25話
「美鈴どうしてここに…いや、いつから」
美鈴と目が合った瞬間、頭の中が真っ白になった。
さっきのあれ美鈴が見てたかな。なんと説明するべきなの。
いろんな考えが頭の中をぐちゃぐちゃに駆け巡った。いっそ何か言ってくれたらいいのに、美鈴は何も言わずただ私をじっと見つめているだけだった。
「美鈴、さっきのは」
「春咲」
沈黙していた美鈴が口を開いた。そして私の手をパッと掴んだ。
「ついて来い」
「ちょ、ちょっと」
美鈴は私の手を引いてどこかへ歩き出した。私は行き先もわからないまま、美鈴に引きずられていった。
しばらく無言で歩き続け、辿り着いたのは体育館の裏だった。普段から人通りの少ない場所で、周囲には誰もいなかった。
どうしてこんなところに来たの、と聞こうと口を開いたその瞬間だった。美鈴は私の手を強く引き寄せ壁に押し付けた。突然の出来事に、私は抵抗することもできず背中を壁にぶつけた。
「痛っ」
「ゆづき」
美鈴が静かに私の名前を呼んだ。聞いたことない声だった。美鈴の声が重く低くてゾッとした
「さっきのあれなんなんだよ。なんで仙石くんがあんたに告白するんだよ」
「そ、それが」
仙石くんの好きな人が私なんだって、とはどうしても口に出せなかった。そのため、私は何も答えられずオドオドしていた。
「最初から知ってたんでしょ」
「ど、どういうことなの」
「仙石くんが好きな人はあんたってこと。知ってたんでしょ?」
「違う。全然知らな」
「ふざけんなぁ!」
「きゃあっ!」
美鈴はすぐ横の壁を思い切り蹴った。反射的に体がすくんだ。美鈴は追い詰めるように距離を詰め、鋭い視線で睨みつけてきた。
「最初から知っってたんだろ。仙石くんが好きなのは私じゃなくお前だって。さっき全部聞いた。そもそも仙石くんが私に近づいたのも、全部あんたと仲良くなりたかったからだって」
心の底からドンッと何かが崩れるような音が聞こえた。
「私を見て笑ってんだでしょ。私が舞い上がってるのを見て」
「そんなことない」
誓って言えた。美鈴を見て嘲笑ったことなんて、一度もないと。
「美鈴本当に知らなかった。仙石くんが私のこと好きだと。あ、あと、告白もちゃんと断ったから」
「嘘だ」
美鈴がぽつりとつぶやいた。
「ウソウソウソウソウソウソウソウソ!」
「み、美鈴」
「触るな!」
美鈴は私の手をぱじっと払い除けた。
「汚い」
「…美鈴?」
美鈴は心底不快そうに眉間に皺を寄せて私を見下ろした。
「美鈴どうしてそんな顔で」
「勝手に名前で呼ぶな。この汚い女が。気持ち悪い」
呆然とした。どうしてこんな状況になったのか混乱していた。
「春咲なんかもう知らないから」
美鈴の声は氷のように冷たかった。骨の髄まで凍りつきそうだった。美鈴は冷ややかなに私を一瞥して、そのまま立ち去った。
美鈴の姿が視界から消えた瞬間、足から力が抜けてしまってその場にへたり込んだ。足がガクガクと震えていた。それだけじゃない。腕も肩も、全身が震えていた。
「どうして、どうしてこんなことに」
怖い。怖い。怖い。
体の震えが止まらなかった。
けれど、これはこの後のことに比べればまだ序の口にすぎなかった。
そしてその翌日。
昨日美鈴とあんなことが合ってから心が落ち着かなくて、一睡もできなかった。
どうすれば誤解を解けるんだろう。
仲直りしたいのに、どうすればいいのかわからなかった。
せめて私の話を聞いてほしいが…。
そんな悩みを抱えながら、私は登校した。
「……?」
なんかおかしかった。学校の空気が普段とは違う気がした。私を見る視線がやけに冷たかった。
気のせいだろうかと思い、深く考えずに教室に入った。その瞬間だった。騒がしかった教室が一瞬で静まり返り、全員の目線が一斉に私のところに集まった。
ドアを開けて入ってから反射的に目が向いただけ、かもしれないがそれとはなんか違った。普段とは違って冷たくて突き放すような目で私を見ていた。
廊下と同じ眼差し。どうしてそんな目で私を見るの。
疑問に思った時、友達の侑芽が近づいてきた。
「ゆづきそれ本当なの」
「それって?」
侑芽は言うべきか迷っている様子で、もじもじしていたが、やがて口を開いた。
「美鈴の彼氏を、ゆづきが奪ったって、本当なの?」
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