表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/44

32話

 誰もいないだろうと思っていた屋上にはすでに先客がいた。その人は私の声が聞こえたのか、おもむろに振り返った。


「…….えっ、春咲さん?」


 あ、あの人だ。どうしてあの人がここに。

 またしても予想せぬの再開に、私は呆然と彼を見つめた。どうやらそれはあっちも同じだったようで、彼もぼーっとした顔で私をみていた。気まずい静寂が流れた。


「あっご、ごめんなさい。人がいるとは思わなくて」


 一人でいるところを邪魔してしまった気がした。

 私は頭を下げて謝り、sの場を離れようとした。本当は逃げたかっただけだった。背を向けて校舎へ入ろうとしたその瞬間、彼が呼び止めた。


「春咲さん、ちょっと待って」


 彼の口から私の名前が出てきた。びっくりした私はそのまま固まって振り返った。


「どうして私の名前を…。まさか私のこと、知ってる?」

「知ってるっていうか、名前しか」

「…じゃあ、私についての噂、知らない?」

「少しだけ」

「そぉう、なんだ」


 やっぱり。私のこと知ってたんだ。

 期待して損した。期待しなければよかった。期待しちゃいけなかった。

 一気に気が抜けちゃった。勝手に期待して、勝手に失望する自分があまりにも情けなかった。


「でも俺、噂なんか全然信じないから。春咲さんがそんな人には見えないし」


 その言葉に、思わず息を呑んだ。

 噂を信じないなんて。ダメだ。あんなこと言われたら、また期待してしまう。また勝手に期待して傷つくってわかってるのに、それでも期待が湧き上がって落ち着かなかった。


「……本当に?」

「本当。そもそも噂は噂に過ぎないし。本人から直接聞くのが一番大事なんだから」


 初めてだった。あんなふうに言ってくれる人は。みんな噂ばかり信じて、私の話なんて聞こうともしなかったのに。今、目の前にいる人は、噂よりも私の言葉を信じるっていてくれていた。

 そのせいか、気づいたら涙がポロポロとこぼれ落ちていた。必死に堪え用途したけれど、どうしても堪えなかった。


「ひっ、ひぐっ」

「だ、大丈夫? どうして急に泣くんだ」

「そ、それが…そんなひゅうに言ってくれた人お、あな、あなたが……あなたがひゃじめてでぇ」


 突然泣き出す私を見て、彼は戸惑った表情を浮かべていた。


「ごめん、きゅ、急に泣いちゃって」


 急に泣いちゃうと困るよね。それを知ってて泣き止めようとしたが、涙は止まらなかった。むしろ堪えようとすればするほど、涙は止めどなく溢れてきた。

 結局私はしばらくの間、彼の前で声をあげて泣き続けた。ようやく落ち着いたあと、気づいたら私と彼は並んで壁にもたれかかって座っていた。

 彼は私にハンカチを差し出した。


「落ち着いた?」

「うん…ありがとう」


 私はハンカチを受け取って涙を拭いた。一通り拭き終えると、彼がおずおずと問いかけてきた。


「あの春咲さん、俺一つ聞きたいことがあるんだが、聞いてもいい?」


 聞きたいこと? なんだろう。


「あの噂のことだけど、どうして広まったんだ」

「……」


 彼の問いかけに、心の奥で雷が落ちたように、バキリと何かがひび割れるような音がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ