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35話

 屋上のドアを開けると、真っ先に高橋が見えた。私を見た高橋は慌てて駆け寄ってきた。


「春咲さん......これは一体。大丈夫?」


 高橋は心配そうな顔で私の状態を見た。


「一体何があったんだ。この傷は」

「……」


 私は何も言えなかった。正確には言う勇気が出なかった。


「ましかして、石川のやつらに殴られた?」

「ち、違うよ」


 思わず反射的に違うって言ってしまった。

 だって石川に殴られたことを高橋にバレたくなかった。すでに彼には全てを話した仲だけど、それでもこんな格好で殴られたと言う勇気は私にはなかった。

 結局私は嘘をついてしまった。


「ちょっと、転んだだけ。だから、気にしないで」


 あ、最低だね、私。私のことを信じてくれた人に嘘なんかついて。本当に最低で情けなかった。

 しかもこんなバレバレな嘘で騙そうとするなんて。

 こんな嘘通じるわけなかった。転んだくらいでこんなに怪我するわけがないから。でも、思いつく嘘がなかった。

 私は不安な気持ちで彼の反応を伺った。高橋は何も言わずに私をじっと見つめていた。

 しばらくして高橋はため息をついて言った。


「気をつけろよ。一体どう転んだら、そんな怪我するんだ」

「そ、それが…」


 え、そこまで考えていなかったのに…なんて言えばいいんだろう。


「保健室は? 保健室行かなくてもいい?」

「え? あ、うん。大丈夫」


 信じてくれた?

 私はそっと彼の顔色を伺った。相変わらず心配そうな顔で私を見ていた。


 これ、騙したんだよね?


 安堵のため息が漏れた。

 そのあとはいつも通り、普通に会話を交わした。高橋と話している間、私は石川との出来事を忘れることができた。しかし、石川のイジメはその日だけで終わったわけではなかった。


 あの日以来、毎日石川は私がいる場所を見つけて、体育館の裏へと引きずっていって容赦無く殴った。石川に殴られて屋上に行くたび、高橋はいつも心配してくれた。私はそんな彼に、いつも嘘をついた。


 ただ転んだだけだと。心配しなくてもいいんだと。


 心配されているくせに嘘をつくなんて。自分が情けなかった。でも仕方なかった。高橋にいじめられている姿を見られたくなかったから。普通の女の子に見られたかったから。

 嘘をついても屋上で高橋と過ごす時間を守りたかった。でもそんな私の小さな願いは神様に届かなかったのか、石川によって粉々に壊されてしまった。

 その日は、珍しく石川が私を見つけられなかった日だった。

 今日は嘘をつく必要もないだろうと、心を弾ませながら屋上に向かった。しかし、その喜びも束の間、屋上についた瞬間、喜びはすぐに絶望に変わってしまった。


「なんで、なんでここにあんたたちが」


 屋上には先客がいた。しかし高橋ではなかった。


「春咲、遅かったじゃん」


 屋上には石川とそのグループが先に来ていて、私を迎えていた。

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