彼の大冒険
試験範囲は地図にはない大陸のように広がっている。それでも鉛筆の先は、物語の入口を指していて私を呼んだ。
ページの余白に、私は小さな主人公を一人、鉛筆で立たせた。
彼は消しゴムの丘を越え、蛍光ペンの川を渡り、参考書の森へ進んでいく。
試験範囲という名の森は、暗くて枝がややこしく、何度も足を取られる。
でも彼は止まらない。
理由は至って単純で、明日を生きるために、今日を学ぶ物語だからだ。
気づけば、ノートの端に並んだチェック欄が、彼の旅の道標みたいに見えた。
語句を一つ覚えるたび、彼は松明に火を灯す。問題を一つ解くたび、風がやさしく背中を押す。
彼が背負う鞄に、覚えた単語が一つずつ詰め込まれていく。
物語は、勉強の邪魔なんかじゃない。
同じ方向歩ける相棒だ。
夜更け、ページの角に満月のようなコーヒーの輪ができた。
彼はそこで足を休めると、私に向かって手を振った。
「大丈夫。ここまで来たなら、この冒険も終盤だ。きっとハッピーエンドになるよ。」
私は鉛筆を置いて、参考書を閉じた。
呼吸が少し軽くなる。
明日、試験が終わったら、この旅に本物の地名をあげよう。森にタイトルを、川には色を、彼にはちゃんとした名前を与えよう。
それまでのあいだは、チェック欄を灯して進む。
開いたノートの上で、彼は勉強と肩を寄せ合い、小さな焚火を囲んでいる。
そう思えたら、明日の試験はもう怖くない。
でも試験は明後日です。
さて、勉強しよ




