11話
「お、俺が? 俺がいつそんなこと言ったんだ!」
「この前さ、春咲さんのこと、ずっと目で追ってたじゃん。それにお前が自分の口で言っただろ。春咲さんのこと好きだって」
俺が? 一体いつ?
きょとんとしていると、雄太は覚えてないのかと言いたげな顔で言った。
「一週間前だっけ。二週間前だっけ。お前が春咲さんのこと聞いてきた日。あの時、好きだって言ってたじゃん」
「俺が?」
いくら記憶を蘇らせても、好きだって言った覚えはないんだが……あっ!
ひととう、思い当たることがあった。
「いや、好きって言ったことない。ただちょっと気になるって言っただろ」
「そうだっけ。よく覚えてねぇな」
「お前さ」
「でも気になるって好きと同じだろ」
雄太はとぼけた笑いながら、ご飯を口に運んだ。もぐもぐ噛んでゴクリと飲み込んでから、言葉を続けた。
「で、春咲さんとは少し仲良くなった?」
「まあ少しは」
結構会話を交わしたし、この程度なら仲良くなったと行ってもいいと思った。
「で、どうだった?」
「何が」
「春咲さん。実際にどんな人だった」
雄太は弁当に視線を落としたまま聞いてきた。
ふむ、どんな人かって言われたら…
「わからない」
「は!? さっき仲良くなったって言っただろ。なのにわからないんか」
「まだ『こういう人だ』って決めつけられるほど、知ってるわけじゃないから」
雄太みたいに長く付き合ってる相手なら、どんな人かとすぐ言える。例えばもし誰かが俺に『雄太ってどんな人』だと聞いたらすぐ答えられる。雄太は自己肯定感が高くて、イケメンでチャラそうに見えるけど、実はそうではない人だと。
でも春咲さんは違った。彼女と話すようになってからまだ二週間も経ってないし。しかもそれも昼休みだけで、実際に一緒にいた時間をざっと計算すれば、おそらく十時間もないだろう。それなのに「春咲さんはこういう人だ」っていうのは、まだ早いと思った。
「でも一つだけは確かだよ」
「なに」
「春咲さん、噂みたいな人じゃない」
他のことはともかく、これだけは確実に言えた。俺の言葉に、雄太は何も言わず、ぼーっと俺を見つめた。何が言いたいんだろう、と思う瞬間、彼は目を落とし箸でご飯を食べながら何気なく言った。
「そりゃよかったな」
「え? よかったって何が」
「お前が気になってる人が、そういう人じゃなくてよかった」
雄太は淡々と言い、ご飯を口に運んだ。俺はそんな彼をじっと見つめた。
「君…キモいね」
「うるせぇ」
雄太は自分の言ったことが照れくさかったのか余計に声を荒げた。
「黙って飯食えよ」
「すまないが。もう食べ終わった」
「もう?」
雄太は驚いたように、少し目を見開いた。俺は見せつけるように空の弁当箱を指さした。
「マジだ、もう全部食ったんだな」
「じゃあさっき言った通り、俺行くから」
俺は弁当箱の蓋を閉め、席を立った。
「マジで行くのか」
「もちろん」
そう言って教室を出ようとした、その瞬間。
あ、そうだ、薬。
俺はまた席に戻って鞄に手を入れた。雄太はきょとんとした顔で俺を見ていたが、無視した。
確かここに…あ、見つけた。
鞄の奥にしまっておいた薬袋が指先に触れた。俺は薬袋から一回分を取り出し、何も考えずに口に放り込んだ。そして苦味が口の中に広がる前に、急いで水で流し込んだ。
これでやることは全部やったし、早く屋上に
「おい」
今度こそ教室を出ようとした刹那、雄太の声が耳に刺さった。
「お前その薬、なんだ」
その一言に、俺はその場で体が凍りついた。
……やばい。
何も考えず雄太の前で薬を飲んでしまった。




