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第2話 勇気を貰おう!

《《ひと夏の経験》》


 ダイニングテーブルの上のテキストをサッサと片付けだす凜花。ノートを乱暴にトートバッグに突っ込み、ペンケースを放り込むと、彼女は椅子を悠真のすぐ隣に引き寄せた。長身のせいでテーブルが小さく見える。ショートパンツの裾がさらに捲れ上がり、黒いストッキングに包まれた太ももが、悠真の視界の真ん中に堂々と陣取る。


「……り、凜花、受験勉強は終わりなのか?」

「今日の分は終わった。でも、課外授業が残ってるんだよ、悠真」


 凜花は悪戯っぽく目を細め、ストッキングの脚を軽く組み替えた。ナイロンの擦れる音が、狭い部屋に小さく響く。


「課外授業……」

「ハイ、悠真くん、実技の時間に移りましょう!」

「まさか……本気?」

「口から出た言葉はもう取り戻せないじゃん!『彼女の姉としちゃったんでしょ?こうなったら、妹ともしちゃえば?一人するのも二人するのも変わりないじゃん!』なんだよね。だぁから、私ともその不可抗力を行使しようよ」

「……」


 凜花は自分の言葉を繰り返しながら、頰をわずかに赤らめた。普段のツンとした態度とは違う、素の照れが覗いている。それでも彼女は逃げない。テーブルの下で、ストッキングの長い脚を悠真の膝に再び乗せ、ゆっくりと爪先で彼の内ももを撫で上げた。


「とは言え、ケダモノじゃないんだからぁ、これですぐにおっぱじめるのも何だね?」

「おっぱじめる、って……」

「凜花も勇気ないよ。震えちゃうよ」


 彼女はそう言って、自分の太ももを両手で軽く抱きしめた。ストッキングの光沢が、部屋の照明を反射して艶やかに揺れる。


「凜花は経験がないの?」

「あるわ。去年の夏、八丈島に陸上部の友達と二人で行ったのよ。それでさ、ナンパされちゃって……同じホテルだったんだ。それで、友達は相手の部屋に行っちゃって、私ともう一人の相手が私の部屋に残されちゃって……」

「やれやれ……ナンパを待ってたようなもんじゃないか?」

「ナンパを待ってたのは私の友達。陸上部だもん、もう悶々なんだよ」


「体育会系のサークルって、そういうものなのか?」

「悠真は文化系サークルだもんね。知らないよね。もうね、更衣室では、先輩も後輩もアレの話ばっか。でもね、私はベタな『ひと夏の……』なんてつもりはなかったんだけど、その相手も初体験だったのね。オジオジしちゃって、もうしょうがないなあ、と思って、おっぱじめたの」

「ムードもなんにもないじゃん?」


「そぉそぉ。ムードなし。ゼロ。で、痛かった!相手を蹴っ飛ばしたわ。ベッドから転がり落ちたんだ」

「まったく。相手が可哀想だな」

「まあそうね。それで、初めてじゃん?削岩機みたいに腰を振ってね、気持ちがいいとかの次元じゃないのよ」

「最初だからしょうがないじゃないか?みんなそうだよ」


「それでね、美咲姉ちゃんの小説を読んだら、これがまあ、なんとこうするものなのか!と開眼したわけ」

「美咲姉ちゃんにその小説削除するように言ってくれよ」

「私が読んだの、バレちゃうじゃん!でね、悠真……と思われる登場人物が、ああやって、こうやってって、詳細に官能場面を描写してんのよ!『悠真の舌が私のアソコを舐めあげ……』とかね。褒めてたわよ。悠真はテクニシャンだって!」


「そんなもん、小説で褒められたって……勘弁してくれ」

「だぁから、そのテクニックを私に使って欲しいのよ。どう?18歳のピッチピチの彼女の妹よ?……あ!なんか、自分で言っていて恥ずかしくなってきた……悠真、お酒、ないの?」

「呑むの?」

「お酒を呑んで、勇気を貰おう!」


 悠真はため息をつきながら冷蔵庫を開け、ストロング酎ハイを二缶取り出した。グラスを用意しようとしたが、凜花は缶を受け取るなりプルトップをパカッと開け、ゴクゴクと一気に喉を鳴らして飲み始めた。


 半分ぐらいを一気に呑み干すと、彼女はプハァと大きく息を吐いた。唇に残った雫を舌で舐め取り、ストッキングの脚を悠真の膝の上にさらに深く乗せる。アルコールの熱が、彼女の白い頰をほのかに染め、長身の体がわずかに火照り始めた。


「おっさんかよ?」

「夢が破れた?女子高生なんてこんなもんよ。取り繕っているのは表の顔、裏の顔は……」

「ぼくの前では、表の顔をしないのか?」

「だってさ、姉の彼氏よ。取り繕う必要ないじゃん!」

「やれやれ……」


「でもさ、美咲姉ちゃんとしちゃったでしょ?これから凜花とするでしょ?で、彩花姉ちゃんと悠真がもしも結婚したら……結婚式で、美咲姉ちゃんと私はどういう顔をするんでしょう?お互い顔を見合わせて、二カッとほくそ笑むのかしら」

「ちょっと、止めて欲しい!」


 凜花はくすくすと笑いながら、もう一口酎ハイをあおった。ストッキングに包まれた長い脚が、悠真の太ももを優しく、しかし確実に締め付ける。部屋の空気は、アルコールの甘い匂いと、18歳の彼女の妹が放つ危険な熱気が濃密になっていった。


《《オシッコ》》


 悠真は、酔っ払えばこのバカな考えも忘れてくれるだろうと、内心で淡い期待を抱きながら立ち上がった。


 キッチンコーナーの棚から大ぶりのジョッキを取り出し、氷をゴロゴロとたくさん入れ、二本目のストロング酎ハイの缶を開ける。プシュッという音が、狭い部屋に響いた。


「はい、これで少しペース落として飲めよ」


 ジョッキを凜花の前に置き、ついでに柿の種を小皿に盛って出す。凜花はすでに一缶目をほとんど空け、頰を上気させていた。ストッキングの長い脚は悠真の膝の上にそのまま乗せられたまま、爪先が無意識に彼の内ももをくすぐるように動いている。


 ゴクゴク。


 凜花はジョッキを両手で持ち上げ、遠慮なく喉を鳴らして飲む。白い首筋が、飲み込むたびに艶やかに上下した。黒いストッキングに包まれた太ももが、アルコールの熱でほのかに汗ばみ、光沢を増していく。


 ストロング酎ハイ、三缶目。


 悠真が三本目を手渡すと、凜花は「ありがとー」と笑いながら受け取り、またゴクゴクとあおった。プハァと息を吐くたび、甘いアルコールの匂いが悠真の鼻先をくすぐる。


 やがて、凜花の瞳がトロンと溶け始めた。クールな美人顔が、アルコールでとろりと緩み、唇が湿って艶やかになる。


(しめしめ……これで少しは大人しくなるか)


 悠真が内心でほくそ笑んだ、その瞬間……。


「ねえねえ、ホテルとかでこうして呑んでね、女の子がオシッコをしたくなったとしたら、どうするの?我慢するのかしら?」


 凜花が急に身を乗り出して聞いてきた。ジョッキをテーブルに置き、ストッキングの脚を悠真の膝から少し浮かせて、太ももをキュッと寄せ合う。


「女の子次第だろ?」

「でもさあ、オシッコしたくなって、我慢して、やり始めるじゃん?そうなると、アレがアソコにあれしてね、で、気持ちよくなって、オシッコを漏らしちゃうとか、ないの?AVで、オシッコを漏らして、潮吹きとか言って、ベッドがビチャビチャになる場面があった!あれさ、ホテルの清掃係が可哀想だよね」


 凜花は真顔で言いながら、ストッキングの脚を再び悠真の太ももにぐっと押しつけた。ナイロンの熱が、ズボン越しに伝わってくる。


「AVなんか見るのか?」

「AVが男子の専売特許と思ってます?あのね、兄弟なんかが隠し持っているAVを拝借して、みんなで見てるんだよ。鼻の穴を膨らませて!」

「……そうなのか?……あ~あ」

「悠真、それが現実です!で、本題に戻るとね、アレする前にオシッコをしておいた方が良いと思う!悠真のソファーベッドが私のオシッコでビチャビチャになったら、悪いじゃないの」


 凜花はそう言って、悪戯っぽく舌を出した。トロンとした瞳が、悠真をまっすぐ見つめる。


「つまり、凜花は今オシッコがしたいんだね?」

「正解です!トイレ、お借りします!」


 凜花は立ち上がり、スタスタと玄関横のトイレへ向かった。長身の後ろ姿が、ショートパンツの短い裾と黒ストッキングの艶やかな脚を揺らしながら遠ざかる。トイレに入る直前、彼女は振り返って悠真に小さくウィンクした。


 あ~あ、やる気満々じゃないか。


 悠真は深いため息をつき、残った酎ハイを一口飲んだ。


 狭いアパートの空気は、アルコールと若い女の子の体臭、そしてこれから起こるであろう「課外授業」の予感で、ますます重く甘く淀んでいた。


 トイレのドアが閉まる小さな音が、悠真の胸に響いた。


 この夜は、まだまだ終わらない。



※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

※飲酒喫煙シーンが書かれてあります。

※性描写を含みます。

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