茶会の集い(制限時間は60分) 後編
「あと、34分56秒」
宰相の呟きに背筋を伸ばし、必死といった面持ちで、打開策を練る魔王。
焦点の合わない瞳を机に向けて、じっと俯く魔王ジョセフにリーリートゥは問いかける。
「ね~え?魔王サマぁ、私、女神役ならやってもいいのよぉ?」
唯一、協力を仄めかすリーリートゥを見上げ、魔王の瞳が葛藤に揺らめく。
暫しの逡巡の後、やっぱり駄目だと首を横に振った。
「おまえに女神をやらせたら、絶対、勇者を誘惑するだろう!」
「そうねぇ、淫魔族たるものぉ、他人の夢に入ったら、堕とさなきゃあダメなのよぉ?」
「これから鍛え上げて私と戦わせようというのに、色狂いにして堕落させたら戦意も何もないだろう!?」
「あらん、そう言えばそうねぇ~」
はあ~~と深いため息をつく魔王。
「そっかぁ~。そうよねぇ~、しょうがないわよねぇ。じゃ~あ、勇者見つけるの、協力してあげようかしらぁ?イイ男探しのついでにぃ、チョット訊くだけだしねぇ」
その言葉に、魔王ヴェルディルガはガバリと顔をあげると、感動の涙を流して嗚咽混じりに感謝した。
みっともない魔王に、魔界の宰相セズシルバスは嘆息する。
こんなこと、さほど時間を掛ける事など無いだろうに……。
アザミの花の描かれた白の陶器を眺めやり、その繊細な美しさに、暫し心を落ち着かせる。
カップの内で揺れているのは、淡い蜜色の光を灯すガーネットの様な紅いお茶。
口をつければ、それは既に冷めていた。
一時間は猶予をやって、魔王の好きにさせる気だったが、余りの情けなさに見てられない。
懐中時計を開いて見れば、開始から、36分28秒が過ぎている。
こんなことで過ぎてく時間も惜しかった。
何より、コレに仕えているかと思うと、己のプライド的にも耐えがたい。
セズシルバスは、魔界唯一の鍛冶師であるロッグジェグバ・ドッドに顔を向けると、静かに簡潔に言い放った。
「ドッド、聖剣とはいっても、取り敢えずそれらしい物を作って頂ければかまいません。通常の発注と同じく代金は支払いましょう」
「おう、それなら任しとけ!」
次に、魔区の将軍デルクバレシスに目を向ける。
「デルクバレシス、魔区外には、魔区には無い美味しい料理や珍味があると聞きます。勇者を魔区まで案内する旅の資金は、陛下が出しましょう」
「おっ、そうなのか?それなら協力してやる」
デルクの了解を得ると、バパムメレに視線を移した。
「バパムメレ、協力して下さるのなら、ラタトスク族のジェデクをひと月貸します。好きにして頂いて構いません」
「ホント!?やるっ!」
一分もかけずに協力を取り付けた宰相に、顎を外しているのではないかと疑がわれるような間抜け面で、魔王はぽかんと放心した。
「これでいいでしょう?他に無ければ解散して執務に戻りますよ、陛下」
「あ、あぁ」
魔王ジョセフが頷くと、拍子抜けしたように、ロッグジェグバが椅子の背に凭れた。
「なんだ、これで終わりなのか?誰に何をやらせるか決まっているなら、会議にする必要ないだろうに」
「ホントだよね~」
「飯も出ねぇしな!」
口々にいうと、皆、席を立って扉に向かう。
彼らが、この茶会の意図を知るのは、その数分後。
それぞれ、逃げていた仕事や相手に、偶然にも、この広大な魔王城の中で遭遇し、向き合わざるを得なくなってからだった。
……魔界の宰相セズシルバスが、無駄に付き合う訳がない。
PVせ~~ん!!
なんと、プレビューが1000アクセスを越えました!
プレビュー、皆さん知ってます?
私、つい最近までよく知らなかったのですが、
(なんとなく、多いと凄いことらしいとは分かってましたよ!!)
ページが捲られた回数の事だそうです!
この私が書いた小説に、飽きずに続きを覗きに来るリピーターさんが居る模様。
浮かれ気分で続きを投稿しちゃいました♪
因みにこの投稿で1万文字も突破!!
作文苦手だからこんなに書いたの初めてだ。