強大な敗北感を覚えたッ!深黒なる気は身勝手で、敗北を感じた途端に逃亡したッ!黒王の力が弱まって、五神武が逆らいだしたのだッ!


 黒王は、スーハースーハーと大きく呼吸した。

「我ハ・・・スベテヲ捨テルッ!」

 心を落ち着けて開いた眼光は、赤白い煉獄に満ちていた。黒王は今、闇そのものとなった・・・。

 さらなる深黒に目覚めた黒王は、竜牙をちらと見おろした。

「フン・・・取るに足らん存在よ」

 狂気の熱意をうちに宿しながらも、冷静だったッ!


 黒王のまとった闇は消えて、いまだに五神武はその肉体を傷つけていた。信はそれをチャンスとみなした。そして、なにより竜牙を殺らせるわけにはいかないッ!

「させるかッ!!!」

 信がなけなしの体力でつっこんでいったッ!黒王がちらと信を見たッ!

「ぐぉッ!?!!!?」

 信は首の締まるような苦しさに崩れ落ちたッ!覚醒した黒王の闇は内に潜んでいたッ!その深い深い深淵は、信に呼吸させることを忘れさせたッ!!!

「今度は貴様か・・・人間ごときが、図に乗るな」

「ぐ・・・ぐぉお・・・ハッ」

 黒王がにらみをきかせると、のどは更にしまって、信は泡をふいていた。

「フン・・・気が失せたわ。馬鹿女にめんじて、貴様らだけは生かしてやる」

 黒王はしゅっと空に消えていった。


 とつぜん黒王が消え、信たちはぼうっとした。濃い闇の緊張感からも解放されて、頭が真っ白になった。

 しばらく、ぼうっとしていた。

 竜牙の命は助かった。・・・いや、安心できないッ!!!

 それにハッとして、

「竜牙ッ!!!」

 と、明江が駆け寄った。竜牙の胸には風穴があいていたッ!

「くッ!」

 信は目を背けた。竜牙はまだ息をしている。だが、助からないのは誰が見てもわかった。

「どうしようッ!?ねぇ、信、どうしようッ!!!」

「わかりませんッ!くそッ!」

「朝霧はッ!?朝霧はどうなのッ!?朝霧~ッ!!!」

 明江は駆け出して行った。

 信はひたいをおさえて、冷静になろうと努力した。だけど、どうしようもなかった。ただできるのは、ふもとの病院へ連れていくだけ。しかし、なんと説明しようッ!いや、説明と言うか、もうなんだかモヤモヤして、自分の頭に抱えきれるようなことではなかった。


「朝霧ッ!しっかりして、朝霧ッ!!!」

 明江は体をゆすった。しかし、朝霧も目をひらかないッ!

「明江さん」

「朝霧ッ!朝霧~ッ!」

「明江さんッ!!!」

「ッ!?」

 信がめずらしく怒鳴って、明江がハッとした

「とにかく、ふもとまで二人を運びましょう。もうなにがなんだろうと、病院に連れていくしかない」

「・・・そ、そうよね」

「そうだッ!この家は電話はないんですかッ!!!」

 信は冷静にクールだッ!家へ駆けこんだッ!和室のタンスの横に黒電話があったッ!なつかしいッ!

「あったッ!これでレスキュー隊を呼べばッ!!!」

 信は電話に飛びつこうとしたッ!


 だが、刹那ッ!!!


 どごぉぉぉぉっぉぉぉぉぉっとすさまじい破砕音とともに、目の前がぐちゃぐちゃにつぶれていた。


「そうはいかねぇな」

 つぶしたそれは巨大な腕だった。黒光りする鉄材のような腕・・・。

「誰だッ!」

「処刑人ってぇとこだな?ヌッフッフ」

 半壊した小屋からのぞく、大きな禿げ頭がわらった

「俺の名は北の海の王、金盧が一子、金明ッ!いざ、尋常に逝くがいいッ!ヌッフッフ」


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