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満腹竜の息吹は何処? グルメを廻る旅のニ食



 この半年、何も食ってばかりいた訳じゃない。



 オレは勇者の案内役というだけでなく、勇者の鍛え役まで押し付けられていたからだ。



 オレは魔区の将軍だ。


 もちろん部下も持っている。


 オレはしばしば副官を呼びつけては、突然現れた魔物として、勇者に稽古をつけさせていた。


 まあ、たったの半年で、魔区でもないのに頻繁に魔物に遭遇したら不自然だから、たったの2回程度だが。



 副官には魔法攻撃を中心に、適当に勇者を鍛える様に言っていた。


 最後には、やられた振りをするようにとも。


 勇者はロッグジェグバの剣の効果に驚喜して、己の強さに自信を持ったようだった。



 人の上に立つ上司としては、部下を信じて仕事の一切を任せる事も、重要な仕事の内だと言えよう。


 故にオレは、屋台の串焼きや揚げパンなんかを食いつつも、ちゃんと仕事をやっていた。





『とにかく、貴方は、案内をしてくださいね。寄り道などせずに』



 宰相からの駄目押しを受け、一晩悩んだオレはある妙案を思い付く。


 多少の回り道をして、農の国の王都へ向かい、世界料理大会のみならず一週間開催される食の祭りを思う存分堪能しても、宰相への言い訳が立つ、とびっきりの案である。


 オレは早速部下を呼び出し、勇者に稽古をつけさせた。




 もし仮に、勇者が移動不可能な程の重傷を負い、瀕死に陥ったとしたら、それは早急な治療が必要とされる事だろう。


 オレは、誠に残念ながら、治療魔法の類を一切使えない。


 なので、仮に、勇者が重傷を負えば、医者に診せる必要がある。


 まぁ、怪我したやつを医者に診せてやるのは、人として当然のことだ。


 (判断付かない微妙な奴もいるが、魔族だって一応は人である。俺は竜人だ)



 そして、それ程の重傷ならば、こんな小さな町の診療所より、国境近くの村医者よりも、王都のようなデカイ街の医者の方が、たぶん、イイ感じに治すのではないだろうか?



 オレは、「突如として現れた魔物」に、ボロボロにされて重傷を負った勇者を引き摺り、王都の医者へと診せるべく、意気揚々と旅立ったのであった。





 応急手当てを受けることなく、一週間、道中引き摺られて過ごしたズタボロの勇者は、王都の医者に引き渡した頃には、結構ひどい状態だった。


 傷は化膿し、脚は腐れて、正に虫の息といった状態だ。


 人間は、魔族に比べて寿命が尽きるのが早いというのは知ってはいたが、症状が悪化するのも早かったようだ。



 そんな状態の人間を文字通り引き摺って来た魔界の将軍デルクバレシスを、只のしがない町医者は、人非人を見る様な目つきで見た。


 少々、極まりが悪い心地を感じた魔界の将軍デルクバレシスは、「オレが見つけた時はその状態だったんだ」と、言い訳にもならない言い訳をして、逃げるように祭りの雑踏へと消える。



 善良な精神から医者を目指したその町医者は、目の前で苦しんでいる一人の患者を救うべく、治療を開始し手を尽くした。


( 可哀想だが、脚は切り落とすしかないだろう )



 苦渋の決断に、その顔を歪ませながら……。









 ズタボロの勇者を取り敢えず、王都の医者へと託したオレは、当初の目的である【世界料理大会ファットコンテスト】の会場へとやって来ていた。



 農の国ファットムロンダの秋祭り【食の祭典】は、世界中から注目される世界三大祭りの一つに数えられ、中でも2年に一度の頻度で開催される【世界料理大会ファットコンテスト】は目玉イベントとなっている。


 世界中から集まった、腕に自信のある料理人たちが、三日をかけてその料理の腕を競うのだ。


 多くの人が見物する為か、野外広場に設定された会場は、一画が特設ステージとなっており、その上で調理や審査が進められていた。



 此処に来るまでの大通りも、至る所に屋台が建てられ、あちらこちらの調理台から旨そうな匂いを漂わせていたが、ステージ上の調理台から漂う匂いはそれを軽く上回る勢いで美味そうだ。



 今は昼時。ちょうど昼飯の時間である。


 ざわつく会場の中、その料理を食べられる時を、まだかまだかと待っていたオレだったが、一向にその時が訪れる事は無く、気付けばその日のコンテストは、もう終了となっていた。



――コンテストの品は一般人も審査出来るんじゃ無かったのか!?


 オレは隣の奴に、疑問をぶつけた。



「あ~、残念だったな~。一般人が審査出来んのは初日だけ!今日は二日目だからな」


 …………。


 そう言うソイツは、……食ったんだろう。



――「残念だったな」と言いつつも、顔がニマニマ笑っている!


 オレは無性に腹が立ち、ソイツを噛み砕いてやりたくなったが、我慢した。





 その帰り道、何を食ってもどうにもできない苛立ちを抱えたオレは、ふと目にした調理台の上に骨が転がっているのを発見し、それをガリボリ喰らってやった。


 周りに人がいないのは確認済みである。


 素知らぬ振りして帰ろうと、歩き出してしばらくの事。



「ギャァアアァァア!!!!超珍味!!な幻の魅惑食材、【金の鳥】があぁあぁぁあああ!!!!」


 突然響いたその絶叫に、聞き捨てならない単語があった。


 オレは、その絶叫の元へと瞬時に向かった。




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