40話
具合でも悪いのか。
私はふらついている高橋を支えて言った。
「大丈夫? 保健室に」
「だ、だいじょうぶ…はあ、はあ、ちょっと座らせて」
高橋の言葉に従って、彼をそっと座らせ私も彼の隣に腰を下ろした。高橋は手すりにもたれかかり、息切れしていた。こういうと時の対処法がわからず、どうするべきかわからなくてすごく困っていた。
どうしよう。やっぱり保健室行った方がいいと思うけど。
「本当に大丈夫? やっぱり保健室に行く方が」
「大丈夫。緊張が解けただけだから、少し休めばいい」
高橋は少し笑ってみせた。どう見ても平気じゃないのに。でも本人がああ言うから、私にできることは何もなかった。
しばらくして、高橋の言葉は本当だったのか、少し時間が経つと高橋の呼吸が落ち着いていった。
良かった。もう平気そう。
高橋の様子も平気に見えた。今なら聞いてもいい気がした。
「それで、さっきのあれ…どういう意味なの? か、彼氏になるって」
直接口にすると、なんだか恥ずかしくなって顔が少し熱くなっちゃった。
「言葉通り。俺が彼氏になって春咲さんに関する噂が全部嘘だって証明する。すると、噂も嫌がらせもなくなるはずだから」
「でも、そうしたら…」
高橋はまだ知らない。人の視線がどれほど怖いものか。ひとりになる気持ちを知らないから、あんなこと言えるのだ。
「高橋も噂に巻き込まれるかもしれないよ」
「俺はいいよ」
高橋は何の迷いもなく即答した。
「そういうの別に気しないから」
高橋の言葉に、私は呆然としてしまった。
「突然だし、俺のこと信用できないかもしれないけど、春咲さんを助けたい気持ちは本当だ」
「……」
あんたはどうしてそこまでして私を助けようとするの。
ぼんやりと高橋を見つめていると、彼は慌てて言い訳するみたいに言った。
「…あ! 誤解しないで。下心はない。純粋に春咲さんを助けたいだけだだから。春咲さんが普通の女子生徒として生活できるようになるまで、付き合ってるふりをしようってことだから。だから…その……俺と、付き合う?」
純粋に私を助けたいだけ…あれ?
いきなり目から涙から落ちてきた。それを見てすごく戸惑った高橋は慌てて言った。
「う、うわあ、も、もしかしていやだったら断ってもいいから」
「そんなんじゃない」
私は涙を拭くのも忘れたまま、言葉を続けた。
「学校に変な噂が立ってから、私を助けてくれるって言った人は高橋が初めてだったの。それが嬉しすぎて」
私の話を聞きたいと言ってくれた人は高橋が初めてだった。
私の話を最後までちゃんと聞いてくれた人も高橋が初めてだった。
私の話を信じてくれた人も高橋が初めてだった。
そして、今私を助けたいと言ってくれた人も高橋が初めてだった。
あ、私高橋のことが好きなんだ。
ようやく分かった。私は私を信じてくれた高橋のことが好きだったのだ。だから彼の前では、普通の女の子に見られたかった。彼にみっともない姿を見せたくなかったのだ。
「だから、私なんかでよければ、その…私と付き合ってくれませんか?」
「……うん」
高橋は目を丸くして頬を赤らめて呆然と頷いた。
分かってる。これは片思い。私の「付き合う」と高橋の「付き合う」に込められた気持ちが違うことくらい、分かっていた。
私はずるい女だね。
毎日石川に言われて否定してきたけど、実は私卑怯な人なのかもしれない。高橋の好意を利用しようとしているから。でも…それでも高橋と付き合いたかった。
これで春(上)は終わりです。
おもろかったらブクマと評価(★★★★★)お願いいたします。
これからの展開もどうか楽しみにしてください。




