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21話

「ただいま」


 玄関ドアを開けて家に入ると、キッチンにいた母さんが迎えてくれた。


「あらゆーちゃん。いつもより早く帰ってきたわね」

「そ、それが…今日は友達と遊ばず、すぐ帰ってきたの」


 嘘だった。今日は家に入る前に傷を隠す必要がなかったから、いつもより早く帰れたのだった。

 学校でいじめられていることを、両親には隠していた。余計な心配をかけたくなかったからだ。だから石川にいじめられた後は、すぐに家に帰れなかった。公園とかで、傷を隠し、涙で腫れた目が引くまで時間を潰してから帰っていた。でも、今日は高橋に助けてもらったおかげで、その必要がなかった。


「部屋で休むね」


 私は階段を上って、自分の部屋に向かった。部屋に入るなり、鞄を机の上に放り投げ、ベッドに飛び込んだ。


「やばいぃ。これ夢じゃないよね?」


 全然現実性がなかった。私は自分の頬を思い切りつねってみた。


「痛っ!」


 痛みを感じたことで、これは夢じゃないことは確かだった。しかし、それでも今日の出来事が現実だったとは、到底信じられなかった。

 石川のいじめは毎日のことだ。集団リンチされたり水をかけられたり机に悪口を書かれたり物を盗まれたり。その度、助けを求めても私に目を向けてくれる人はたった一人もいなかった。学校に流された変な噂のせいで、みんな私を避けて誰も見ぬふりをしていた。

 だからといって別に恨んではいなかった。だって立場が逆だったら、私もあの子たちと同じだったはずだから。

 だから全部諦めて生きていた。なのに、今日、初めて私を助けてくれた人が現れたのだ。


「高橋、確かに名前は……晴翔だった」


 今日も集団リンチされかけていた私を高橋が助けてくれたのだ。


「しかも彼氏だって言った。あの美鈴の前で」


 私の彼氏だと口にしたら、学校中に変な噂が広がることくらいわかっていたはずなのに、それでも高橋は美鈴の前で堂々とそう言った。


「かっこよかった」


 まるで少女漫画によく出るヒーローみたいだった。ピンチのヒロインを助けるヒーロー。


「でもどうして私を助けるんだろう」


 どうしてそこまでして私を助けようとするのか、理由はわからなかった。前から知り合ったわけでもない。あの日、屋上で初めて出会うまでは同じクラスだということすら知らなかった。

 私が高橋に何かしてあげたこともないのに、どうして私なんかを助けてくれるのか疑問だった。


「高橋、まさか私のことが好きで…なんちゃって、流石にそれは違う」


 学校で汚い女だって噂が立った女を好きになる人なんているはずがなかった。


「ゆーちゃん夕飯食べて」


 階下から母さんの声が聞こえてきた。

 まだ答えは出てないけど、夕飯食べながら考えようかな。


「はーい」


 そう返事して私は階段を降りていった。


 それから私は考え込んだ。

 夕飯は食べながら。

 お風呂に入りながら。

 寝る準備をしながら。

 ずっとその疑問の答えを考えていた。でもベッドに横になったその瞬間まで、答えは見つからなかった。


「高橋は、どうして、私を」


 眠る寸前まで考えた。しかし結局疑問に答えを見つけられないまま、眠についてしまった。

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