襲い来る脅威!! 危機回避の為の政策提言 Act.3
さらにその翌朝も、登城を果たしていつものように執務室前へと転移した。
ノックをして名乗るとすぐに、入れとの声がかかる。
「セズシルバス!」
「却下です」
中に入ると挨拶をする暇もなく名を呼ばれたが、何か言われる前に即応した。
今日は礼も取っていないが気にする魔王ではない。
「ま、まだ何も言ってないじゃないかっ!!」
「どうせ碌な事は言いません」
「断言ッ!?」
「そんなことより、早く仕事を始めましょう。今日は謁見がございませんので、これらの書類に認可のサインと……」
言いながら、腕を軽く振った魔界の宰相セズシルバスは、転移魔法でどこから発生させたのか、書類で部屋中を埋め尽くした。
「――待って!?ちょっと待ってくれ!!」
何時にない大量の書類に、青褪めた顔で慌てて宰相の言葉を遮る。
「三度目の正直と言うだろう!?ちょっとでいいから話を聞いてくれっ!!」
切羽詰まった面持ちで、執務机から立ち上がってまで訴える魔王に嘆息しながらも応と返す。
「それで、今度は何ですか?」
その言葉にガバッと顔を上げ、嬉々として話し出した魔王の案――――
「食魔植物を育てるんだ!!」
その案に、魔界の宰相セズシルバスは厭きれるよりも憐れみを覚えた。
「魔王陛下?」
慈愛に満ちた微笑みと優しい声音で魔王を諭すことにする。
この魔王に接するには赤子に接するよりも強い忍耐を必要とするのだろう。
魔王ジョセフは固まった。
「食魔植物をはじめとする食魔類がどんなものかは、ご存じの筈ですね?」
声を出す事も出来ずに、コクコクと首を縦に振る魔王。
「彼らは、それぞれの種別により異なりますが、食らった魔力に応じて、巨大化、凶暴化、大量繁殖を致します」
声を出す事も出来ず、ブンブンと首を縦に振る魔王。
「歴史上、最大の魔力量を誇る魔王ヴェルディルガ・ジョセフ陛下は、一般魔族の平均魔力量と比べ、現時点で50倍ほどの魔力量があります。平均値の魔力量を持つ一般魔族が10人程食われただけで、小さな島一つ沈める程に巨大化する食魔植物キェムガドを、陛下直々に育て上げればどうなるんでしょうね?」
魔王は俯き、優しげな笑みを浮かべる宰相の顔からそっと視線を逸らす事で、殺意を纏って鋭く伸びる爪先を見つけた。
「考え込むことも無く、次々と画期的な案を出される魔王陛下はすごいですね」
――――考え無しにクダラナイ案を出せるとは、貴方の頭は空っぽですか?すごいですね。そんな恥さらしな真似は、私には到底できません。
身動き一つなく宰相の言葉を聞いていた魔王に、それはそんな風に聞こえた。
「今度からは、口に出す前に、それを実行に移したらどうなるのかを、よく、考えてみましょう」
物分かりの悪い子供に、噛んで言い含めるように、一言一言、区切って話すセズシルバスの柔らかい声が耳に入る。
恐る恐る窺えば、相変わらず、慈愛溢れる笑みを浮かべる魔界の宰相セズシルバス。
微笑みの下に隠されながらも、渦を巻いて確かに存在する何かを察して、その日から、魔王は言われるがままに、自発的に仕事した。