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8話

「おい、晴翔」


 昼休みの教室。生徒たちの雑音の中で、雄太は弁当を振りながら声をかけてきた。


「一緒に飯食おうぜ」

「悪い、今日も約束あるから」


 俺は弁当を取り出し、急いで席を立って教室のドアへ向かった。


「またかよ。誰との約束なんだ。俺もその人と一緒に食べるから、今日は一緒に」


 背後から雄太の声がはっきりと聞こえてきた。だが、俺は聞こえないふりをして教室を出た。

 いつも通りの廊下を歩き、階段を上って、屋上へ向かった。

 屋上にはやっぱり誰もいなかった。俺は普段と同じように適当な場所に座って、いつものように一人で昼飯を食べ始めた。五分もかからずに弁当を食べ終え、薬も飲んだ俺は、ざっと片付けてじっと座って待っていた。


「春咲さん、そろそろ来る頃なんだけど」


 屋上のドアの方へそっと目を向けた。鉄のドアが固く閉ざされていた。

 一週間前、ここで初めて春咲さんと会話を交わした日から昼休み時間にずっと屋上で会っていた。別に屋上で会おうと待ち合わせをして会うわけではなかった。ただ、俺がいつものように屋上でご飯を食べていると、春咲さんがやってくる、大体こういう流れだった。


「春咲さん遅いね。なんかあったのかな」


 普段ならもう来ている頃なのに、今日に限って遅い。


「まあ待ってれば来るだろう」


 そう思った俺は空を仰いだ。今日はやけに空模様が悪かった。灰色の雲が一面に広がっていて、今にも雨が降り出しそうだった。


「なんか嫌な天気だな」


 曇りの日はあまり好きじゃなかった。気分が落ち込むし、雨降りそうなのに、結局降らない。それがすごく嫌だった。


「そんなことより、どうすれば春咲さんを助けられるんだろう」


 この一週間、屋上で春咲さんと一緒に過ごすうちに少しずつ距離が縮まって結構親しくなった。そのため、今は春咲さんを助けたいと思うようになっていた。でも、俺の貧弱な頭では、なかなかいい方法が思いつかなかった。


「まずは噂をなんとかしなきゃ」


 俺は深いため息をついた。いい方法が思いつかなかったのだ。


「いっそ本当に彼氏ができれば噂も消えるんかな」


 噂ってものは、より大きな噂でかき消すものだとどっかで聞いた覚えがあった。もちろん、彼氏ができたという話が、「男好きの汚い女」という噂を皆の記憶から消せるほど衝撃的かと言われれば、そうでもないかもしれない。俺の貧弱な頭ではこれが精一杯だった。

 でも、もし彼氏ができて卒業するまで付き合ったら、春咲さんが男好きの人ではないということが証明できるかもしれない。


「でも問題は、紹介できる人がいないってことなんだよな」


 俺の人間関係では、春咲さんに紹介できる男なんていなかった。友達も少ないし、知り合いもほとんどいない。


「紹介…雄太くらいか」


 だが、あいつにはすでに彼女がいるから無理だった。もちろん、付き合うふりをしてくれと頼むことはできる。だが、そんなこと頼んだら、俺、雛に殴り殺されかねない。


「かといって、俺が付き合うわけにもいけないし」


 俺が春咲さんと付き合うなんて絶対無理だった。だって、俺はもう……。


 そんなこと考えている中、屋上のドアがギィーと音を立てて開いた。


 春咲さんか。


 俺はドアの方へ顔を向けた。そしてそこには、やはり予想通り春咲さんがドアを開いていた。


「あ、春咲さん。今日は遅かったね。何かあっ…」


 いつも通り、俺は手を振って声をかけようとした。だが、春咲さんの姿を見た瞬間、あまりのことに言葉が喉に詰まった。

 まるでどこかでひどく殴られたかのような姿の春咲さんが、そこに立っていたからだ。

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