遊び女の品定め 演じる役者はニ枚目?
届いた2杯目の酒に口付けた時、入口のベルがカランと鳴って、新たな客がやってきた。
現れたのは栗色の髪をしたまだ若々しい青年で、若草色の瞳がさわやかな印象を与える。
均整の取れた体つきをしており、しっかり筋肉もついている。腰には剣を帯びていた。
「よっ!久しぶり」
声もちょっと低めでかっこいい。
リーリートゥは、うっとりと彼を見つめると、酒の入った器をテーブルの上に置く。
彼は、先に来ていた仲間たちを見つけ、斜め前のテーブルに着いた。
しばらく、彼を眺めていると仲間の男が気になる事を口にした。
「おまえ、エレミア国の武術大会で優勝したんだって?」
栗色の髪の青年が、呆れたように言葉を返す。
「おまえは、相変わらず耳が早いな」
「おっ、認めやがったか。ば~か、大国エレミアの武術大会で優勝っつったら、そこらのおばちゃんにだって名前が知れてるッつうの」
「よっ!世界一ッ!!」
「あそこの大会、優勝賞金、いくらだったっけぇ?」
「よっしゃ、今日はお前の奢りな!!」
その話題に他の男たちも乗っかって、声を張り上げ盛り上がる。
栗色の髪の青年は、苦笑しつつも観念して、今日の酒代を引き受けることを了承していた。
エレミア国と言ったら、この国の北東に位置する大国である。
魔区外にたびたび遊びに来ていたリーリートゥも、その大会を知っていた。
むくつけき男たちの集まる祭りと聞いて、何度か見に行った事さえある。
かなり規模の大きな大会で、他国からも人が集まり三日をかけて優勝者を決めていた。
魔王サマの足元どころか宰相のセズシルバスにも届かないであろうが、その大会の優勝者たちは確かに、人間にしては強かった。
――あれくらいならぁ、魔王サマも満足かもしれないわねぇ。
このまま、何日も情報収集が続くかと思われていた矢先、思わぬところで発見した有望株に、リーリートゥは目を輝かせる。
――その時、店内に短く悲鳴が上がった。
「や、やめてくださいっ!!」
店の中央で、先ほどの店員の女の子が酔っ払いに絡まれているようだった。
「いいじゃねぇかよぉ、ちっとくらい。減るもんじゃねえだろうが」
そう言って、酔っ払いの男が尚も女の子のお尻に触る。
その腕を、いつの間に移動したのか、栗色の髪の青年が、掴んで止めた。
「嫌がっているでしょう?やめたらどうなんですか?」
「あぁ?なんだ、文句でもあんのかぁ?手ぇ、放せっ!!」
そういって男は、青年の腕を振り払って殴りかかる。
青年はそれを軽く避けた。
店内の中央に、荒れそうな雰囲気を察した客たちが、早々に壁際に避難する。
二人の周囲が開け、こちらからも見やすくなった。
リーリートゥは、騒ぎの中心となった、その彼をじっと見つめる。
相手の胸ぐらを掴む太い腕、がっしりとした肩幅、腰にある重そうな太い長剣へと、視線をずらしてじっくりと眺める。
揉み合いで肌蹴た胸板は、思ったよりも逞しかった。
体力ありそうだしぃ、結構強いみたいだしぃ。
「決~めたっ。彼にしよっと」
リーリートゥは声も軽やかにそう言うと、勘定を残して、そっと消えた。