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「❤️彼女の妹 彼女の親友 Ⅰ」黒のストッキング姿の長身美少女の彼女の妹が突然部屋に上がり込んだ夜。机の下で絡みつく白い脚、迫るゴスロリ。  作者: ⚓フランク ✥ ロイド⚓
第2章 彼女の親友

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第18話 東京駅

《《木曜日、八時》》


 明美との電話が切れた瞬間から、凜花のスイッチが入った。


「明美って、誰?明日会うの?会うのね?」

「化学科の学生だって言っただろう」

「それだけ?それだけなの?」

「それだけだ」

「嘘!絶対嘘!『今度奢るよ』って言ったじゃない!『明日七時』って言ったじゃない!随分、親しそうじゃない!」


 悠真が黙る。それが逆効果だった。


「黙らないでよ!何か言ってよ!」


 凜花が立ち上がって、コートを引っ張り出した。


「もう、私帰る!遥、帰るよ!」終電まで、まだ四時間ほどある。

「……凜花、終電まだよ。あなた、帰るの?私、もう少し残って、勉強するわ」


 凜花が振り返った。


「遥!あんた、残るの?」

「残っちゃ、悪い?なんで凜花と同じ行動しないといけないの?」


 凜花の顔がぐしゃっと歪んだ。

「遥、あんたまで……悔しい!」


 泣き出した。本気で泣いている。陸上部の凜花が、悔しくて泣いている。


 私は悠真にウインクした。鈍い悠真が、やっと私の演技に気づいた。


「凜花」と悠真が立ち上がって、凜花の肩を抱いた。凜花が悠真の胸に顔を埋めて、ドンドンと拳で胸を叩く。

「バカ!バカ!悠真のバカ!」

「わかった、わかった」

「わかってない!全然わかってない!」


 ドンドン、ドンドン。悠真が黙って受け止めている。凜花の拳が、だんだん弱くなった。


「……明美って、本当に、ただの化学科の学生?」

「ただの化学科の学生だ」

「……本当に?」

「本当だ」


 嘘だ、と私は思った。でも今夜は黙っておく。悠真が凜花をそのままベッドに連れて行った。私も後からついていった。三人でベッドに倒れ込んだ。


 凜花がまだしゃくり上げている。悠真が髪を撫でる。私が背中をさする。しばらくして、凜花が顔を上げた。目が赤い。


「……遥、さっきのウインク、見た」

「……見てたの」

「見てた。遥、策士」

「凜花が可愛すぎるから、仕方ない」

「可愛くない!悔しいだけ!」


 悠真が笑った。凜花が悠真を睨んだ。


「笑わないでよ!」

「笑ってない」

「笑ってた!」


 また三人で、ベッドに倒れ込んだ。終電まで、もう少しある。


 多少は気が済んだのか、終電の時間になると、凜花が自分から起き上がった。制服を着直した。


 悠真の部屋を出て、四ツ谷駅に向かった。凜花が独り言のように言った。


「……明日、東京駅、私も行く」

「凜花」

「いいでしょ。姉ちゃんの研究課題を知りたいのは、私なんだから」


 私は肩をすくめた。エレベーターで降りて、四谷の坂道を駅に向かって歩く。夜の空気が冷たい。


「遥」と凜花が言った。

「なに」

「ありがとう」

「何が」

「さっきの演技」

「……どういたしまして」


 中央線に乗った。並んで座る。凜花がすぐに目を閉じた。中野で私が降りる。ドアが閉まる。


 凜花はそのまま、高円寺へ。


 明日は東京駅。明美。


 私もちょっと、怖い。


《《金曜日、七時》》

《《東京駅丸の内口中央改札、七時》》


 放課後、私たちは一度それぞれの家に帰り、制服の「縞のネクタイ」を脱ぎ捨てて私服に着替えた。


 私が選んだのは、黒のタートルネックにベージュのトレンチコート、そして足首まであるダークグリーンのプリーツスカート。なるべく大人っぽく、かつ風景に溶け込む地味な装いを目指した。


 一方の凜花は、ネイビーのマウンテンパーカーに細身のデニム、足元は黒のスニーカー。そして極めつけに、目深に被った黒のキャップ。陸上部らしい機能美に溢れているが、尾行に対するガチ感が強すぎて逆に少し目立つ気もする。でも、凛々しい。


「遥、似合ってる」と凜花が小声で言った。

「凜花こそ」

「私、目立つ?」

「目立つ。でも、今更どうしようもない」


 私たちは今、赤レンガが美しい東京駅丸の内駅舎の中、中央改札口から少し離れた太い柱の陰に身を潜めている。


 行き交うのは、仕立ての良いスーツを着たビジネスマンや、洗練されたファッションの大人たちばかり。四谷や高円寺の雑多な空気とは違う、丸の内の冷たくて都会的な空気に、高校生の私たちは少しだけ気圧されていた。


「……来た。悠真だ」


 柱から半分顔を出した凜花が、キャップのつばを少し上げて囁いた。


 改札の少し手前、待ち合わせスポットに悠真が立っていた。紺のコート。いつもと違って、ちゃんとした格好をしている。


 七時ちょうど。


 改札のラッチが開いて、人が流れ出てくる。その中に、一人の女性がいた。


 カツカツ、と響くヒールの音。ゆるく巻かれた艶やかなロングヘア。体にフィットしたボルドー色のニットワンピースの上に、上質な白のノーカラーコートを羽織っている。大学三年生だから21、22歳のはずだが、メイクも身のこなしも、ずっと年上の大人の女性に見えた。


 彩花お姉さんが「氷のように完璧で、近寄りがたい女王」だとしたら、彼女は「華やかで隙がなく、獲物を逃さない肉食獣」だ。


「……遥」凜花が私の腕を強く掴んだ。爪が食い込む。「あれが明美!?大人だよ、大人!胸なんかパツパツじゃない!……キィ~!」

「凜花、声が大きい!シーッ!バレるでしょ!」私は慌てて凜花の口を塞ぎ、柱の裏に引き戻した。

「だって……だって、あんな大人な人と、悠真……」

「まだ何もわからない。落ち着いて」

「落ち着けない!」

「落ち着きなさい!」

「……落ち着いた」


 悠真が手を上げた。女性が気づいて、微笑んだ。悠真に駆け寄った明美は、親しげに悠真の腕に軽く触れ、彼を見上げて華やかに笑った。悠真は一瞬困ったような顔をして腕を引いたが、明美は気にする素振りもなく、悠真の背中を押すようにして歩き出した。


「行くよ、遥。絶対に見逃さない」

「わかってる」


 私たちは少し距離を空けて、二人の後を追った。


 二人が入っていったのは、丸の内ビルディングの一階にある、ガラス張りのオープンなイタリアン・カフェダイニングだった。本格的なディナーの店ではなく、カフェ利用やタパスで軽く飲める店だ。これなら、高校生の私たちの財布でも、コーヒーとケーキのセットでどうにか入れる。ラッキ~!


「入れる?」と凜花が小声で言う。

「入れる。行くよ」二人より少し遅れて、私たちも入店した。

「二名です」と私が店員に言った。


 悠真と明美が窓際の二人掛けのテーブルに座ったのを見届けた。案内されたのは、偶然にも、悠真と明美のテーブルの二つ隣だった。


 メニューを顔の高さまで立てて隠れながら、耳に全神経を集中させる。


「久しぶり、会ってくれてありがと、悠真」明美の少し甘えたような、よく響く声が聞こえてきた。

「ああ、久しぶりだね。じゃあ、彩花の研究課題の資料を見せて」

「せっかちねえ。はい、これ」


 カサリ、と紙の束がテーブルに置かれる音がした。悠真がそれをめくる気配がする。


「……なんだこれは。専門用語ばかりで、概要しかわからないな」

「だから言ったじゃない。私も化学科だけど、彩花のやってる分野は特殊すぎるのよ。でも、ヤバい研究だってことだけは、教授陣の間でも噂になってるわ」

「ヤバい?」

「ええ。『性ホルモンの管理物資との生成と性差の縮小』、……要するに、男女の身体的な違いを、特定の化学物質を使って後天的に消去、あるいは書き換えようとする研究よ。トランスジェンダー医療の枠組みを借りてるみたいだけど、彩花の論文の視座はもっと……なんていうか、過激なの」


 メニューの裏で、私と凜花は顔を見合わせた。


 昨日、教室で凜花が言っていた「姉ちゃんは、世界を作り変えたいのかもしれない」という言葉が、現実の冷たい輪郭を持ち始めていた。


「……彩花が、なぜそんなことを」と悠真が低く問う。

「さあ?あの子、昔から腹の中見せないじゃない。……でもね、悠真」


 明美の声のトーンが、ふっと変わった。甘さが消え、生々しい女の声になった。


「彩花が留学してNYに行くなら、もう悠真はフリーなんでしょ?……そろそろ、私のこと、考え直してくれてもいいんじゃない?」

「……明美、その話は一年生の時に終わってる」悠真の声は、氷のように冷たかった。


 明美も留学のことを知ってた!なんなのお姉さんは!でも、何?『その話は一年生の時に終わってる』って?メニューの裏で、凜花が「えっ?」と小さく息を呑んだ。黙ってて!凜花!


「終わってないわよ。私があんなに猛アタックしたのに、悠真ってば『他に気になる奴がいるから』って、見向きもしてくれなかったじゃない。それで結局、彩花と付き合い始めた。……悔しかったわよ、親友に負けるなんて」

「ぼくが彩花を選んだだけだよ」

「わかってるわよ。でも、彩花はあなたを置いて行く、……私なら、そんなことしない。ねえ、今夜、この後どう?」


 明美が身を乗り出す気配がした。香水の甘い匂いが、私たちのテーブルまで漂ってくる。


「遥……」隣で、凜花がわなわなと震えていた。

「飛び出していかないでよ、凜花」

「しないよ。でも……絶対、負けない。彩花姉ちゃんにも、あんな香水女にも!」


 凜花がテーブルの下で、私の手をぎゅっと握った。私も、その手を強く握り返した。



※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

※飲酒喫煙シーンが書かれてあります。

※性描写を含みます。

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