第百五天 寝床
朝霧がへとへとに帰ってきてから、キヨは夕飯の作成にとりかかった。
もう明江はべったりで隣に立って、手伝いをした。
信が帰ってこなくて、どんだけまき割りあるんだよと、何度もツッコミ入れまくりだったが、ようやく帰ってきた手には魚がぴちぴちしていた。川の場所はわかっていたから、夕飯のおかずを釣ってきたらしい。ナイスッ!心得ている
さすがは山寺生まれの美男子である。それだけじゃないッ!そのあと、風呂までやってくれたッ!
食事も風呂も済ませると、眠りは速かった。なんてったってカントリーッ!
やることがなかった。トランプで暇をつぶすのも限界があるッ!
「わたし、おばあちゃんと寝るッ!」
と、明江は言い出して、布団を並べた。
「まだ九時なのに、もう寝ちゃうんだ。はや~い」
明江は暗闇のかけ時計に眼をこらした。
「とんでもない。これでも今日は起きていた方よ」
「え~ッ!?」
「シッ!大声出さない」
明江のリアクションのボリュームがハンパない。彼女はまるで修学旅行のノリである
「おばあちゃんは、竜牙とこうして寝たことあるの?」
「まッ!とつぜんなに言い出すのッ!」
「だって、一緒に住んでたって言うから、そういうのあったのかなって」
おっぱいだッ!おっぱいの事を言いたいのだッ!
「そんなことはありませんッ!はしたないッ!だってその時わたしは、15歳の娘だったんですからね」
「え~、そうかな?恋人ならあってもいいんじゃない?」
「わたしと竜牙はそんなんじゃないのよ、本当に。それに竜牙にはもうそういう人がいたのよ」
「竜牙に恋人ッ!?」
明江はおもわず飛び起きて、目が懐中電灯がわりにすらなりそう
「おばあちゃん、竜牙の恋人知ってるの?」
「待ってッ!恋人かは知らないわ。でも、たまによくうちに来てくれてね。替えの包帯とか食料を届けてくれてたねぇ」
「へ~。竜牙、手当してもらったりしてたんだ」
「しょっちゅう言い合いしてたけどね。ほら、ケンカするほどなんとやらって言うでしょ?」
キヨさんはフフッとわらった。当時を懐かしんでいた。
「竜牙って意外と女たらしね・・・」
「わたしゃ、そんなんじゃないよ」
「あ~や~し~い」
「明江ちゃんこそ、竜牙にホの字なんじゃないのかい?」
「え?・・・わたしは」
明江がきょどった。そうだっと朝霧にはっきり言えた自分はもう過去で、なんだかモヤモヤした。
それは、乙女の恥じらいなのだろうか。自分でもよくわからない。
「いやいや、そんなことより、その女のひとッ!どんな人だったの?」
「背も高くて、キレイな髪の人だったよ」
「もしかして・・・魔の人?」
「うんにゃ、竜牙は同僚って言ってたかなぁ。いつも大聖天様がうんたらって言っててね。竜牙に説教するのッ!わたしにもまじめで礼儀正しくて、身だしなみもしっかりしててね。田舎娘のわたしが恥ずかしくなるくらい」
「へ~。竜牙にもそんな真面目な恋人がいたんだッ!想定外~」
「正反対だから、合うんでしょうねぇ」
「ふ~ん。で?その人はどうなったの?」
「・・・さぁねぇ。あれ以来会ってないからねぇ。明江ちゃん、もう寝るわよ」
「え?もっと聞きたい」
「ダメ~」
キヨは、背を向けた。
ガールズトークはかくして幕を閉じたのだッ!
静かな部屋はかけ時計の秒針だけが響いていた。
明江はキヨの布団に移って、キヨの真ん丸な背中にふれた
「?どうしたの?」
「おばあちゃん、くっついて寝ていい?」
明江は少し声がびびっていた。
「・・・いいよ」
キヨは菩薩の包容力であるッ!
竜牙達との旅は戦いの旅。こんな静かな夜でさえ不安になるほど、明江にはこわかったのだろう。
戦争の不安を受け入れるのは、いつだって大変なことなのだッ!




