26話
侑芽の言葉を聞いた瞬間、私は困惑を隠せなかった。あまりにも唐突で、聞き間違いじゃないかと思って聞き返してしまった。
「私が美鈴の彼氏を奪ったって、どういうことなの」
「私も詳しくはわからないけど、今朝学校に来たらもう噂に立ってた。ゆづきが美鈴の彼氏を奪ったって」
あまりにも突拍子もなくて、言葉が出なかった。
だからみんなあんな目で私を見てたのか。
やっと朝感じた違和感が理解できた。
「ゆづき違うよね? そんなことしないよね?」
「私がそんなことするわけないでしょ」
「だよね? やっぱりデマだよね。やっぱそうだと思ったわ」
幸い侑芽は私のことを信じてくれているようだった。
私はひとまず席に座って考え込んだ。
一体誰がこんな噂を流した。
いや、今は犯人探しよりも誤解を解くのが先。まずは美鈴と話してみんなにちゃんと説明しよう。
私は美鈴の席の方へ目を向けた。しかし、美鈴の席は鞄だけで空いていた。私は席を立ち美鈴を探すために教室を出た。
美鈴を探しながら廊下を歩いていると、遠くに見慣れた後ろ姿が目に入った。美鈴だった。私はすぐに美鈴のもとへ駆け寄り、その手を掴んだ。
「美鈴」
美鈴はびっくりした様子で振り返ったが、私の顔を見るなり表情は一気に冷え切った。
「何よ、春咲」
「美鈴大変なの。今学校に変な噂が立ってて」
「噂?」
「私が美鈴の彼氏を奪ったっていう、変な噂が広まってるの」
「あら、そりゃ大変だね。でも、それ噂じゃないでしょ」
「え?」
「あなたが私の彼氏を奪ったんでしょ」
「何言ってるの。私がいつ」
「最後まで知らないふりするつもりか。純情ぶるの、反吐が出る」
美鈴の言葉に頭を殴られたような感じだった。
「春咲見損なったわね。人の彼氏を奪ったくせに、被害者の前に堂々と出て助けを求めるなんて」」
「美鈴何言ってるんだよ。私そんなことしたことないって美鈴も知ってるーー」
言いかけたその時、一つの可能性が脳裏をよぎった。
「美鈴まさか噂流したの、あなたなの?」
「はあ?! 何言ってんの」
「昨日のことが原因で」
「春咲」
美鈴の声が重く低く響いた。その声に私は凍りついた。
美鈴は冷たい目で私を見下ろし言い放った。
「証拠あんの? 私が噂流したって証拠」
怖かった。冷たく突き刺さる美鈴の視線が。美鈴だけじゃなかった。美鈴のそばの友達と廊下にいるみんなの視線が怖くて怖くて怖くて、今すぐにでも逃げたかった。でもここで退くわけにはいかなかった。
「昨日あんなことが合ったから噂を流したんでしょ。昨日、私が仙石くんに告白されたから」
「だ・か・ら! 私が噂流したっていう証拠出せっつってんの」
美鈴は強く私の右肩を突き飛ばした。その反動で、私は力無く後ろへ倒れた。廊下にいた全員の視線が一斉に集まったが、美鈴は気に留めず、前に立って冷たい眼差しで私を見下ろした。
「証拠ないでしょ。人を陥れるな」
その冷たい眼差しが骨の髄まで染み込んできた。身体は恐怖で震え、声は喉から出てこなかった。
そんな私を美鈴は情けないというように見下ろした。
「もう二度と話しかけないで。汚らわしいから」
そう言い残し、美鈴は私から背を向けた。遠ざかっていく彼女の背中を、私は床に座り込んだまま、完全に見えなくなるまでただ黙って見つめ続けていた。
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