第6話 あ~、初体験、終わっちゃった
狭いベッドに、三人が並んで天井を見上げていた。悠真を挟んで、右に凜花、左に遥。
ベッドの周りには、三人の脱ぎ捨てた服が散乱していた。白と黒のニーハイ、スカート、トップ、Tバック、ブラ……。黒いフリルと白いレースが入り混じって、床に広がっている。
スゴイなあ、コスプレ大会の更衣室みたいだ、と悠真はそれを眺めて思った。
「あ~、初体験、終わっちゃった……」遥がぽつりと言った。
「遥が女になった!」凜花が感慨無量な声で言う。
「恥ずかしいこと言わないで!」
「痛みは?」
「ちょっとヒリつくけど、無問題」
「どれどれ?」
完全復活の凜花が、悠真をまたいで遥の脚を広げて観察し始める。
「なにすんの!凜花!」
「タオルをしいていたけど、出血量がさ、どのくらいか?」
「そんなもの、いくら親友でも見るかぁ~!!!」
「夜は長いのよ。まだできるかどうか、チェックするのよ……あら、少し滲んだ程度よ。遥、お汁が多いんだ。濡れやすい体質だよねえ。タオルがビッショリ。お漏らししたの?」
「恥ずかしいこと言うなぁ~~~!」
「まあまあ、じゃあ、私とシャワーを浴びようよ。初体験後のシャワーの浴び方のコツってあるんだ」
「それ、陸上部の先輩から後輩への口伝じゃないでしょうね?」
「ビンゴ!出血量によるけど、膜のビラビラが破れてるじゃん?山脈の峰が?それを微温水でシャワーヘッドを外して、ホースで優しく洗うのよ」
「膜のビラビラ……ギャアア!」
凜花が遥の腕を掴んで引っ張り起こした。二人がよろよろとバスルームへ消えていく。
悠真は仰向けのまま、動かなかった。呆れてものも言えなかった……。物思いにふける悠真。
さて、どうしたもんだろう?まずは凜花の大学入試だ。ぼくの大学を受けるんで良いんだよな?決着はついたんだよね?……S台の模試まで二週間。今年のぼくの大学の合格ラインは?
悠真は腰にタオルを巻き付けて、ノートブックを拾い上げて、ダイニングに座った。
バスルームからは、凜花が、遥、脚あげて!バスタブの縁に片脚かけて!とか言っている。ヒャァ~、滲みるよぉ~!と遥が叫んでいる。これ、近所迷惑だよなあと思う。
悠真はノートを開いた。
◯T大理科一類。共通テスト6教科8科目
国語・数学・英語・理科2科目・地歴公民、
1000点を110点に換算。
二次試験は数学・国語・英語・物理・化学、440点満点。合計550点。
模試まで二週間。
凜花の現状は——。
数学:微積と確率はぼくが叩き込んだ。ただし数列の漸化式と複素数平面が穴。推定65点前後。
物理:力学は入った。電磁気が甘い。コンデンサーの接続と電磁誘導が出たらまず失点する。推定55点前後。
化学:アボガドロ定数から有機化学まで一通り教えた。モル計算は安定している。
有機の構造決定が怪しい。推定60点前後。
問題は国語・地歴公民・英語だ。ぼくには手が出ない。
シャワーが止まった。バスルームのドアが開いて、二人が出てきた。凜花はゴスロリのまま、遥は悠真のパーカーを羽織っていた。
「悠真のパーカー、借りた」と凜花が言う。
「勝手に……」
「遥、着替え持ってきてないもん」
遥がダイニングの椅子に座った。眼鏡をかけ直して、テーブルの上のノートを覗き込む。
「……凜花の弱点分析ですか?」
「そう。聞いていいか?凜花が遥は学年トップだと言っていたけど、得意科目は何?」
遥は少し考えてから答えた。
「理系ですよ、私も。数学と化学が一番得意。国語と英語もまあ、学年10位以内です」
「地歴公民は?」
「日本史と倫理政経なら、任せてください。文系もと迷ったんですよ。日本文学で江戸の黄表紙本の研究もしたいなって」
「……完璧じゃないか……凜花と違うなあ……」と呟く。凜花が悠真の首筋をつねった。
悠真はペンを置いた。
「じゃあ、役割分担だ。ぼくが数学・物理・化学。遥が国語・地歴公民。英語は凜花に自力でやらせる」
「英語、凜花は大丈夫なの?」
「長文は読める。文法も及第点だ。下手に手を入れると崩れる」
「わかりました」と遥が即答した。
「ちょっと待って」と凜花が割り込んだ。「なんで二人が当然みたいに仕切ってんの?」
「文句あるか?」と悠真。
「……ない」
凜花が黙った。
悠真はノートに戻った。シャープペンシルを走らせる。
◯数学:漸化式のパターンを五種類に絞る。複素数平面は極形式と回転だけ。欲張らない。
◯物理:電磁気に集中する。コンデンサーは電荷保存と電位の概念だけ。
電磁誘導はファラデーの法則とローレンツの法則、図を描かせながら入れる。
凜花は視覚で理解するタイプだ。
◯化学:有機の構造決定を毎日一問。パターン認識で解けるようになる。
◯国語と地歴公民は遥に任せる。
模試まで二週間。共通テストまで一か月。二次試験は二月二十五日と二十六日。
悠真はペンを置いた。やれる。
「凜花」と悠真が言った。
「なに?」
「明日から毎日来い。放課後から11時まで、五、六時間特訓する」
「……部活は?」
「部活は模試が終わるまで朝練だけにしろ。凜花の足なら朝練だけで感覚は維持できる」
「……わかった」
「それから、毎日、S台の過去問で点数を確認する。点数が目標にとどかない時は、エッチなしだ」
「え~、え~、必死にやらないとダメなんだね……頑張る!」
凜花が珍しく素直に頷いた。遥が隣で小さく笑った。
「遥は来れるの?」と悠真。
「……凜花の国語と地歴公民を見るなら、来た方が効率がいいですね」
「決まりだ」
「……私はエッチ付きでいいのね?」
「ダメ!凜花と一蓮托生!」
「チェッ!」
「毎日、健康な女子高校生二人としたら、ぼくは死ぬ!」
「遥ぁ、エッチしたかったら、私の指導、頑張らないとね!でも、エッチ、好きになったの?お猿さん軍団にようこそ!」
「凜花なんてしんじゃえ!」
悠真はノートを閉じた。バーボンのグラスを手に取って、一口飲んだ。
「じゃあ、明日から……」
「え?悠真さん、ちょっと待って!明日って、土曜日……悠真さん、明日は、私と凜花は、高円寺の家にいなきゃいけないのよ」
「え?遥、なんで私の家にあんたと私が?」
「昨日、悠真さんが一人かどうか確認するのに、彩花お姉さんに電話したの。留学の相談をしたいからって。だから、お姉さんが今週実家にいるってわかったのよ。お姉さんは、『実家の荷物も整理しないといけないから……今週は実家にいるわよ』ってことで、悠真さんとは一緒じゃないとわかった」
「探偵ごっこしてたの?」
「そう、それで、昨日と今日、こうなったんだけど、お姉さんに留学の相談で夕方に行きますって言っちゃったの」
「じゃあ、夕方まで時間はあるじゃない?」
「それがね、彩花さんは、『了解。出がけに連絡してね。凜花にデザート、作ってもらおう』って……」
「あの女!」
「だから、凜花はデザート作るのでその前には実家で料理していないと……」
「あの女!」
「私も手伝うわ」
「まあ、いいよ、ぼくは凜花の課題の試験問題をネットで調べて、作っておくから……じゃあ、今日はお開きってことで……」
「悠真!そりゃないでしょ?遥は満足したけど、それは三位一体の父と子が終わったということ。まだ、父と聖霊、あなたと私が残ってる!それから、子と聖霊、遥と私のレズも悠真に見せないと!」
「え?つまり……」
「今晩は私と遥はここに泊まるの!」
「それは無断外泊だろう?」
「今からアリバイの電話をかけるのよ。ママに『今晩は、遥と一緒に同級生の家に泊まります』って」と悠真を指差す。「同級生!」
「……」
「遥もママに同じことをする。それで、私のママには遥が電話出て、遥のママには私が出る。同級生はトイレに行ってる」
「女子高生って、いつもその手口でママを騙してんの?」
「ママだって、同じことを学生時代してるはずよ!」
「キツネとタヌキか……」
「女なんてそんなものよ。悠真、わかった?」
「……」
今週は日曜日まで彩花は実家にいるんだろ?あとでLINEしておこうか?あの女はまったく勝手だものなあ。待てよ?彩花とは留学のことといい、決着をつけないといけないけど、日曜日にここに呼び出すか?それで、決着をつけようか?
「二人共、日曜日は二人で勉強してくれ。ぼくは彩花をここに呼び出して、決着をつける」
「悠真!それって……」
「ああ、コソコソ会うのも、日曜日で終わりにしよう」
「悠真ぁ~」と凜花は悠真に抱きついた。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※飲酒喫煙シーンが書かれてあります。
※性描写を含みます。




