鋼鉄の要塞、目覚める
これはこの物語の次の章です
ひきこもりの長瀬大樹は、自分の部屋にいた。
そこは彼にとって一番好きな場所であり、おそらく唯一安心できる場所だった。
ここにいれば、自由でいられる気がした。
本をめくっていると、ふと過去のことが頭をよぎった。
子供の頃、父親が亡くなった。
母親は一年の喪に服した後、再婚した。
新しい義理の父は「外から来た人間」だった。
突然生活に入り込んできたその男は、大樹にひどく当たった。
そのせいで、大樹は外の世界が怖くなった。
だから、家に引きこもるようになった。
ここは大樹にとって「要塞」だった。
この「要塞」の中では、誰にも傷つけられない。
ここにいれば、自分は強くいられる。
その夜は満月だった。
突然、地面が揺れるような轟音が響いた。
驚いて窓の外を見ると、目を疑う光景が広がっていた。
巨大な鋼鉄の巨人が立っていた。
その姿は、鷲のような頭と羽毛に覆われた体を持っていた。
大樹は恐怖に駆られ、部屋を飛び出そうとした。
だが、巨人は大樹を掴み、そのまま口の中へと飲み込んだ。
――死んだのか?
そう思った瞬間、目を開けると、そこは意外にも“家”のような空間だった。
室内には緑色の光が淡く揺らめいていた。
「新規ユーザー、名前をおっしゃってください。新規ユーザー、名前をおっしゃってください。」
突然、機械の声が響いた。
何が起きているのか分からなかったが、大樹は思わず自分の名前を口にした。
「……長瀬大樹。」
「長瀬大樹。プログラム『ファミン・ブラック』、起動。」
声がそう告げると、目の前にコントロールパネルが現れた。
それは、巨人――いや、ロボット『ファミン・ブラック』を動かすためのものだった。
大樹はパネルを触り、いくつかの操作を試してみた。
まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のように、次第に夢中になっていった。
――これだ。
気づけば、大樹は確信していた。
このロボットは、新しい「要塞」だ。
家よりも、はるかに強く、はるかに頼れる「要塞」だった。
これさえあれば、もう家に閉じこもる必要はない。
これさえあれば、世界中どこへでも行ける。
これさえあれば、もう誰にも傷つけられることはない。
大樹はファミン・ブラックと共に、堂々と夜の街へ繰り出した。
もう何も恐れるものはなかった。
大樹は外の世界へと踏み出した。
まるで新たな大地を踏みしめる征服者のように、堂々とした姿で。
この章を楽しんでいただければ幸いです。残りの章も近々アップロードします。