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夢見る羊のお伽噺 第ニ話



 魔区外で信仰されているユセアス教の神話は、一応魔区においても知られている。


 世界を創ったのは、ユセルアーナスという名の女神で、遠い昔、一人の人間の若者に、その加護を与えて魔王を倒させたのだとか。


 普通の人間よりかはよっぽど長寿な魔族だが、真偽の程は定かではなかった。




 夢幻郷と呼ばれる空間を足早に渡っていく。


 星月夜の煌めく空の中にいるような、この不思議な空間はバパムメレのお気に入りだったが、今は、とっととやる事をやって、一刻も早くジェデクに会いたかった。




 星のように輝く数多の夢や幻の中から、目的の男の夢を見つける。


 バパムメレは角を隠すために、衣装とともに用意されていたヴェールを被ってその中へと飛び込んだ。




 くだらない計画を推し進める魔王さまの言う通りにするのは嫌だけど、やり直しに等ならないよう、ちゃんと女神らしく振舞おう。


 そう決意して、姿勢良く、品の良い微笑を湛えたバパムメレが次に居たのは、ほの暗く冷え切った、石造りの部屋の中だった。



 男はこちらに背を向けて、ボリボリと背中を掻きつつ、行儀悪く寝っ転がっている。


 剥き出しの石壁はかなり汚く汚れていて、部屋には窓もドアも無い。


 後ろを振り返れば、幾本も並んだ太い鉄柱――鉄格子があった。



 投獄された事のない者が見る夢にしては、かなり現実的な再現だ。


 饐えた臭いまでしてくる気がする。



 バパムメレは、周りを無視して言い放った。


「ジャルダス・テルガン、貴方を勇者に選びます。魔界へ旅立ち、魔王を退治なさい」


 男が億劫そうに振り返る。


 その焦げ茶の瞳がバパムメレを見つけると、下卑た笑いに口を歪めた。



「あぁ?何だ、ネエチャン、お相手でもしてくれるってかぁ?」


 バパムメレは、男を無視した。


「私は創世の女神、ユセルアーナス。これは、私の加護を剣の形に具現化させたものです。この聖剣ロドリゲスを持っていれば、悪しき魔物の攻撃魔法は即座に打ち崩される事でしょう」



 そういって、ロドリゲスをふわりと浮かせ、床とは水平の状態で男の元まで移動させた。



 普通なら、こんなことが出来るのは宰相のような風使い位だが、此処は男の夢の中。


 ちょっと魔力を乗せて想像すれば、簡単なものである。


「へぇ~、これで攻撃魔法が利かねえってか。んな都合のいい剣があるかッつうの!まあ、只の剣だったにしろ、こいつは貰っといてやるぜ」


 夢の中だからか、空に浮く剣を驚く事も無く受け取ったその男は、徐に立ち上がるとバパムメレの腕をつかんだ。


「で?ネエチャンよぉ。人にモノを頼むときゃ、如何するもんか、モチロン、わかってるよなぁ?」


 掴んだ腕に力を込めて、バパムメレを引き寄せる。


 男が、にやにやとした嗤いを浮かべながら、その顔を近づけた。


 男の生温かい息が顔に吹き掛かり、口臭が鼻に付く。


 男の力は存外強く、とてもじゃないが、バパムメレでは振りほどけない。


 端から見たら逃げ場もなく、絶体絶命というこの状況下で、彼女はこんなことを考えていた。



 ――魔王を退治するように伝えたし~、ロドリゲスも聖剣だと言って女神らしく渡したから~、もう、終わりで良いよね~。




 そう結論付けると、バパムメレは目の前の男の腕を逆に掴み返し、股間に膝蹴りを喰らわせた。


「オジサン、息臭い」


 男の急所に強烈な一撃を喰らい、もんどり打って男は倒れる。


 彼は声にならない叫びを上げて、床の上に縮こまった。



「それじゃ、私急いでるからもう帰るけど~、ちゃんと魔王、退治に行ってよね~」


 そう言うと、自称女神は跡形もなく消え去って、後には、痛みに震える男と聖剣ロドリゲスが、床に転がり残されていた。







 数時間後、とある国のとある街に、一人の囚人と看守が居た。


 看守は軽いサディストで、囚人は恐喝をして捕まっていたなんともガラの悪い男だが、あと三日もすれば釈放されるはずだった。



 ある日の朝、看守が見回りを兼ねて朝飯を持って行くと、牢屋の中には、なんと、蹲る男とともに、長剣が転がっているではないか!


 看守は慌てて仲間を呼ぶと、何故か既に顔色が悪い囚人を叩き起し、さっそく尋問を始めた。



「牢獄の中、どうやってこの長剣を入手した?」


 囚人は始め、知らぬ存ぜぬの一点張りを突き通し、何も吐こうとしなかった。


 しかし、看守は囚人に剣を見せた時の動揺を、見逃すことはしていない。


 看守は追及の手を緩めることなく、尋問を続けた。



 やがて、囚人は訳の分からぬ陳述を始める。



 曰く、自分は女神ユセルアーナスに選ばれた勇者であり、その長剣は女神が授けた聖剣ロドリゲスであるのだと。


 ――ふざけるな!!誰がそんな話を信じるか!




 俄然、看守は尋問に燃え、男の拘留期間は伸びたのだった。





 単純なことに気づきました。

 予約はしたので嘘にはならないということを。


 そして、今日、連載初めて一ヶ月なのですよ。

 これはもう、投稿しちゃおうということで。


 取調室で尋問を受けていた彼、本文では割とあっさり書いちゃったんですが、その特徴をもうちょい詳しく描写するとですね。


 風呂にも入らず牢獄生活だったもので、髪はフケだらけでボサボサ。顔は無精髭に覆われて、歯は黄ばんでいたのです。


 そんな囚人の供述が、アレだったわけですよ。


 おちょくっているのか、狂い始めたようにしか思えませんよね。


 彼、ちゃんと本当のことを話してたのに……。



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