19話
「おっ、お前っなんてぇ」
「彼氏だって。春咲さんの」
まるで彼女たちの頭に刻み込むかのように、俺は一語一語はっきりと言ってあげた。すると、向こうから耳をつんざく大声が飛んできた。
「はあぁぁあ!? 彼氏だって!?」
その大声は晴翔のものだった。
「雄太! お前なんで俺に言ってなかったんだ」
うるせぇな、あいつ。
今すぐにでも黙れアホって言いたかったが、今はそれどころじゃなかった。俺は石川グループへと視線を戻した。
ひどく動揺した表情で俺を見つめる石川グループ。俺はこの勢いで言葉を続けた。
「じゃ俺が誰かも分かったから、もう用事ないよね?」
「は?」
「俺の彼女とこれから用事があって」
俺は見せつけるように春咲さんの手を取った。春咲さんが少し驚いたように目が丸くなった。
春咲さんごめん。いきなり手を掴んで。
心の中で謝って石川の奴らによく見えるように、わざと手を前に出した。それを見た石川グループが、明らかに動揺しているのが目に見えた。
「じゃ行こっか。春咲さん」
「えっ、う、うん」
春咲さんは石川の様子を伺っているみたいだった。それで、俺は春咲さんの手を引いて、雄太のいる方へと歩いていった。背後から石川グループがざわつく声がかすかに聞こえてきたが、無視した。
「雄太行こう」
「お、おう」
雄太は呆然としたまま、小栗と頷いた。こうして石川グループから春咲さんを引き離した俺は、とにかく体育館から離れるのが先決だと思った。そこで校庭の方へ回り、そのまま学校の裏門から外へ出た。
俺は周りを見回した。下校中の生徒たちと、傍に立つ春咲さん、背後できょとんとする雄太の姿が視界に入った。どうやら石川グループは俺たちを追ってきていないようだった。
「ここならもう大丈夫だろう」
安全を確認してから、俺は春咲さんに視線を向けた。
「春咲さん大丈夫? どっか怪我とかしてない?」
「うん。ありがとう、助けてくれて」
春咲さんは少し目を伏せながらそう言った。俺は彼女の様子を上から下まで見た。
ちょっと早足で歩いたため、少し息切れしていた。けど、目立つ外傷はなさそうだった。
「どころで、春咲さんカバンは?」
今気づいたが、春咲さんの手には鞄がなかった。
まさかあそこに置いてきたんか。クソ、また戻るには。
「おい、ほら」
突然雄太が鞄を差し出してきた。
「落ちてたから拾ってきた。これ、春咲さんのだよな?」
「う、うん。ありがとう」
春咲さんは少し気まずそうに鞄を受け取り、助けを求めるみたいに俺の方をチラッと見た。
「あ、ここは友達雄太」
「どーも、山田雄太っていうの。同じクラなんだが、覚えてるかな」
雄太は人懐っこく笑いながら手を振った。すると、春咲さんは少し怯えたように、肩をすくめた。
「どうやらお前のこと覚えてないみたいだな」
「そうだな、はは」
雄太は頭をかきながら苦笑いを浮かべた。
「それより春咲さんはどっち方面?」
「私は…あっち」
春咲さんは小さな声で言いつつ、右側を指さした。
「逆だな」
「何言ってんだ。俺たちもあっちッ」
「お前は黙ってろ」
雄太の手が、いきなり俺の口を塞いだ。そしてもう片手では春咲さんに手を振った。
「残念だがここでバイバイっか。また明日、春咲さん」
「う、うん。また明日」
春咲さんはぎこちなく頷き、さっき指さした方向へ歩いていった。春咲さんの姿はだんだん遠ざかり、やがて完全に視界から消えた。
「行ったな」
「んむぅーッ!」
「ん? なんか言った」
「手ぇ離せっ!」
俺は無理矢理に雄太の手を引き剥がした。
「急になんなんだ。なんであんな嘘ついたんだ」
「ふむ、いいからお前はちょっとついて来い」
突然雄太は俺の肩に腕を回してきた。「急になに」と言いかけた瞬間、雄太は腕にグッと力が込めてどこかへ引きずっていった。抗ってみたけど、全然無駄だった。
「おい、離せっ! 一体どこ行くんだ」
「黙ってついてこい」
わけもわからず俺は雄太に攫われた。




