36話
ここ屋上だよね? 確かに屋上だけど…どうしてここに石川がいるんだ。
混乱した。この時間に屋上が開いていることを知る人は私は高橋しかないはずなのに、どうして石川がここにいるのか。今私が見ていることが本当なのか、自分の目を疑ったけどそれでも変わることは何もなかった。
「驚いたよ。お昼休みにこんな良い場所があるなんて、思いもよらなかった」
石川はにっと笑いながららこっちに近づいてきた。その不気味な微笑みに、体に刻み込まれた恐怖が思い出されて体が凍りついた。
石川は私の前に立って肩に手を置いた。
「ずっとここにいたの? 私から逃げて?」
「違う。逃げてたわけじゃ」
「嘘」
石川の冷たい声に、言葉が喉で詰まった。
「またすぐ嘘をつくのね。春咲のそういう大嫌いと言ってたのに。ね、私のこと無視してんのね?」
石川は鋭く睨みつけた。その眼差しに体がぞっとした。
「仕方ないわね。春咲には礼儀を叩き込んでやるよ。感謝しなよ。みんな」
石川の合図に後ろに立っていた彼女の友達が私を取り囲んだ。まるで獲物を追い詰める獣のように、彼女たちはゆっくりと近づいてきた。やがてすぐそばまで来ると、石川を先頭に全員が一斉に私を殴り始めた。
私は必死に体を丸めてみた。だが、無駄だった。暴力はとまらなかった。やめてって、痛いって、私が悪かったって、許してって何度も泣き叫んで懇願しても意味はなかった。彼女らは私のことなんてどうでも良いと言わんばかりに殴り続けた。
どれくらい時間が経っただろうか。全身が埃と傷だらけになり、起き上がる力すらなかった。床に倒れたまま、息切れして手で汗を拭う石川を力なく見上げた。
「はぁはぁ、今日はここまでにしてやる。明日も逃げたらはぁはぁ本当に殺しちゃうから」
そう言い残して石川は私に背を向けて悠々と屋上を去っていった。一人残された私は、起き上がることもできず、床に倒れたまま石川の後ろ姿を見つめていた。やがて屋上のドアが閉まり石川の姿は完全に見えなくなった。私はかすれた声でつぶやいた。
「痛い…」
体中痛くないところがなかった。あちこち痛くて体に力が入らなかった。意識も少しずつ遠のいていった。
このまま死ぬのかな。ああ、死ぬ前に高橋とおしゃべりしたい…。
と思う瞬間、声が一つ耳に入ってきた。
「春咲さん大丈夫?」
「うぅ……」
私の名前を呼ぶ懐かしい声に私は力なく目を開けた。見慣れた顔が、今最も会いたかった顔が、目の前にあった。
「早く保健室に」
「高橋……」
私は声を絞り出して彼の名前を呼んだ。




