13話
屋上の真ん中に倒れている春咲さんを目にした瞬間、思わず彼女の元へ駆け寄っていた。春咲さんのそばにしゃがみ込み、彼女の名前を呼んだ。
「春咲さん大丈夫?」
「うぅ……」
春咲さんの口から、微かな呻き声が漏れた。全身が傷だらけで、埃まみれだった。
「早く保健室に」
「高橋……?」
春咲さんはゆっくりと目を開けた。
「春咲さん? 大丈夫? 早く封建室へ」
「大丈夫」
春咲さんはゆっくりと体を起こして座った。けれど、傷が痛むのか、彼女は体を微かに震わせていた。
「ただ、ちょっと転んだだけだから、気にしな」
「嘘」
俺はきっぱりと言った。すると春咲さんは驚いたようにこっちに顔を向けた。春咲さんの目が僅かに見開かれていた。俺は彼女の目をまっすぐ見つめたまま、言葉を続けた。
「最初から嘘だってわかってた。転んだんじゃないだろ。あの石川ってやつに殴られたんだろ」
「ち、違う。本当に転んだだけで、い、石川には」
「ここに来る途中に見た。あいつらが屋上から降りてくるのを」
「……」
俺の言葉に、春咲さんはわかりやすく動揺した。
今まで自分の嘘が通じていると思ってたのか。そんな嘘、最初から信じていなかったのに。ただ春咲さんをそれを望んでいるように見えたから、騙されたふりをしていただけだった。
「だからもう正直に打ち明けて。あいつらの仕業なんだよね? あいつらに殴られたんだろ。今まで春先さんがボコボコになってここにきたのも、全部あいつらの仕業なんだよね?」
「そ、それが……」
春咲さんは目を避けた。それでも俺は黙って彼女を見つめて返事を待った。
もうどうでもよかった。春咲さんが望もうが望むまいが、これ以上騙されたふりをするのはやめると決めた。俺にできることは全部やってあげたかった。
しかし春咲さんは俯いたまま、同じ言葉をつぶやくだけだった。
「だから…それが……」
春咲さんは歯切れの悪いまま答えられなかった。それでも俺は静かに待ち続けた。
静寂の中、当然春咲さんがパッと立ち上がった。俺は戸惑いながら、彼女を見上げた。
「春咲さん? 急にどうして」
彼女につられて俺も立ち上がろうとした瞬間、春咲さんは突然どこかへ走り出した。
「え、いきなり何を。春咲さん!」
春咲さんを呼んだが、届かなかったのか、彼女は振り返りもしなかった。そのまま慌ただしく屋上のドアを開け、学校の中へ逃げてしまった。
「どうして、避けるんだ」
屋上に一人取り残された俺は、しばらくの愛田、ぼんやりと屋上のドアを眺めながら静かに呟いた。




