私は異世界から召喚された聖女玲奈。この世界で一生懸命、生きていきます。
家に帰る途中だった。
秋月玲奈は、高校2年生、スマホを弄りながら、のんびり歩く。
歩きスマホはいけないと言われているけれども、もうすぐ家だし、ちょっと位いいだろう。
だって、恋人の聡から、ラインが入っているのだもの。
「玲奈、明日、映画見に行こうぜ。そろそろ、デフェル魔物退治、公開から一週間経つし、すいていると思うんだよね」
「本当?主役のビケル様、かっこいいのよね。楽しみだわ」
「だったら、明日、10時に待ち合わせだ。いつものとこだな」
「時計台の下ね。了解―」
聡とは、1年間付き合っている恋人だ。
キスもまだだけど、そろそろキス位してほしいなぁって思う。聡はかっこいいし、背も高いし女の子達にモテるし、でも私一筋の所が大好き。
機嫌よく歩いていたら急に足元が光って、凄く眩しくなって。
気が付いたら見知らぬ場所に立っていた。
「聖女様だ。聖女様の召喚に成功したぞ」
「聖女様――。ようこそ、我が世界へ」
驚いた。変な恰好をした人たちが、玲奈の事を見ているのだ。
「ちょっと、ここはどこ?私、家に帰る途中だったんだけど」
キラキラの金髪のイケメンが近づいて来て、
「私はこの王国の王太子レイド。貴方を転移魔法で呼びよせた。ようこそ聖女様。我が王国へ」
「えええええっーーー?」
まずい。これって異世界に呼ばれちゃったの?よくラノベとかで見る異世界転移とか?そういう系?
どうしよう。これってきっと帰れない。
「私は帰れるの?私は何をすればいいの?私はどうなっちゃうの?」
レイドという王太子は、にこやかに、
「ただ我が王国の為に働いて下されば、貴方は癒しの力を持っているはずです。ああ、行っておきますが、戻れる方法はありませんから。それから、我が王国が貴方を召喚したのは秘密にしたい。色々ありましてね。皆、異世界人召喚には良い顔をしないのですよ。ですから、貴方は異世界から来たことを内緒で、私の為に働いて貰います。いいですね」
身勝手な事をペラペラと話すレイドという男。
許せなかった。
「これって誘拐よね。私は絶対に働かないから」
「だったら、食事も与えませんよ。お願いですから、しっかりと癒しの力を使って働いてく下さい。いいですね」
命令だった。今頃、帰って来ない自分の事を心配しているだろう。聡だって、あ、そうだ。スマホ。
圏外になっていて繋がるはずがない。
聡とのラインが残っていて、とても悲しくなる。
きっと二度と会えない。
玲奈は涙にくれた。
王宮の奥に押し込められて、神官長とやらが来て、癒しの力の使い方を教わるが、なかなかうまくいかない。
「やる気があるのですか?しっかりと働いて貰わないと困るんですが」
「でも、私は……」
帰りたい。こんな所に居たくない。帰りたい。
帰らせてよ。
毎日毎日、奥殿の窓から、外を眺める日々。
何日か経って、スマホの電源もつかなくなって、ベッドで涙にくれてた頃、癒しの力の使い方を教えてくれる人が別の人になった。
「わたくしは、聖女アシェリーナ。聖女教会で聖女をしています。貴方に力の使い方を教えるように命じられてきました」
「わ、私に?」
「あの、神官長。上から目線で何も教えていないでしょ。私が教えてやるから、しっかりと覚えな」
急に荒々しい言葉になるアシェリーナ。
見かけは金の長い髪に、青い瞳の美人なのに、言葉遣いが乱暴で。
玲奈は慌ててしまう。
「あの、私、覚えられるでしょうか」
「私に任せておきなよ。あ、くれぐれも異世界から来たことを人に話しては駄目よ。過激な集団が異世界人を嫌っているから」
「え?」
「本当にどの王族も異世界人を呼びよせやがって、屑だね。屑。あんた家に帰りたいだろう?」
思い出す優しい両親、好きな恋人、涙がこぼれる。
「帰りたい。ねぇ、帰れる方法はないの?」
「この世界の魔法陣は一方通行さね。どうしようもない。馬鹿達は異世界人を魔法陣で呼びよせたがる。アホじゃないの」
「帰れないのなら、私は聖女の力を覚えるしかないのね」
「ああ、私がついてる。私が守ってあげるよ」
アシェリーナは玲奈に向かって、
「さぁ、目を閉じて、気を感じて……見える?あんたには見えるはずだよ。この世界には気が充満している。その気を身体に取り込んでみな」
なんとなく感じる。聖女の癒しの気が何か。なんとなく解る。
それを身体に取り込んでいく。
アシェリーナの声がする。
「そうそう、そうだよ。上手だね。その気を、病んでいる人。怪我をしている人に分けてあげるのさ。そうすりゃ、彼らは元気になる。それが聖女の力だ」
「有難うございます。アシェリーナ様」
「なんてことはない。私はただ、金を貰ったから、教えに来たまでだ。聖女教会は金で動くのさ」
「へ?」
「生きていけないからね。まぁあんたも頑張んな」
アシェリーナは去って行った。
それからの玲奈は忙しかった。
高額な金と引き換えに王族は、貴族達の治療を引き受け始める。
力の使い方を覚えた玲奈は貴族の家を回って、色々な病や怪我を治療した。
「凄い聖女だ。まさか異世界から?」
慌てて玲奈は否定する。口止めされているのだ。王族からも、アシェリーナも言わない方がいいと言っていた。
「違います。私、力が強いみたいで。治ったならよかったです」
癒しの力を使うととても疲れる。
ベッドで四肢を投げ出して天井を見つめる。
この生活がずっと続くと言うの?
ガタっと音がして、誰かの気配がする。
立ち上がって音を確かめにドアに向かえば、ドアが開いて誰かに口をふさがれた。
そして、玲奈は気が遠くなった。
「お前は毒ではないのか?」
「人を大勢殺す毒女ではないのか?」
「異世界人は殺してしまえ」
「俺達の大事な人を殺したのが異世界人。殺してしまえ」
憎悪を感じて目を覚ませば、ガラの悪いムキムキ達がこちらを睨みつけていた。
その中では抜き出た金髪の美男が近寄って来て、
「お前は異世界人だな?異世界人は殺すことにしている」
すらりと剣を手にし、首筋に押し当てられた。
玲奈は慌てて、
「どうして異世界人を憎んでいるのですか?私は死にたくない」
男は、眉を寄せて、苦しそうに、
「異世界から召喚された勇者達が娼婦達に悪い病気をうつした。それで沢山の娼婦達が、女性達が亡くなった。俺達にとってその娼婦達はとても大切な……癒しをくれた女性だった。だから、だから、だからお前を殺すっ」
「ああ、お前を殺してやる」
「異世界人は毒だ。毒に決まっている」
「殺せ。殺せ。殺せっ」
その時、声がした。
「待ちなよ。あんたたち、本当に屑だね。アラフ。ゴルディル、エダル、マルク、他の連中も頭を冷やしな」
聖女アシェリーナだ。
アラフと呼ばれた美男は、アシェリーナに食ってかかる。
「お前に俺達の気持ちが解るかっ」
「ああ、解らないね。玲奈は悪い子じゃない。ただ異世界から連れてこられて利用されているだけだ。過去の召喚された連中はどうしようもない奴らだけど、玲奈は違う。それを見極めないで、異世界人だってだけで殺すのかい?おかしいじゃないか。アンタらの正義はどこいったんだ?」
「正義?俺の正義はメリーナの仇を取る事だ。勇者に病をうつされて亡くなったメリーナ。ああっ。メリーナ」
アラフが涙を流すと、他の連中も、
大男のゴルディルが、
「皆、きさくで良い連中で。俺の事を夜の帝王だって、おだててくれて。俺は女性不信だったんだが、彼女らのおかげで立ち直った。男として自信がついた」
触手をウネウネさせてマルクも、
「俺も俺も。皆が可愛がってくれた。やさしい人達ばかりだったよ」
エダルもしんみりと、
「いい女達だったな。俺達の癒しだった」
アラフが激高する。
「それなのに、異世界人はっ」
アシェリーナが叫ぶ。
「おだまり。アラフ。それから他のすっとこどっこい達も。玲奈が悪い異世界人かどうか、今度の魔物討伐に彼女を同行させたらどうだい?彼女の性格を見極めるんだ。騎士団長には私から言っておくよ。勿論、彼女は私が守る。いいね?これは決定だよ」
玲奈は驚いた。ムキムキ達はアシェリーナの剣幕に黙り込む。
アシェリーナは、玲奈に、
「こいつらは辺境騎士団。魔物討伐が本業だ。私は聖女教会からの要請で、金でこいつらの魔物討伐に同行している。今度の任務、一緒に連れて行くからそのつもりで」
玲奈は震えながら、
「魔物ってっ」
アラフが両腕を組んで、
「マラー王国の東の森にすむドラゴン。時々、森から出て来て人をさらっていくそうだ。そいつを討伐する」
アシェリーナがにんまり笑い、
「これはまた、高難度で。騎士団員は何人行くんだ?」
「第一隊20名と四天王だな。ドラゴン一匹ならその人数で足りるだろうって騎士団長が言っていた」
「よしっ。そして私と玲奈が何かあった時、怪我を治すって事だな。ドラゴンか。ドラゴンだな。楽しみだ」
ニマニマ笑うアシェリーナ。
玲奈はドラゴンってどんなのよっ。と震えるのであった。
ドラゴンはでかかった。
目が合うと、炎を吐きかけてくる。
アシェリーナが障壁を張って、玲奈を守ってくれる。
他の騎士団員達も炎を防ぐ強力な魔法の盾を持って、防いでいるが、玲奈は怖くてアシェリーナの後ろで震えていた。
アシェリーナが玲奈に向かって、
「凄いドラゴンだ。怒り狂っている。連中も苦戦しているな」
そこへ、ビルドレットと言う最近、第一隊に入った新人のおっさんが、
「お前らアホか。俺が首を落とすから、援護しろっ」
第一隊長のガルディルが叫ぶ。
「ビルドレットっ。隊長は俺だーーー」
「硬い事、言うなよ」
四天王達も、
「俺達も援護するっ」
「ビルドレッド、首を落とせっ」
マルクが触手を伸ばして、ドラゴンを拘束する。
皆がドラゴンに向かって、攻撃を仕掛ける。
そして、ビルドレッドが飛び上がり、見事、ドラゴンの首を打ち落とした。
どさっと落ちるドラゴンの首。
玲奈は悲鳴を上げた。
だってこのドラゴン、白目を剥いていて、でかいっ。
アシェリーナが玲奈に向かって、
「怪我人がいるようだ。私達の仕事をしよう」
「はいっ」
怪我人はエダルという四天王の一人と団員3人が、ドラゴンの攻撃でやけどを負っていた。
アシェリーナはエダルの腕の火傷を聖女の力で治す。
玲奈も他の隊員たちの火傷を、聖女の力で治した。
アラフが玲奈に向かって、
「凄い力だな。お陰で仲間の傷が治った。有難う」
玲奈は首を振って、
「アシェリーナさんのお陰です。力の使い方を教えてくれて、私を守ってくれました」
アシェリーナは笑って、
「いやいや、玲奈がとても真面目でいい子だから、私も教え甲斐があるよ」
楽しい時間を騎士団員達、アシェリーナと共に玲奈は共有した。
沢山の貧しい人たちが怪我や病気で苦しんでいる。
聖女達は神殿で、その人達を治す活動もしているのだ。
ただ、貧しい人達からお金は取れない。だからアシェリーナのように危険な仕事も引き受けて高額な報酬を貰う事も時には必要なのだ。
玲奈は神殿で働き始めた。
召喚した国とは違う国の神殿。
皆、貧しくて医者にもかかれなくて。
玲奈の怪我や病を治す力で、健康になった人々は皆、玲奈に感謝して帰って行く。
玲奈はこの仕事にやりがいを感じた。
そんな中、召喚した王国のレイド王太子が、部下達と共に訪ねてきた。
「迎えに来てやったぞ。我が王国に帰るがいい。お前は我が王国の物だ」
玲奈は断固拒否をする。
「私の居場所はここです。貴方の国に帰りません」
アシェリーナが、ずいっと玲奈の前に出て、
「玲奈はこの神殿の聖女になった。お引き取り願おうか」
「我が王国が召喚し……」
「関係ないね。玲奈はここにいたいと言っているから」
玲奈は頷いて、
「私の居場所はここです。帰れないのなら、ここで働いて生きていきます」
レイドは部下達に、
「無理やり連れて行く」
そこへ神殿を守る兵達がレイド達を取り囲んだ。
神官長が、
「困りますな。我が神殿の聖女に狼藉を働いては」
「しかし、この女はっ」
ずいっとムキムキ達が現れて、
その中から美男のアラフが、
「神官長、この男、俺達が貰ってもいいかな?」
「どうぞどうぞ。この男の国は離れているから、行方不明になってもぜんぜん大丈夫」
「部下たちはどうする?」
「10人はいるぞ」
神官長はニマニマして、
「鉱山にでも送っておきますよ。ですから、そこの美男の屑はどうぞお持ち帰り下さい。何事も持ちつ持たれつ」
アラフは皆に向かって、
「では、この美男の屑を貰っていくぞ」
「土産だ。土産だ」
「美男の屑だーー」
レイドは、辺境騎士団員に簀巻きにされた。
他の連中も神殿の兵士に捕まって、縛られた。
アラフは、玲奈に向かって、
「あんたは悪い人じゃない。一生懸命、働いて沢山の人を救っている。頑張れよ」
「有難うございます」
とりあえず頭を下げておいた。
アシェリーナに時々、相談する。
無性に両親や、恋人だった聡が懐かしく感じる夜は眠れないから。
ベッドに座って、アシェリーナに辛い胸のうちを吐き出す。
アシェリーナは、
「異世界人の召喚を止めることはできない。あまりにもその技術を持っている王国が多いからだ。でも、あんたの涙を見ていると、このような愚行がなくなればいいと私も思うよ」
頭を撫でてくれた。
私は異世界から来た聖女玲奈。
今はただ、この世界で生きていくしかない。
大きな力で沢山の人達の怪我や病気を治す事。
これからも頑張って生きていこうと思う玲奈であった。