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苛む現実の中の疼痛 第二段階

祝十周年!!この『2代目勇者の災難』を投稿し始めてから、なんと十年が経ちました( ̄ー ̄*)

十年前の今日、雪が降る自宅の玄関前でドキドキしながら第一話を投稿したのを覚えてます。

こんな短い小説に十年も費やして、続きを待ってくださってる方には申し訳ないけど、「マイペースに楽しみながら」がモットーなもので、のんびり付き合って頂けたら嬉しいです。

ではでは、これからもよろしくお願いします。



 魔王コレットとその友人との会食を終えた魔界の宰相セズシルバスは、巨人やドラゴンでも通れるような、長大な回廊を歩み進んでいた。行き交う魔族はもうすっかり夜行性のものばかりである。


 転移すれば即座に目的地に着けるが、そればかりでは足が鈍る。


 魔力の消耗と筋力の維持、時間のロスを計算して、多少の距離なら歩いて移動するのがセズシルバスの常だった。


「おや、これは、これは。久しぶりですな、宰相殿」


 回廊で出会い頭にそう声を掛けてきたのは、経理担当の財務長官ザロバ・ジフだ。厭な相手に出くわしたとは思いつつも、そんなことはおくびにも出さず、挨拶を返す。


「ええ、お久しぶりです、財務長官殿。珍しいですね、貴方が魔王城に来られるとは」


 財務長官のザロバ・ジフは魚人の呼露魔族である。


 湿気を好む性質故水中か水辺にいることが多く、乾いた石造りの魔王城には滅多に来ない。


 おおよそ人間と変わらぬ姿をしているが、その腰からは鯰の尾が生えており、黒い上着の裾から覗いている。


「そうですな。最後に、此処に、来たのは、魔王城内の、調度品が、全て、盗まれたという、知らせを、受けた時、でしたから、彼是、二百年ほど、前の事に、なりますな」


 鰭のような水かきのある指で、長々と伸びた鯰髭を几帳面に整え、ジフは何気ない顔をして昔話を始めた。嫌な話を持ち出され、セズシルバスの微笑が一瞬固いものとなる。


「全く、人騒がせにも、程があるというものです。良く確認もせず、連絡を寄越した者もそうですが、伝達もせずに、調度品を、大移動させるなど、騒ぎになって、当然ですなぁ?宰相殿」


「ええ、その通りですね。申し訳ありません。その節はご面倒をお掛け致しました」


 ゆったりと間を取り、時間を掛けて言葉を紡ぐ財務長官に内心苛立ちながらも、表面上は穏やかに謝罪を述べる。


「八百八年、この、魔王城で、財務長官を、務め続けて、参りましたが、私が、態々、魔王城まで、出向いて、無駄足に、終わったのは、あの日、以外には、ありません。水棲魔族にとって、乾いた陸地が、どれ程、息苦しいものかは、あなたには、分からないかも、しれませんが、あれきりに、して、頂きたいものですな。そして、あの日以降、何故か――」


 陸地が息苦しいというのなら、速やかに用を済ませて水辺に帰れば良いものを、この財務長官は無駄にゆっくりと長話をするのだ。


 どんな時も効率を重視し、時間を無駄にすることが嫌いなセズシルバスが最も苛苛とさせられる相手である。しかし、嫌味混じりの指摘に返す言葉が無いことが、セズシルバスには何より腹立たしかった。



 200年前に行われた魔王ヴェルディルガ・ジョセフと一人の人間との戦い。


 それは、魔王ジョセフの何とも馬鹿馬鹿しい懸念が発端であった。


 当初はまともに取り合う心算が微塵も無かったセズシルバスだが、何度もその話を持ち出すジョセフの執着を利用し、本来魔王がするべき仕事をこなさせるべく、実現に向けて手を貸すことにしたのである。


 勇者役の男の到着予想日時から前後一週間、魔法により大規模な清掃を行うという名目で魔王城を閉鎖し、魔区の住人たちを遠ざけ、有り余る魔力を消費したいと存分に暴れるつもりでいるジョセフから価値ある調度品を守る為に、セズシルバスは城内の物を自分の邸宅へと転移魔法で移動させていた。


 事が終わり次第元に戻す手筈であったが、魔王城の閉鎖中に侵入する者が居たのである。


 閉鎖期間中、城内に人気が無い事に目を付け窃盗を目論んでいた侵入者は、目星を付けていた品々だけでなく普段当たり前のように設置されている調度品の類まで跡形も無く消え去っている城内に仰天し、城付近の街中で「城中の調度が盗まれている」と騒ぎ立て、魔王城の財務長官ザロバ・ジフに連絡が行ったのである。


 2500歳を疾うに過ぎたザロバ・ジフは、現在魔王城で職務に就いている者の中では最高齢であり、宰相となる以前にその部下として働いていたこともあるセズシルバスには、何とも遣り辛い相手であった。



 苦痛に耐えるような心持ちで聞いたザロバ・ジフの話が終わったのは、およそ一時間後。


 ぬめりを帯びた薄い褐色の尾鰭を揺らめかせ、再び歩み始めるジフを見送り、セズシルバスは再び歩きだした。


 キーキーと鳴き、コツコツと骨を鳴らす骸骨蝙蝠達のざわめきに紛れるように、どこかで自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。




今回登場した「骸骨蝙蝠」は、加純さんに描いて頂いた本作のイラストに描かれていた魔物です。

許可を頂けたので作中に登場させてみました。

加純さん、ありがとう!!


10周年記念に、番外編『2代目勇者の災難 R』を投稿しました。

よかったらご覧ください(*^-^*)

https://ncode.syosetu.com/n7351gr/

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最新話を読ませていただきました(*'▽'*) 魔王さん、代替わりしてしまったのですね!? いったいなにがあったのか気になります。 キャラクターたちがみんな可愛くてとっても楽しませていただき…
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