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1 オタクの暴走

(つむぎ)、今日一緒帰ろう!」


 5月のとある水曜日に百瀬(ももせ)紬は親友である宮野(みやの)朱里(あかり)に誘われる。


 朱里は高校1年生からの友人だ。

 可愛いのにそれを鼻にかけず、明るく気さくな性格のため男子からも人気がある。


「朱里、ごめんね。今日はちょっと図書室に行く予定で…」


 紬は誘いを断る。


 今日は図書室に新刊が入る日だった。

 本の虫である紬として行かないという選択肢はない。


「紬は相変わらずだねぇ」


 朱里が呆れる。

 紬は朱里に良さを伝えようと試みる。


「朱里もハマればわかるよ。例えばね――」

「あー、待って。遠慮しとく。紬話し始めたら止まんないじゃん」


 過去の経験からか朱里にすぐ止められる。

 何度も試みたがすべて聞き流されるかとめられている。


「仕方ないでしょ。そういうことだから、じぁね!」


 紬はスカートの裾を翻して教室を出ていく。


 廊下は早く帰ろうとする生徒で溢れかえっていた。

 紬はその流れに逆らって階段をのぼる。


「…失礼しまーす」


 最上階の隅にある図書室に入る。図書室には生徒が数人と司書の教師がいる。


 紬は目当ての新刊置き場へと早歩きで向かう。


(うーん、どれにしようかな。全部気になる……)


 紬の専門は恋愛ものだ。ファンタジーから現実世界まで色々な恋愛ものを読む。

 かと言って恋愛以外のジャンルを読まないわけではない。


(……とりあえずこれとこれかな。でもこれも良い

 …。)


 図書室は2冊までしか借りることが出来ない。なので紬はいつも厳選に厳選を重ねて借りている。

 今日借りたのは令嬢ものの小説と男子高校生の小説だ。どちらも表紙が美しく、あらすじを読んだだけで面白いことがうかがえる。


 紬は借りるためにカウンターへと向かう。


 その道中には本を読むための机と椅子がある。

 普段使われていないそこは今日は珍しく1つだけ使われていた。


(あれ、珍しいな)


 紬は使っている生徒を見てみる。


(うわー、男子だ。図書室で静かにしてる男子珍しいな。ん?あの本ってもしや……)


 紬はあることに気が付いて男子生徒のほうへと近づく。そして本の背表紙に注目する。


(やっぱりそうだ!)


「『わたころ』だ!」

「は?」


 紬は思わず声に出す。


『わたころ』こと『貴方が私を殺した理由』は紬が1番好きな小説だ。

 一度殺されて十年前に戻ったヒロインのアイが自分を殺したヒーロー、デュークと出会い、婚約者になってしまう、という話だ。アイが殺された理由は何だったのかが最大の謎となっている。

 現在進行系で続いており、伏線が張り巡らせられていて考察のしがいがありとても気に入っているのだ。


「確か『わたころ』は図書室には無かった…。もしかして『わたころ』ファン?同士?」


 紬は現実で同じ作品を推している人に出会ったことがないのでテンションが上がる。


(えー、どうしよう。同士がこんな近くにいたなんて!ヤバい、ニヤけが止まんない!)


 紬は嬉しさのあまり破顔する。


「……急に何だ」


 しかし男子生徒の低い声で我にかえった。


(やっちゃった!どうしよ、引かれた?そもそも何も知らない人に急に声かけられるとか嫌だよね。)


 紬は慌てて自己紹介をする。


「え、ええっと…、2年5組36番百瀬紬。血液型はO型で誕生日は2月14日。好きな食べ物はイチゴで嫌いな食べ物は――」

「わかった、もういい。止まれ」


 とりあえず量を重視した自己紹介をする紬を男子生徒がとめる。


 そこではじめて男子生徒に目がいった。


(わぁ〜、イケメンだ。)


 紬はのんきな感想を思い浮かべる。


 端正な顔立ちに青みがかった黒髪と黒い瞳。切れ長の目は紬を真っ直ぐに見ている。

 思わず見惚れてしまうほどの美男子だった。


「はぁ、とりあえずここを出るぞ」


 薄い唇から紡がれる声は低く心地よい。

 イケメンとは声までかっこ良いものなのだと理解させられる。


 紬は慌てながら素早く借りる手続きを終わらせた。


「本っ当にごめんなさいっ!いきなり声かけたりして驚かせてごめん!」


 図書室から出ると土下座寸前の勢いで紬は謝る。

 その後に自分の数ある問題行動のうちの1つに気が付く。


「えっと、学年をお聞きしても?」


 思いっきりタメ口で話してしまったのだ。

 後輩ならまだしも先輩だとしたら申し訳ない。

 目の前の男子生徒はあまり年下には見えず、むしろ年上とか言われても納得できるほど大人っぽかった。


「いまさら敬語になっても遅いだろう」


 冷静にツッコまれる。

 その通りだ。反論の余地がない。


(うぅ。一生分の謝罪でも足りない気がする……)


 紬が内心自分を殴っていると男子生徒は突然口を開く。


「2年3組2番、浅井(あさい)伊織(いおり)」 

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