6話
「落ち着いた?」
俺は隣に並んで座っている春咲さんに、そっとハンカチを差し出した。
「うん…ありがとう」
春咲さんはハンカチを受け取り、目元の涙を拭った。
春咲さんが泣き出してから十分ほど経っただろうか。幸いにも、春咲さんの涙は止まった。目元と頬が少し赤くなってはいたが、もう涙が溢れることはなかった。
「ごめんなさい。急に泣いちゃって。あんなふうに言ってくれた人はあんなた初めて嬉しすぎて」
「いいよ、別に謝らなくても」
なるべく淡々と淡々と返したが、中身は違った。
よかった。なんか俺が泣かせたみたいで心がモヤモヤしてたけど、そうじゃなくてよかった。
俺は横目でチラッと春咲さんの様子を伺った。泣いたため、息音が少し荒くてなっていた。でもだいぶ落ち着いたように見えた。そのため、俺はずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの春咲さん、俺一つ聞きたいことがあるんだが、聞いてもいい?」
俺の問いかけに、春咲さんはきょとんとした表情を浮かべた。まるで「何」とでも言わんばかりの表情だった。
「あの噂のことだけど、どうして広まったんだ」
「……」
問いかけと同時に、春咲さんの表情はみるみる暗くなった。
やっぱり、余計なことを聞いてしまったか。
「すまん。どう見ても春咲さんが噂みたいな人には見えなくて。どうしてあんな噂が立ったのか気になっただけなんだ。答えたくないなら、無理に答えなくていい」
「……」
春咲さんから何の反応も答えもなかった。ただ目を大きくしてじっと俺の目を見つめているだけだった。
まあ誰にだって他人に言いたくない一つや二つくらいあるから。俺だって一年後に死ぬこと誰にも話せていないし。
だからだろうか。気にはなるけど、無理矢理に聞き出したいとは思わなかった。
そろそろ教室に戻るか。
お昼休みも終わりかけているし、春咲さん俺といるの気まずそうだった。
そう思って立ちあがろうと、地面に手をついたその時、春咲さんが言った。
「……れるの?」
「え? ごめん、今なんか言った」
「私を信じてくれるの?」
春咲さんはじっと俺を見つめながらそう言った。春咲さんの瞳がかすかに揺れていた。
「もちろん」
俺は頷いた。すると、春咲さんは何も言わず、しばらくの間、俺と視線を合わせ続けた。
どれくらい時間が経っただろうか。暖かな風の音だけが聞こえる静けさの中で、春咲さんは視線を前に向け、ゆっくりと口を開いた。
「実は、私……いじめられてる」
「え?」
あまりにも予想外の言葉に、思わず声が出てしまった。
「いじられてるって、誰に?」
「石川のグループに」
「石川、って誰?」
「石川美鈴。同じ学年だけど、知らないの?」
全く聞いたことのない名前だった。だが今はそんなことはどうでもよかった。
今、重要なのは
「で、そいつらはなんで君をいじめるんだ」
「それが…美鈴の好きな人が、私に告白してたから」
春咲んの声は低く沈んでいた。だが、それを聞いた俺はちょっと理解できなかった。
たかが、そんな理由で?




