襲い来る脅威!! 危機回避の為の政策提言 Act.1
朝、登城を果たしていつものように執務室前へと転移した。
ノックをして名乗るとすぐに、入れとの声がかかる。
「セズシルバス!」
中に入ると挨拶をする暇もなく名を呼ばれる。
顔を上げるといつになく真剣な顔をした魔王ヴェルディルガ・ジョセフがそこにいた。
「一戦頼む。俺を痛めつけてくれっ!!」
数日、青褪めた顔をして言われるがまま仕事をこなしていた魔王は、改まった態度でそう宣った。
魔法を扱う者たちには、その身のどこかに魔力を溜める器があるとされている。
その大きさは、個体差があり器を満たす魔力の量がその者の最大魔力量なのだ。
魔力の器の成長は、その内にある魔力が満たされ、さらに膨れ上がる事によって、内側から押し延ばされるようにして為される。
吹きガラスのようなものだ。
魔力が満たされていなければ、吹き込むのをやめたガラスのように、その器は膨らむ事をしない。
魔力の器が成長する第三次成長期に入った者たちは、なるべく魔力を消費しないようにするのが常だった。
魔王ジョセフはそれを逆手に取ろうというのである。
魔力を手っ取り早く消耗するには、魔法による激しい戦闘を行い重傷に陥るのが一番だ。
魔力を持たないものは、体内物質の機能や薬によって怪我や病を治すが、魔力を持つ者たちは、意識のあるなしに関わらず、魔力が消費され傷が癒えていく。
魔力の成長を抑えるための解決策としては、一番問題が無く効果的な手法だ。
魔力の成長期間そのものを終わらせる術は、いまだ解明されていない。
……というより、そんなことを望む者はこれまでの歴史の中に存在せず、魔力の成長期間を終わらせたいと発想する者すら居なかっただろう。
他の手段としては、魔力を際限なく食らう食魔類の動植物を引っ付けておく、城の研究者に研究テーマとして提示し、早急な解明を要請する等があるが、どれも問題がありすぎる。
魔王の馬鹿馬鹿しい不安を露呈する訳にもいかず、戦闘相手としては私が一番妥当だが……、
「お断り致します」
即座に発せられた簡潔な一言に、魔王が絶句する。
「当たり前でしょう。貴方を瀕死にさせる為に一体どれだけの魔力と時間を浪費すると思っているんですか。貴方の些細な不安を一時的に解消するために、魔区のまとめ役が二人揃って幾日も使い物にならなくなったら、どれだけの仕事が溜まるか分かってます?決裁と指示が遅れれば、それだけ下の者の仕事も滞るんですよ?まあ、私に仕事を押し付けてサボりがちな貴方には分からないかもしれませんが」
魔王がぐっと呻くも反論する。
「――おまえが、仕事のしすぎなんだ。普通の人間と違って寿命も長いんだし、そんなに生き急ぐ事もないだろう?」
「そう言って、先代、先先代、とそれ以前も!書類仕事をサボった魔王たちのおかげで、内諾のみで橋の建築や道路建設、果ては街の増設がなされ、魔区の中枢であるこの魔城に、資料の欠片すら、存在しません!!魔区をまとめ、指示する側に、区域を把握するための資料が無いんですよ!どれだけ由々しき事態なのか 、お分かりですか!?」
すぐに返されたその答えに、今度は呻く事も出来なかった。