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3話

 …あの子が、なんでここに。


 あの少女を見た瞬間、自分の目を疑った。けれど、何度見直しても間違いなく、昨日屋上で見たあの少女だった。


 まさか同じクラスだった?


 その予想が当たってたかのように、少女は教室に入ってど真ん中の席に鞄を置き席に座った。

 クラス替えからまだ二週間も経っていないため、まだクラス全員の顔を覚えきれていなかった。でもいくら何でもクラスメイトに気づかなかったなんて。自分が少し情けないと感じた。

 そうやってぼんやりと少女を見つめていると、突然誰かに肩を掴まれて揺さぶられた。顔を上げると、視界に入ったのは雄太だった。


「おい、俺の話聞いてんのか」

「ん? あ、もちろん。聞いてる聞いてる」

「そう? じゃあ俺が何の話してたか言ってみろ」

「そりゃ…….どんな話してたっけ。忘れちゃった」

「やっぱり」


 雄太はため息をついた。


「昨日雛と喧嘩した話してたんだ」


 またその話だったか。


「それ聞く必要もない。どうせお前が悪いんだろ。早く謝って仲直りしろ」

「いや、今回は俺マジで何もしてないんだから。聞いてみて。昨日ケーキ屋でショートケーキを頼んだけどね。俺がケーキのイチゴを食べたぞ」

「それで喧嘩したわけ?」

「そう! たかが苺を食べただけなのに、そんなに怒る必要ある?」


 雄太は納得いかないという様子で訴えてきた。あまりにくだらなくて、言葉が出なかった。


 …これはまあ話す価値もないな。


「それより雄太、あの子、知ってる?」


 俺は、教室のど真ん中にぽつんと一人座っている少女を指さした。雄太は俺の指差す先に視線を向けた。目を細めて少女を見て言った。


「春咲さんだな」

「春咲さん、か」


 名前、初めて知った。


「名前以外のことは? 春咲さんについて他に知ってることない?」

「え? 晴翔、あいつ知らねぇの?」


 雄太は首を傾げた。俺は答えの代わりに、ただ頷いた。


「マジか。あいつ、有名なんだぞ。男好きの汚い女だって」

「…え? どういうこと」

「俺も詳しくは知らねぇけど。去年の夏頃だったっけ。噂が回ってたんだ。男好きな汚い女だって」

「どうして」

「そこまでは俺も知らねえ」


 雄太は肩をすくめてそう言った。俺は春咲さんの方へ目を向けた。


 なんで、あんな噂が。


 そういえば春咲さん教室に入ってからずっと一人浮いていた。クラスの中の多くの生徒がそれぞれ友達と楽しそうに話しているが、春咲さんは一人だった。周りに誰もいない上に、誰も彼女に近づこうとしなかった。


「あ、そういや春咲さんって石川のグループに、あれ? 晴翔、お前まさか春咲さんに興味あんのか」

「......ちょっと知りたいだけ」

「え、マジで? いっ、いつから?」


 雄太は驚いた様子で、次々に質問してきた。けれど、今雄太の声は俺の耳に全然入ってこなかった。


「おい、無視すんじゃねえ。答えろよ。ほんとにあいつに興味あんのかよ」

「……」

「晴翔ぉ」


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