第百天 信、滝のなかへッ!朝霧、怒りの追及ッ!
山の奥の滝はそう遠くなくて、かなり立派な滝だった。はるか高いアルプスから流れおちてきた聖水はこの滝でスパークするように弾けて、打たれるには痛そうだッ!
だがしかしッ!信はこれくらいの方がいいとマゾだったッ!
さっと服を脱ぎ捨てて、あっという間に全裸であるッ!その鍛え上げられたムキムキ痩せは、男の俺でさえ見惚れるカッコよさであるッ!
信は岩場から飛び込んで、滝へ近づいた。もうさっそく足がつかなくなっていた。
―――キヨさんの言う通り、深いな・・・だが、それがいい
泳いで滝の下までついた。
痛いッ!白桜寺の滝のようにやさしくはないッ!これは野生の滝ッ!飛び込んだ信に牙をむいてきやがるッ!
その牙は、色白に透け透けの信の肌を一瞬で赤く染めてきたッ!そして、強烈な頭への一撃に信はくらくらして、水底へ沈められるようである。溺れ死ぬッ!超過酷ッ!
それでも、信は気合で座禅を組んで、絶妙なバランスで水面に浮いて見せたッ!座禅を組んで水面に浮くだけでもなかなかできることではないのに、滝に打たれながらとか、マジ神技ッ!
プラスッ!信は心をフラットに、目を閉じた。瞑想にふけるという、超神技であるッ!
ドドドドドッ!滝の激しさが耳にうるさい。だがしかしッ!そんな滝に打たれていても、信の心はすぅっと軽くなりはしなかった。
よくよく考えてみれば、信にはまったく問題はなかった。父が勝手に信を御聖院に推薦し、勝手に命を絶ったのだ。信はただそれに逆らっただけである。だがそれでも、心が痛んだ。
こんなつらい思いを、滝に打たれて解消しようとする。父と自分の姿がマジでダブって、それもまた父の面影が近づいてくるようだッ!
「うおあああああああああああああああああああああッ!」
信は滝の中でトチ狂ったッ!だが、溺れはしないッ!
「竜牙~、朝ごはんだよ~」
と、明江は襖を叩いたが、返事がない
「明江さん、今は眠っているようですから、ほっておいてください」
「まだ寝てるのッ!?寝すぎでしょうッ!体に悪いよッ!」
「ごはんって言われて起きてこないんだから、お疲れなのよ。ささッ!いただいちゃいましょぅ」
キヨは茶の間へ進んだ。明江はムッとした。まるで竜牙のすべてを知ってるみたいで気に食わないッ!
今日の朝食は、味噌汁にナポリタンッ!異色のタッグッ!
「ごめんなさいよ。昨日で白米が切れちゃったもんでね」
キヨは座りながら言った。それはもう聞き飽きていた。
「大丈夫ですよ。こんな豪華な食事ありがとうございます」
朝霧は礼儀ただしい。
「ところで、信さんは?」
「信は山へ滝に打たれにいきましたよ」
「まるでお父さんにそっくりですね」
「さぁ、いただきましょうッ!い~た~だ~き~ますッ!」
「いただきま~すッ!」
「いただきます」
各々に手をつけはじめた。すがすがしい朝の食卓は、信のこともあってか、白桜寺での朝食を思い出させた。落ち着いていてなんともいいッ!なにもいわず、小鳥の演奏をBGMに、三人はムシャガツした。
食後の緑茶で、どっこいしょと一息ついた時に、
「キヨさん」
と、朝霧はまじめで思いつめた顔だッ!
「は~い?」
「あなたにはいくつか聞きたいことがあります」
「尋問タイムッ!?」
明江は大興奮ッ!まあ、明江もキヨのことが謎めいてはいた。その謎が今ッ!解き明かされるッ!
「説教でもされそうな感じかの?」
「いえいえいえいえッ!そんなことは・・・。ただ、ちょっと気になっているだけです」
朝霧は大自然のそよかぜのごときスマイルだッ!
「キヨさんっておいくつなんです?」
「レイディーに歳をきくものじゃなくってよ。ひょっひょっひょ」
キヨはわらった。しわくちゃババアなのに若々しい。
「ああああああああああああああッ!失礼しましたッ!」
と、朝霧は土下座しそうにしたが、
「冗談じゃよ。93歳ッ!」
「93っ?!」
明江がびっくりした。93にして冗談を言うこのよゆうッ!若すぎるッ!
「スリーサイズも聞くかの?」
「いえ・・・」
さらに突っ込んできたキヨに、朝霧は拒んだ。しかし、レイディーがみずから語ろうとしている肉体情報を拒むのもまたギルティー
―――このババア、できるッ!!
「こんなところで、生活なんて大変じゃない?」
明江が素直な質問ッ!なるほど、もっともだッ!
「慣れよ、慣れ。おかげでこの年でも腰がシャッキリコンよ?」
「いや、だがしかし、それにしたってこんな山奥じゃ、死ねば孤独死ですよ?」
「死にませんッ!」
キヨはきっぱり言って、朝霧はビビった。マズったかッ!?
「わたしは、竜牙をずっと待っていたんですから」
「待っていた?・・・預かりもののことですか」
朝霧はぴぴんときたッ!
「その約束もあります。でも、なによりわたしがもう一度会いたかった」
「へ~ッ!ロマンティックッ!!!」
明江の目がキラキラだ
「・・・前に会ったのは、いつなんです?」
「ん~・・・ッと、だいたい、77年前くらいかねぇ」
「77年前ッ!?まさかッ!第百十二次、神魔戦争ッ!?」
「神魔・・・なに?」
ババアは耳に手をあてて、まるでババアだ
キヨは、第百十二次神魔戦争のことを知らないようだった。
最近の戦いでもっともいまいましき戦い。前大聖天が討ち死にした悲痛な歴史ッ!
それは湖畔の戦いで、そう、ちょうどこの地と条件があってるじゃないかッ!
聖天側の敗北に終わったが、魔人が占拠するでもなく、後にはなにも残らなかった、謎の戦争でもあった。
朝霧は西山王のもとで、修行中でこの戦争のことは遠くの地の出来事だった。
「あ・・・いえ。このあたりは戦争があったでしょう?」
「このあたりだけじゃない。この国全体が戦争しておった・・・」
キヨは遠い悲しい目をして、深い悲しみに包まれているのだ
そう、人間同士でも争いがあったのだった。と、朝霧も顔が暗めいた。
「竜牙も戦ってたのッ!?」
「ええ、それはもう強かったんだから」
キヨはにっこり優しい笑顔だ。こんなつらい話をしていたのに、明江のすなおな質問にすぐ笑顔。この心の広さは東京ドームを超えている
「へ~ッ!」
「預かっていた物は、その・・・前の大聖天様の?」
朝霧はおそるおそる聞いた。
「・・・よくわからないわ。ただ、竜牙に預かってくれと頼まれただけ」
「そんなッ!まさかあなたは、聖なる職に仕える身ではないのですかッ!?」
「ただのおばあちゃんッ♪」
「なッ!なぜそんなものを預かったんです!?それが聖天たちにとってもっとも重要にして貴重な最強武具であることは知っていたのでしょう?」
「深くは聞かなかったけれども、大事なものとは言われたわねぇ」
朝霧の興奮に対抗して、キヨはマイペース。気圧差がヤバくて、明江はカゼひきそうである
「馬鹿なッ!下手したら、魔に殺されていたかもしれないのにッ!」
「それでも良かったんですよ」
「・・・えっ!?」
「たとえ、この地が呪われようとも、わたしは竜牙のお願いをことわる資格なんてなかった。あの悲劇は、すべてわたしたち人間のせいなんですから」
キヨははっきりした物言いだった。まるで当時のままの彼女だッ!
すがすがしい朝は一転、重い空気だったッ!




