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33話

 どうしていきなりそれを聞くんだろう。

 戸惑っていた。何の目的で、なぜそれを聞くのか分からなかったからだ。そんな私の様子に気づいたのか、彼は言い訳するように口を開いた。


「すまん。どう見ても春咲さんが噂みたいな人には見えなくて。どうしてあんな噂が立ったのか気になっただけなんだ。答えたくないなら、無理に答えなくていい」

「……」


 本当に純粋に気になっただけなのかな。

 嘘をついてるようには見えなかった。私は彼の目を合わせて聞いた。


「私を信じてくれるの?」

「え? ごめん、今なんか言った」

「私を信じてくれるの?」

「もちろん」


 彼はそう言って頷いた。私は何も言わずに彼と目を合わせた。

 まっすぐに私を見つめ返す彼の黒い瞳を見ていると、不思議とこの人ならいいかな、という根拠のない思いが心の底から湧き上がってきた。

 無駄だってわかってるのに、どうせ私の話なんて誰も信じてくれないと分かってるのに。それにも関わらず、言いたくなってしまった。信じてもらう保証なんてどこにもないのに。


 もう知らない。言っちゃおう。


 でも目を合わせて話すのは少し怖かった。相手の反応を見ながら話す自信がなかった。そのため、私はそっと視線を逸らして、ゆっくりと口を開いた。


「実は、私……いじめられてる」

「え? いじられてるって、誰に?」


 彼はかなり驚いた様子だった。私はそんな彼をチラリと見て、話を続けた。


「石川のグループに」

「石川、って誰?」

「石川美鈴。同じ学年だけど、知らないの?」


 彼は首を縦に振った。なぜか、少し安心した。


「で、そいつらはなんで君をいじめるんだ」

「それが…美鈴の好きな人が、私に告白してて」

「はあ?!」


 彼は納得いかない、という顔で私を見た。私はそんな彼に全てを話した。

 石川と仲良くなったこと。告白されたこと。いじめられていることまで、彼に全部語った。


「そうやって学校に噂が広まったのよ」

「そう、なんだ」


 彼の反応はなんか微妙だった。少し不安になった。もし私の話を信じないのか、と。


「あの……私の話、信じる?」

「うん。信じる」


 あまりにも即答で、少し驚いた。そしてまっすぐに私を見て、「信じる」と言ってくれる彼の姿に、また涙が込み上げてきた。


「ありがとう。ありがとう、私の話を、聞いて、信じてくれて」


 初めてだった。私の話をちゃんと聞いてくれた人は。初めてだった。噂じゃなく「私の話」を信じてくれる人は。それがあまりにも大きな救いで、私は止めどなく涙を流していた。てで涙を拭っていると、不意に頬に柔らかい布が触れた。そして布の向こうから、温もりが伝わってきた。

 顔を上げてみると、彼がハンカチで涙を拭いてくれていた。驚いて目を見開いたまま彼を見惚れていると、彼は穏やかに言った。


「最初から信じるって言っただろ。君の話、全部信じる。話してくれてありがとう」


 その暖かい一言で、胸の奥がじんわりと温かくなる気がした。その温もりに涙は止まることを知らずポロポロとこぼれ落ちた。彼は何も言わずただ静かに涙を拭き続けてくれた。


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