7話
自分の好きな人が友達に告白した、ただそんな理由でいじめるって? たかがそんなことで?
誰かを好きになるという感情を抱いたことがないからなのか、俺には理解できなかった。
いや、でも告白されやすいやつは一人いる。雄太のやつ。モテモテだからたくさんの女の子から告白されているんじゃないか。その中には雄太の友達が好きだった女の子もいたけど、いじめなんて起きなかった。女の子は違うのだろうか。
よくわからない。自分の好きな人が自分を選んでくれなかったという理由で、その人をいじめるなんて。
そんな疑問にとらわれ、考え込んでいたとき、春咲さんの声が耳元に聞こえてきた。
「私はちゃんと断ったの。美鈴がその子のこと好きだってこと知ってたし、そもそも私はその子のこと別に好きでもなかったから」
「じゃあなんでいじめるんだ」
告白を断ったからいいじゃないか。
ますます理解できなかった。
「美鈴は私がその子を誘惑して自分から奪ったって思ってる。でも違うの。私、あの子を狙うつもりなんてなかったんだ」
「で、あの美鈴ってやつに、そう言ってた?」
「うん。そんなつもりはなかったって、ちゃんと告白も断ってあの子とは何の関係もないって、何度も美鈴に言ってた。でも、信じてもらえなかった」
春咲さんは聞こえないほど小さうため息をついた。
「それからいじめが始まった。最初は教科書がなくなったり、上履きがなくなったりする程度だった。でもだんだんエスカレートして、ある日からは体育館の裏に呼び出されて、頬を叩かれたり、蹴られたり。私がごめんなさいって、やめてって、何度言ってもいじめは止まるどころか……そんな私を見て笑って、悪口を言って
ますますひどくなる一方だった」
春咲さんは思い出したくないというように、ぎゅっと目を閉じた。
「そしてある日、学校に噂が広まったのよ。春咲ゆづきは男好きの女だって。友達の彼氏を狙う、汚い女だって」
春咲さんの声が、わずかに震えていた。彼女は涙を堪えるように空を仰いだ。
「そうやって学校に噂が広まったのよ」
「そう、なんだ」
「……私の話、信じる?」
「うん。信じる」
俺は即答した。すると、春咲さんの目が丸くなった。
噂になんかおかしなところがあるんだと思っていたのに、その裏にこんな話が隠されていたなんて、想像もしなかった。やっぱり噂なんか信じるもんじゃな…ちょっと、なんでまた泣くんだ!?
いつの間にか、春咲さんは静かに泣いていた。
「ありがとう」
春咲さんは手で涙を拭いながら言った。
「ありがとう、私の話を、聞いて、信じてくれて」
春咲さんの感謝の言葉に、俺は何も言わず彼女をじっと見つめた。そしてポケットに入れておいたハンカチを取り出し、春咲さんの目元を拭ってあげた。ハンカチ越しに、熱い涙が染み込んできた。
「最初から信じるって言っただろ」
春咲さんは驚いたのか目が丸くなって俺をじっと見つめた。俺は気にせず、涙を拭き続けた。
「君の話、全部信じる。話してくれて、ありがとう」
正直、いまだに理解できなかった。たったそんな理由でいじめるなんて。俺の常識では納得できなかった。だが、それでも、なぜか春咲さんの話は信じられた。
「ありがとう...…ありがとう」
春咲さんの目から涙が止まらなかった。俺は何も言わずにただ彼女の涙を拭き続けていた。




