第12話(3) 本番ですわよ!働きましょう!
《《2027年1月、Zepp Shinjuku (TOKYO) 控室》》
プロダクション『アルファ』が手配したのは、新宿歌舞伎町のTokyu Kabukicho Tower地下に位置するZepp Shinjuku。収容人数約1500名の最新ライブホールだ。B1からB4階までを占める広大な空間は、360度LEDビジョンと最新音響設備を備え、プロのコンサートにぴったりだった。
本番直前の控室は、緊張と興奮の、フェロモンの混ざった香りで満ちていた。五人のメンバーが集まり、誰もが息を潜めている。真理子だけが優雅に扇子を広げ、満足げに微笑んでいた。
「みなさん、別室で『アルファ』の佐藤さんに手配していただいたプロのヘアドレッサーさんが待っていますわ。別々にヘアメーク、なさってくださぁ~い」
真理子は手をパチンと叩き、みんなを追い出した。遥・凜花・恵美・アンヌ・悠馬の四人は、半ば呆れながら別室へ向かった。
45分後——。
控室に戻ってきた一同は、揃って言葉を失った。
恵美は茶髪のポニーテールにまとめられ、元気いっぱいのギャル風。
アンヌは茶髪のツインテールで、どこか幼い印象。
凜花はウィッグでボーイッシュな茶髪ショートカット。
悠馬は20世紀スタイルのトム・クルーズ風にセットされた髪。
遥は黒髪のクレオパトラ風ストレートロング。
そして、真理子だけが、サマーウォーズの篠原夏希風の黒髪ショートボブ、で、にこやかに立っていた。
恵美が最初に声を上げた。
「真理子!なんなんだ?この統一の取れてない髪型は!?」
真理子はくすくすと笑い、五つの大きなボストンバッグを指差した。
「今日の衣装よぉ~。みんなの名札をつけてあるわぁ」
アンヌが一番に自分のバッグを開けた。
中に入っていたのは、横浜のお嬢様学校の制服。ただしスカートは膝上20センチの超ミニ丈。黒のハイソックス。下着はハイレグの黒綿パンに揃いのブラ。アンヌは無表情のまま、仰け反った。
次に恵美が開ける。
ギャルの女子高生制服。やはりスカートは膝上20センチ。白のハイソックス。下着はハイレグの赤シルクブラとショーツ。
恵美も仰け反った。
凜花と悠馬のバッグは、揃ってRock of Ages風。凜花はシェリー・クリスチャン役のジュリアン・ハフと同じ、派手なロックガール衣装のデニム地の超ミニの巻スカート。少しでも脚を拡げると、パンツが見える。ボトムは、陸上部の白のハイレグショーツ。
スカートの止めのボタンがやけに大きい。真理子がコントローラーみたいなボタンスイッチを持って、ニヤッとした。
悠馬はドリュー・ボレー役のディエゴ・ボネータと同じ、80年代ロック少年スタイル。
そして遥のバッグを開けると……目の覚めるような純白三層ベルベットゴスロリ。完璧なレースとフリル。
真理子は自分のバッグから、サマーウォーズの篠原夏希風の超ミニワンピースと麦わら帽子を取り出し、下着は白のハイレグTバックと……昆虫採集の虫取り網。
四人はお互いの衣装をしげしげと観察した。
ハイレグ、超ミニ、黒ハイソックス、白ハイソックス、ベルベット三層……統一感など微塵もない。
恵美が耐えきれずに叫んだ。
「真理子!なんなんだ?この衣装は!?」
真理子は扇子をパタパタと扇ぎながら、にこやかに微笑んだ。
「1500万円分、働きましょう?さあ、本番ですわよ!」
《《ステージへ》》
① Don't Stop Believin'、悠馬+凜花
緞帳がゆっくり上がった瞬間、1500人の観客が息を飲んだ。360度LEDビジョンが赤と青のネオンで輝き、80年代のロッククラブを再現したセットがステージを埋め尽くす。BGMの低く響くシンセが観客の鼓動を加速させる中、スポットライトが二人のシルエットを浮かび上がらせた。
① Don't Stop Believin'、悠馬+凜花
凜花がまず登場した。ロックガール衣装。デニム地の超ミニ巻スカート、陸上部の白いハイレグショーツがチラリと覗く。黒いブーツで力強くステップを踏み、マイクを握った瞬間、観客からどよめきが上がった。
すぐ後ろから悠馬が飛び出す。そのまんま80年代ロック少年スタイル。革ジャンにタイトなパンツ、髪はトム・クルーズ風にセットされ、ギターを肩に抱えて凜花の横に並んだ。
二人が息を合わせて歌い始めた。
「Just a small town girl… livin' in a lonely world…
She took the midnight train goin' anywhere…」
凜花の声は甘く切なく、悠馬の低音が力強く重なる。デュエットが絡み合うたび、二人は互いに視線を交わし、ステージを縦横無尽に動き回る。凜花はスカートを翻しながら腰を振り、ハイレグのラインを強調。悠馬はギターを弾きながら彼女を引き寄せ、ロックミュージカルのようなダイナミックな振り付けで観客を魅了した。
会場は一気に熱狂の渦。スマホのフラッシュが嵐のように光り、「凜花ー!」「悠馬ー!」という黄色い声が飛び交う。
サビ直前——。
脇からトコトコと真理子が登場した。サマーウォーズの篠原夏希風の超ミニワンピースに麦わら帽子。両手を左右水平に広げ、右手に持った小さなコントローラーを観客に見せつける。
「エイ!」ボタンを押す真理子。その途端、
パチッ。
凜花のデニム巻スカートの大きな止めボタンが弾け飛んだ。スカートがストンと足元に落ち、陸上部の白いハイレグショーツが丸見えになる。
数秒の静寂の後、凜花が「イヤぁ~!」と叫んでしゃがみ込んだ。顔は羞恥で真っ赤。ハイレグの布地がライトに妖しく光り、観客の視線が一気に集中する。
会場が爆発した。
ものすごい拍手と歓声、口笛、スマホのシャッター音が嵐のように鳴り響く。
悠馬が素早く凜花の手を取って立ち上がらせた。凜花はまだ赤い顔で恥ずかしそうにスカートを押さえながらも、悠馬に支えられてマイクを握り直す。
二人はそのままサビへ突入した。
「Don't stop believin'…
Hold on to the feelin'…
Streetlight people…」
凜花の声は羞恥と興奮で震え、悠馬の低音がそれを包み込む。ハイレグ姿のまま二人が寄り添って歌い上げる姿に、観客は総立ちで手を振り、Zepp Shinjuku全体が熱狂の渦に飲み込まれた。
サビの最後の「Don't stop believin'……」を長く伸ばした瞬間、ステージの照明が一瞬だけ暗転した。二人は息を切らしながら互いに見つめ合い、観客の拍手と歓声が天井を突き抜けるような大爆発となった。
ステージ袖に戻った真理子は、平気な顔で扇子をパタパタと扇ぎながら、満足げに微笑んでいた。すると恵美が素早く近づいてきた。
「真理子!何をした?」
「え?大したことはしてませんのよ。凜花の巻きスカートの止めボタンがはずれるように、Bluetooth接続で細工していただけですの」
「おい!私たちの衣装にも細工してんの?」
真理子は扇子で口元を隠し、にこやかに目を細めた。
「さぁ……」
その一言に、恵美は顔を青ざめ、アンヌは無表情のままわずかに眉を動かし、遥は同時に背筋を凍らせた。
真理子の微笑みは、まるで悪魔のそれだった。
「お客様の喜ばれることをするのが、エンターテナーですわ」
② 残酷な天使のテーゼ、遥のソロ
凜花と悠馬の曲が終わった瞬間、会場はまだ熱狂の余韻に包まれていた。拍手と歓声が鳴り止まない中、照明が一瞬、真っ暗に落ちた。
中央の奈落から、ゆっくりとせり上がる白いシルエット。
純白の三層ベルベットゴスロリが、スポットライトに妖しく輝く。完璧なレースとフリルが幾重にも重なり、シルバーブロンドのウィッグをつけた遥は、まるで指輪物語のエルフの女王のように幻想的だった。
背中を客席に向けたまま、遥はゴスロリのフリルスカートを優雅に翻した。腰を妖しくくねらせると、Tバックの際どい布地が丸見えになる。
男子たちの息が一瞬止まり、「うわ……マジで……」という低い呻きが波のように広がった。女子からも甘い悲鳴が漏れる。
遥は顔だけ客席に向けて、マンガのロゥリィ・マーキュリー張りに唇をペロリと舐め上げ、ニヤッと笑った。突然、くるりと振り返る。
レースのゴスロリが深紅のライトに妖しく輝き、彼女はマイクを握りしめてシャウトした。
「残酷な天使のように……
少年よ 神話になれ……」
最初は切々と、後藤真希のように甘く澄んだ声で歌い上げる。両腕を優雅に広げ、指先で空をなぞるようなターン。フリルがふわりと舞い、まるで羽ばたく天使のようだった。
しかし、徐々に……
BABYMETALのSU-METALのように、激しいダンスが爆発する。
頭を激しく前後に振り下ろすヘッドバンギング。シルバーブロンドのウィッグが乱れ、フリルスカートが大きく翻る。
両手を胸の前でクロスさせ、鋭く左右に振りながらジャンプ。着地と同時に腰を低く落とし、ハイレグのラインを強調するような深く腰を振る動き。
さらに、片足を高く上げてキックを入れながらターン。スカートが完全に捲れ上がり、レースのゴスロリパンツが客席の視線を直撃する。
汗で光る白い太腿がライトに妖しく反射し、動きのたびにパンツの縁がチラチラと覗く。
遥のちょっと舌っ足らずな可愛い声が、意外な力強さで会場を包む。
「私だけをただ見つめて……微笑んでるあなた……」両手を客席に向かって差し出し、指をくねらせながらゆっくり腰を回す挑発的なポーズ。
「そっとふれるもの もとめることに夢中で……」急に激しくヘッドバンギングを交え、フリルスカートを両手で持ち上げてハイレグを堂々と晒しながら歌い上げる。
バックには、前の曲のままの凜花とワンピース姿の真理子、女子高生制服の恵美とアンヌが控え、静かにコーラスを添える。
聴衆は総立ち。
熱狂の渦がホール全体を飲み込み、スマホのフラッシュが星空のように瞬いた。「遥ちゃんヤバい!」「パンツ見えた!」「もっと!もっと!」という叫びが飛び交う。
「ヒェ~、真理子の演出どおりだけど、はっずかしい!」遥は内心で叫んでいた。なんか、凜花と似たような細工が……と不安がよぎる。
しかし、何事もなく曲は終了。
舞台は暗転し、鳴り止まない拍手が会場を包んだ。
遥は息を切らしながら、ステージ袖で小さく呟いた。
「あれ?細工なしなの?……けど、次は何が来るの……?」
ステージ袖に戻った真理子に恵美が素早く近づいてきた。
「真理子!何もしなかった!なぜ?」
「あら、遥は、もうその衣装だけで、細工は不要でしょ?パンツをあれだけ、見せたんだから……」
「おい!私とアンヌの衣装は、大丈夫だろうな?」
「さぁ、神のみぞ知る……」
観客席の最後部では、遥の曲を熱狂的に応援する「氷の天才」、原田一真准教授の姿があった。
【注意・免責事項】
※本作に登場するすべてのキャラクターは18歳以上です。
※制服・学生風衣装・部活動ユニフォーム等の描写は、すべて演出上のコスプレ要素であり、現実の未成年を描写したものではありません。
※本作に登場する事件・設定・団体等はすべてフィクションであり、実在のものとは一切関係ありません。
※第4章以降では、過去の出来事や医療・倫理に関する重いテーマが語られますが、描写は簡潔に留めています。
※性的・暴力的要素を一部含みますが、過度に詳細な描写は行っていません。
※本作は特定の思想・行為を推奨するものではありません。
※苦手な方は該当章の閲覧をお控えください。
※飲酒・喫煙の描写が含まれます。
【新宿コンサートの楽曲 1】
① Don't Stop Believin'、悠馬+凜花
Arsenal & Various Artists - Don't Stop Believin' ("Rock of Ages")
https://youtu.be/oIIXA1I8pg4
② 残酷な天使のテーゼ、遥のソロ
『残酷な天使のテーゼ』/後藤真希が歌ってみた
https://youtu.be/0Pz9kQv9XrE
BABYMETAL SU METAL 魂のルフラン
https://youtu.be/8NVdK6GRTP8




