栄華に生きる偉大なる歩み 其の二歩
10000pv突破しました><
御贔屓にしてくださって、ありがとうございます。
(*^_^*)
突破したその日に「裏設定的な落書き」をアップいたしました……が、あれは突発的に上げてしまったもので、その内消しちゃうかもしれません。
(逆に増えてるという事もあるかもしれませんが)
なんかね、記念的な節目になると、何かやりたくなっちゃうのですよ。
正月とか誕生日とかエイプリールフールなんかのイベント事が大好きなのです。
私、絵を描くのも趣味なのですが、コイツを絵で見てみたいってキャラ、いますかね?
因みに、私が今一番描いてみたいキャラは部長だったりします。
( ̄ー ̄*)
ここは、魔王城理化学研究部、研究所。
一般人には見慣れないだろう実験器具や発明品で満たされたこの部屋は今、身に染みる様な沈黙に包まれている。
別に、無人という訳ではない。
今、研究所には総勢十三名の関係職員達が一堂に会している。
全員が全員、無口という訳でもない。
では何故、この場がこんなにも静けさに満ちているのか。
……疑問の答えも此処にある。
床に広がる赤い液体。
ぼさぼさ髪のピンク頭を血に染めて……、
魔王城理化学研究部部長が、うつ伏せになって倒れていた……。
一研究職員であるアルワス・テーナは、目の前の魔王城理化学研究部部長のピンク頭を感情の籠もらない目で見降ろす。
彼女の右手には凶器となったタイリクオオウミガメが、甲羅に首を引っ込めて、その場をやり過ごそうとじっとしていた。
研究所のマスコットであるタイリクオオウミガメのリクちゃんは、体重30kgの巨漢を引き摺りのたくた歩く、亀のような不思議生物である。
その身体は堅い甲羅に覆われて、前足は陸亀のそれ、後ろ足は海亀のような形態をしていた。
無論、これで殴られたらひとたまりも無い。
勿論、それで殴られた魔王城理化学研究部部長は……、瀕死の重傷である。
しかし、この場に彼を気遣う者は皆無であった。
気を遣るべきは、この場の空気。
そして、彼女の動向だ!
大切なのは自分の命!
そんな訳で、この場はこんなにも薄ら寒い緊張と沈黙に包まれていたのである。
暫しの沈黙の後。
周囲の注目を一身に受けていたアルワス・テーナは、足元にまで届いた血だまりをぴちゃんと跳ねさせると、タイリクオオウミガメのリクちゃんを、そっと床に下ろした。
そして、無表情を一変、いつも通りのあどけない苦笑で顔を上げ、いつも通りの明るい口調で言葉を放つ。
「まったくもう、幾ら待ち望んだ装置を完成させたからって、はしゃぎ過ぎですよ?部長」
彼女はそう言って、既に意識の無い部長へと語りかけ、その腕を鷲掴んだ。
「部長もいい大人なんですから、恥ずかしい事しないでくださいよね!」
彼女は尚も語りかけ、長身の部長を無造作に肩に背負うと、ぴちゃり、ぴちゃりと血溜まりの上を進む。
研究室の外へと繋がるドアに向かって歩き始めた彼女は、クルリと皆を振り返ると、そばかすの浮かんだ顔でにこりと笑んだ。
「ちょっと、医務室に行ってきますね。皆も徹夜続きで疲れたでしょう?休憩にしましょう。仮眠でも取っていてください」
優しさ溢れる気遣いに、心和む者は居なかった。
何よりも、そばかすと共に顔に散った返り血が、恐ろしくて仕方がない。
故に、「頭を打った意識不明の重体者をむやみに動かすのは危険だ」と、彼女に教える者も居なかった……。
背負った部長の足をズリズリと引き摺り、研究室を出たテーナは医務室へと向かった。
長く仄暗い回廊を渡りながら、自分の顔のすぐ横にある部長の充血した白目を見て、ふう、と軽く息を吐きだした。
さっきは、部長のあまりにもな浮かれっぷりを見て、思わず殴ってしまったが、部長の気持ちが分からないという訳ではない。
やっと、完成したのだ。
此処数十年の苦悩がやっと報われる。
その興奮と解放感が部長の理性と羞恥心を吹っ飛ばしたのだとしても、仕方がないのかもしれない。
何が悲しくて、あの歳になってあんな高笑いをしたのかは、テーナには到底理解できぬ事ではあったが、そう、無理にでも理由を付けて納得する事にした。
魔王城理化学研究部研究所は、その名の通り、魔王城内で設立・管轄された研究機関である。
主に、魔力やその活用に関わる研究開発を行っているが、物理学や生物学、化学や工学など多岐にわたる分野で多くの実績を上げていた。
研究テーマは、国から否応なく押し付けられる事もあるが、基本は研究職員の自由にできる。研究職員は12人。それぞれ得意分野が異なり、各々で研究テーマを持ってはいるが、ここ近年、研究部員全員が結束して取り組む、あるひとつのテーマがあった。
『科学技術による魔力生産方法の発明』である。
これまで、魔力が物に宿る仕組みや、自然的に魔力が発生するまでのメカニズムは、長い間謎とされ、多くの研究者たちが挑んだテーマであった。
それが、約50年前、かなり有力な説が発表された事によって、魔法化学会を席巻したのである。
もちろん様々な論議が巻き起こり、否定的な論説が呈される事もしばしばだったが、否定をされるごとにそれを覆し、その説は信憑性を高めていったのである。
その説は、我が魔王城理化学研究部でも専らの話題になり、何時しかこの説を基に人為的に魔力を造り出そうという試みに繋がったのであった。
成功すれば一大発明である。
「私の地位と名声は鰻登り間違いなし!私は歴史にその名を刻まれ、全世界の凡人に仰がれ敬われるのだ!!」
と、例の如く高笑いを始めた部長を中心に魔王城理化学研究部では、魔力生産方法の確立を目指す事となったのである。
人為的に魔力を造り出すというテーマは、探究心溢れる研究職員達にとっても魅力的なテーマであったのだった。
先ほど完成した装置は、この研究を進めるにあたって無くてはならないものだった。
長年の研究過程を思い返し、感慨に耽りながらテーナは歩みを進めていた。
広大な魔王城の地下2階にある研究所に対して、医務室は地上2階にある。
女性がたった一人で大の男を背負って運ぶには長すぎる距離だ。
けれどもテーナは、そんなことをチラとも意に介さずに、平然として階段さえ昇ってしまう。
地上の階に出れば、そこは地下とは違って格段に人通りが多い。
通りかかる人々は、大の男を平然と背負い、血に染まった少女を目に留めては、顔を引き攣らせて目を逸らした。
そして、後に残された引き摺ったような血の痕跡を目にしては、空恐ろしさに身を振るわせるのであった。