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飛び交う剣舞の打ち合わせ 三合



 魔界唯一の鍛冶師であり、世界一の腕前を誇るドッドはしかし、センスが悪い。



 彼に言わせると、ただシンプルな剣を造るのではつまらず、牛の目玉だとかその辺の怨霊だとかを装飾し、オリジナリティを追求したくなるのだとか。


 セズシルバスも多少は剣を嗜んだが、己のセンスとプライドにかけて、ドッドの剣を使った事は一度として無かった。


 彼の剣は此れまで幾度も見てきただろうに、どうして魔王はこの事態を想定できないのか。


 理解に苦しむ。



 取り敢えず、成り行きを眺めていると、覚悟を決めたか魔王ジョセフが口火を切った。


「ロッグジェグバ」


「お、なんだ?気に入ったか?」


「……悪いが、これはダメだ」


「は?何故だ?」


 魔王は徐に駈け出すと、投げ出していた絵本を拾って戻ってくる。


「コレ!こんな感じのやつが良いんだ!!こんなのを頼む!」



 そう言って、泣く子も黙る存在であるべき魔王ヴェルディルガは、子供向け絵本の挿絵を指差した。



 絵本の勇者が掲げる剣は、全体的に金色で、湾曲のない、十字型のまっすぐな剣だ。


 刀身は、太めの両刃となっていた。


 柄の上部には青い宝石が嵌め込まれ、金の彫刻で形作られた翼が一対、宝石に沿うようにして弧を描いている。


 そこから光が放たれているかのように、同じく金色の線が放射状に伸ばされていた。


「・・・そうか、イメージが違ったか。すでに決まったイメージがあるなら早く言え」



 「金色」、「太めの刀身」、「柄の上部に嵌められた玉」等と、類似点は多々あるものの、さすがは鍛冶師!


 刀剣に対するこだわりには理解があるようで、そう言ったロッグジェグバは残念そうに、軽く眉尻を下げてはいたが、割とあっさりとした態度だった。


 分かってもらえたようでほっとした魔王は、すぐに作ってくるというロッグジェグバを見送った。





 一ヶ月後、ロッグジェグバが持ってきたのは、原寸大の鷲の剥製……の背中から、「まっすぐな」刀身が生えたものだった。



 二本の足が布によって巻かれてあり、そこが柄になるようだ。


 鷲の翼は左右に大きく開いており、翼の先から翼の先まで、裕に一メートルはあるだろう。


 振るう時の空気抵抗が凄そうだとか言う以前に、かなり邪魔だ。


「どうだ?これならいいだろう?」




 三ヶ月、待ちに待った勇者の剣は、そのオドロオドロシイ見た目に没になり、更に待つこと一ヶ月にして、目の前に出されたのは鷲の剥製……。


 魔力の成長は未だ止まらず、日に日に膨れ上がっていくばかり。


 魔王はキレた。



「いい訳ないだろう!?鷲の剥製引きずる勇者がどこにいる!?……なんでこんなに悪趣味なんだ!!」



 怒鳴った魔王は、顔を覆って天を仰いだ。


「悪趣味とは何だ!悪趣味とはッ!!……全く、近頃の若いモンときたら。少しは芸術に理解を示せ!」


 悪趣味という言葉に反応を示し、そうぼやいたロッグジェグバに、魔王は呆れた視線を返す。


「ロッグジェグバ……。おまえ、自分よりよっぽど年上の、師ラグアスにもそう言われていただろう……?」


 ラグアスは、ドッドの鍛冶師としての師匠であり、養い親でもある。


 師の名前付きで指摘されたその事実に、若干怯んだロッグジェグバは、少々ムッとしながらも、「すぐに代わりを打ってくる」と、言い残して帰っていった。





「竜の目玉を飾るなら宝玉にしろ!」


「それでは強度が落ちる!」


「刀身が朱色と漆黒のマーブル模様をした聖剣なんてあり得んだろう!!」


「だから、いいんだろうが!ありふれた剣など造ってもつまらん!!」




 その後も幾度か、ドッドの剣の献上とそれに対する魔王の駄目だしという応酬は続き、


……二ヶ月後には、魔王ジョセフは、立派なクレーマーと化していた。


 魔王を補佐する宰相の私としては、もっと別の面での成長をして頂きたい。


 魔王は喚いた。


「いいから!もう、装飾とか付けなくていいから!!シンプルなやつでいいからっ!!」


 涙目で。






 こうして、見た目無難な聖剣は、この三日後に、ロドリゲスという名でこの世に誕生した。



 ロッグジェグバ・ドッドとしては、手抜きに手抜きし、その効果の程は、向けられる魔法攻撃の無効化のみ。


 なんとも、不満の残るこの作品に、ロッグジェグバは銘を入れはしなかった。






 後に、人間界で後生大事に残されるこの剣は、女神に授けられし宝剣としてエレミア国の神殿に奉られ、神官の術でその効果範囲を拡張させる事により、戦時の護りにも一役買うのだが……。



 魔王討伐を果たし、帰還した勇者に知らされた聖剣の名。



 「ロドリゲス」



 その名を広めることは、エレミア国王宮と神殿上層部により、頑なにまで憚られ、王国の闇の歴史までをも綴る閲覧禁止図書に、ひっそりと書き添えられただけだった。



 世には、【勇者の剣】としてのみ伝わって、その二つ名を馳せている。






初ポイントと初お気に入り登録に浮かれてしまったので。


書いたものって人を表しますよね。


私、単純なんです。



因みに、


魔剣に禍々しいイメージがあるのは、このセンスの悪いロッグジェグバ・ドッドが魔界唯一の刀鍛冶であったからに他ならない。


と、いうのがこの世界での設定です。



次は、お伽噺を投稿します。


ちょっと短めですが、私のお気に入りです。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 職人としては不満の残る剣が勇者の剣として奉られてたんですね(*´艸`) なんかニヤニヤしてしまいました笑 なんかちょっと可哀想な魔王さんと、なかなか思い通りに動いてくれない部下たちのやり…
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