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第8話 彼女、化け物?

※遥の一人称語りバージョン。度無しのメガネで美少女を隠す遥の内面の声です。エッチです。なんだ、凜花とかわんないじゃないか?


《《土曜日、早朝》》


 チュン、チュン、と遠くで鳥が鳴いている。薄いカーテンの隙間から、四谷の1Kに朝日が射し込んでいる。お日様の角度から見て、まだ七時前だろう。隣では、悠真さんが深い寝息を立てている。


 ふと、キッチンの方から微かに鼻歌と、トントンと包丁の音が聞こえた。重い体を起こすと、そこには平気の平左の凜花の光景があった。悠真さんのエプロンを素っ裸に直に着た凜花が、お尻を左右にフリフリさせながら、何かを作っている。


 彼女、化け物?


 あれだけ業務スーパーの安酒をちゃんぽんして、あんなに激しく喘いでいたのに、二日酔いも筋肉痛もなしなの?私は頭がガンガンするし、腰の下のあたりがけだるい。狭い部屋の中央に敷きっぱなしのベッドの周りには、私たちの白と黒のゴスロリ衣装、そして下着が戦の後のように散乱している。どこだろう、私の服は?


 とりあえず白のTバックだけを見つけて履いた。ブラは見つからない。トップレスだ。恥ずかしい。


「……おはよう」


 ふらふらとキッチンへ行き、凜花の作っているものを覗き込みました。鰹節で出汁が取られている。大根が短冊切りにされ、冷蔵庫の奥で干からびかけていた油揚げが刻まれている。昨日食べ残した業スーの台湾大根餅と揚げいももちが、丁寧にトースターで温め直されている。炊飯器からは、炊きたてのご飯の匂いがする。


「凜花、元気だね。二日酔い、なし?」

「え?ちょっと呑んだだけじゃない?」

「まったく……朝まで……」

「え?何の話?」凜花が振り返り、ニタっと笑った。「私、よく寝たわ。あんまり覚えてないけど、何か良いことがあったかなぁ~、いい夢をみたなぁ~って感じよ」


 こ、この魔女め!


 あれだけ三人で絡み合って、私の初めてを奪う手伝いまでしておいて、いい夢って!でも、彼女のそのスッピンの美少女っぷりを見ていると、文句を言う気も失せてきます。


「遥も悠真も大好き!また、来週も、いい夢みたいね」エプロン一枚の凜花に、ぎゅっと抱きしめられた。


 また来週!凜花のテストの点しだいだけど。


「お味噌汁、味見して」と彼女に小皿を渡された。おいしい。業スーの顆粒だしじゃない、ちゃんと取った出汁の味がする。凜花は、保健体育だけじゃなく、家庭科の成績も良かったんだっけ。でも、大学入試の試験科目には入ってないのよね!


「シャワー、浴びてきなよ。スペアの歯ブラシ、悠真の洗面台にあったの借りたわ」


 彼女、完全にスッピン。スッピンでも驚くほど綺麗。得だなあ、美人は。でも、こんな綺麗な子だって、あんな声を出してアンアン啼くんだ。凜花が汗まみれですすり泣いて悦ぶ顔なんて、普通は見られない。それを知っているのは私と悠真さんだけ。そう思うと、少しだけ優越感で溜飲が下がる。


「ねえ、凜花はスッピンでもすっごい美人だよね。羨ましい」

「遥、あんたさ、メガネはずした時の自分の顔、鏡でよっく見たほうがいいよ。あんたみたいなのに『羨ましい』なんて言われたくないよ。羨ましいのは私の方だよ」

「え?……そ、そっかなあ……」


 ベッドの方で、唸り声がした。


「……ん」


 悠真さんが起きた。伸びをして、「オハヨ……」とキッチンの方を見て、そのまま固まった。


 私たちも振り向く。彼の視線が、凜花の頭から爪先まで動き、次に私の頭から爪先まで動いた。


「……ウ」


 彼は低く呻いた。良い眺めでしょ?悠真の彼女は、素っ裸にエプロン姿でスッピン。彼女の親友の私はパンツ一丁のトップレス。昨日初めてを捧げた彼女の親友。これを眼福と言わずして何と言おう。


「やれやれ……」


 悠真さんは頭を抱えて、再びベッドに倒れ込んだ。


 ほら、悠真もシャワーを浴びなよ、と凜花に急かされ、結局彼と二人でシャワーを浴びることになった。狭いユニットバスで、昨日の名残を洗い流しながら、彼と少しだけキスをした。


 シャワーを出ると、ベッドは綺麗に畳まれ(といってもソファーに戻されただけだが)、ダイニングテーブルに朝食の準備がされていた。昨日の残りのいも餅、お味噌汁、炊きたてのご飯。


 ただねえ、凜花は相変わらず下着なし、素っ裸のエプロン姿で、姿勢よく椅子に座っている。強烈にシュールな光景だ。


「凜花、服、着ないの?」

「服、窮屈だもん」

「そうですか……悠真さんの消化が促進されるか、停止するか……」

「え?食後の運動を三人でしてもいいよ?」

「そんなこと言ってないでしょ!」


 悠真さんは無言で味噌汁を啜っている。視線は絶対に凜花のエプロンの隙間を見ないように、必死に大根を追っていた。


「悠真、七味唐辛子がないわよ」と凜花。

「それは買ってないな」

「うん、今度買っておくわ。コンソメスープの素もないでしょ?小麦粉もない。片栗粉もない。みんな買っておくわ」

「……いいよ、自分で買うから」

「いいえ、たまにお邪魔するんだから、せめて調味料くらいは揃えないと」


「ハァ?」私と悠真さんの声がハモった。

「同棲じゃないわよ。居候。たまにね、たまに」

「凜花、居着くつもり?」


「だって、私の受験勉強のサポートをしないとダメでしょ?私もT大目指すんだし。勉強してたらたまに終電がなくなるでしょ?だから、たまに泊まるでしょ?泊まって翌朝朝食を食べるでしょ?だから、足りない調味料は私が買うのよ。わかった?」


 屁理屈だ。私と悠真さんは顔を見合わせた。


「遥、凜花は言い出したら聞かないんだから、無駄な抵抗はしない方がいい……」悠真さんが、悟りを開いた僧侶のような顔で呟く。

「悠真さん!私を抜きにして、凜花としちゃうの?ちょっと複雑……」と自分の立場を無視して言ってやった。

「……」


「みんな一緒なら悠真が遥としてもいいかも。遥には嫉妬がわかないもん」凜花が勝ち誇ったように笑った。

「……こ、この魔女!」

「この三人でするのって、楽しいよね?」


 凜花は悪びれもせず、エプロンの下から長い脚を組み替えた。私はため息をつきながら、ご飯を口に運ぶ。


 ああ、やってしまった。もう後戻りはできない。私の中の優等生は、四谷のゴミ捨て場に置いてきた。


 ……さて、今日の夕方は、高円寺の凜花の家で、彩花お姉さんとのお茶会だ。


 胃が痛くなってきた。


 ふと、悠真さんが味噌汁の椀を置き、真剣な顔で凜花に尋ねた。


「凜花。ぼくはずっと、よくわからないんだが……彩花って何者なんだ?」

「え?」

「凜花には悪いが、ぼくにとっては申し分のない彼女だと思っていたんだ。でも、今回の留学の話を夏から進めていたのに、彼女はぼくに何ヶ月も一言も言わなかった。変だ。彼女にとって、ぼくってなんなのだろう?美咲姉ちゃんともまったく違う。凜花ともまったく違う。彼女に何があって、ああいう人間になったんだろう?」


 凜花は箸を止め、しばらく考え込んでいた。そして、遠い記憶の底を探り当てるように、静かに話しだした。


「私が小学校六年生の頃の話。中学お受験の頃ね。彩花姉ちゃんは六年間一貫教育の女子校の中学三年生で、美咲姉ちゃんは大学一年生だった。そこで、パパが一年間限定で、アメリカ出張が決まったの。赴任地は、ミネソタだった」


 凜花の話によると、パパは家族全員を連れて行きたがったが、ママと美咲姉ちゃんが猛反対したらしい。凜花は中学受験の大事な時期。美咲姉ちゃんは大学に受かって有頂天で、男漁りやキャンパスライフを満喫していた。


『凜花の受験が大事だし、美咲が凜花の面倒を見れるでしょ』とママが主張し、結局アメリカに同行したのは彩花姉ちゃんだけになった。彩花姉ちゃんも「留年したって行きたい」と大喜びだったという。


「それで?」と悠真さんが促す。

「よく、ミネソタから電話してきて、姉ちゃんは向こうの中学生活をすっごく満喫している様子だった。でも、ある時から急に連絡が途絶えたの。ママに電話したら……」


 凜花の声が少しだけトーンダウンした。


「向こうのクラスメートが、強姦されたんだって。それで姉ちゃんは、友達を強姦したその相手に、直接暴行を働いたらしいの。刃傷沙汰のギリギリのところでね」


 私も悠真さんも、息を呑んだ。


「結局、状況が状況だったから、姉ちゃんは正当防衛みたいな扱いで無罪になったけど……それ以来、姉ちゃんの性格がすっかり変わったような気がする」

「彩花に、そんなことがあったんだ……」


 悠真さんは、力なく天井を見上げた。私も無言で、箸の先を見つめていた。


……夕方のお茶会が、ただの「化かし合い」では済まないような気がして、私の胃の痛みはさらに重くなった。



※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

※飲酒喫煙シーンが書かれてあります。

※性描写を含みます。

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