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遊び女の品定め 演じる役者は一枚目?



 ――商の国サンマルチェッタ。


 魔区外にあたる大陸の西側。

 その中心にあるサンマルチェッタ国は、整備された交易路で近隣各国と繋がっており、商の国との呼び名に相応しく、商業盛んでどこも人気に溢れていた。


 どの街も、行商人や旅人たち、馬や馬車が行き交って、常に活気に満ちている。


 それは、夜も深まるこの時間でも変わらない。



 歓楽街のとある一軒の酒場でも、何時ものように酔客たちが騒ぎ、だみ声や笑い声で賑わっていた。


 店内は、所々に吊るされたランプの明かりで照らされており、煉瓦造りの埃っぽさが酒の匂いに紛れている。



 そんな店の片隅で、酒を片手にじっとしている客が一人。


 店内だというにも関わらず、外套を着たままフードを目深にかぶっているその客は、フードの奥から静かに、他の客たちを観察する……という訳でもなく、そっと、悩ましげな溜め息を吐いた。



「ふぅ、どうしようかしらぁ?」


 野暮ったい灰色をした外套の中で、組んだ足を組みかえる。


 白く滑らかな細い足が、チラリと覗くが、ここは一番目立たぬ店の隅。


 加えて、テーブルの下であることから、気付いた者は誰もいない。


 隅のテーブルの陰気な怪しげフード野郎が、絶世の美女とも言うべき妖艶な女だという事実にも、誰も気が付かないのだ。


 一つ手前のテーブルでは、酔った男の集団が、酒樽を抱いて寂しい一人身を嘆いていた。



 ――今夜は、あのコ達の所に行こうかしらぁ。



 少し前からこの店にいる淫魔族のリーリートゥは、酒の杯を少し傾け、舐めるようにちびりと飲んだ。



 ――チョット訊いてまわるだけで、すぐに終わると思ってたのになぁ。



 魔王サマから勇者探しを引き受けて三日。


 勇者探しは思いもかけず難航していた。



 リーリートゥが、「強い男を探しているのぉ、知らないかしらぁ?」と尋ねると、皆そろって自分だと言い張るのだ。


 数人かち合った時に、言い争いから喧嘩に発展していたが、てんで弱くて自己申告はあてにはできない。


 仕方が無いので自分で情報収集をしようと、こうして酒場の噂に耳を傾けていたのである。



 因みに、リーリートゥが「強い人間」ではなく「強い男」と、男限定で探しているのは何も男好きだからではない。


 女が弱いと思っている訳でもなく、リーリートゥは最初から、男限定で勇者を探していた。


 例え世界一強い人間が女性だったとしても、リーリートゥはあくまで男を勇者に選ぶ。


 その理由を彼女に問えば、きっとこう答えるだろう。



 ――可愛い女の子にぃ、あの陛下の相手をさせるなんて可哀想じゃなぁい。



 男好きとは名を馳せながら、彼女の男に対する扱いは、結構酷いものだった。


 何気に、慕っているはずの魔王陛下に対する認識の酷さまで露呈されているのは、ご愛敬である。


 彼女に悪気は一切なかった。




 此所、商の国は周辺各国を繋ぐ道筋が交差し、多くの行商人や旅人があちらこちらから集まっては去っていく中継地ともなっていた。


 旅の不安や危険をわずかでも減らすべく、情報交換をする彼らのお陰で、行き交う噂は国の垣根を越えて世界規模だ(魔区を除く)。


 世界規模で強い人間(男)を探すなら、此所で情報を得るのが一番良いだろう。




 粗い木製テーブルに、頬杖ついて溜め息を吐く。


 目の前に掲げた杯は、未だ幾らも減ってはいない。


 苦味の残る価格の安い白酒は余り好きではなかったが、普段口にする様な甘い極上の酒なんて、個室も無く噂話が聞こえるような、こんな酒場においてはいない。


 リーリートゥは酒場の会話に耳を傾け、また一口と、酒を含んだ。





 杯が空になり、店員の女の子に2杯目を頼むと、かわいい笑顔で応じてくれた。


 高めに結んだ茶色の癖毛を、可愛く揺らして去っていく。



 その背中を見送りつつ、気安く応じた勇者探しの前途多難に、リーリートゥは幾度目かの溜め息を、深く深く吐くのであった。




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